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卒業〜捺の高校卒業の日〜

「ど、どうしたの、その格好?」 ボタンもネクタイもない、乱れた制服姿で帰宅した捺くんに俺はびっくりして立ちつくした。 「あー、これ。後輩のこたちにやられちゃって」 苦笑しながらボタンのついていないブレザーのジャケットをひらひらさせ靴を脱ぐ捺くん。 「……そ、そう」 今日は捺くんの高校生最後の日。 卒業式だった。 捺くんはもちろん姪の実優も卒業なので、午前中だけ仕事を休んで卒業式には列席した。 午後は捺くんたちはクラスで打ち上げがあるということだったから仕事に戻って、だけど夜はお祝いをしたかったので定時退社して帰って来た。 俺がついて少ししてから捺くんも帰宅したのがいま。 「大変だったんだね」 「んー。女の子って可愛いけど集団になると怖いよねー」 「……そうだね」 いったいどれくらいの子たちに囲まれたんだろう。 告白もされたんだろうか。 されたよな、きっと。 そういえばボタンってあれじゃなかったっけ、確か第二ボタン。 もう10年以上前になったしまった自分の卒業式を思い出す。 捺くんのようにすべてのボタンがなくなる、なんてことはなかったけれど第二ボタンをほしいといわれたことはあったな。 いまもそういう風習残ってるんだ。 そんなことを考えながらちらり見た捺くんの制服にボタンは全部ない。 「……」 捺くんはもてる。 それは最初から知っていたことではあるし、しょうがない。 それに一回り年上の俺がそんなことくらいでグダグダいうのも情けないよな。 捺くんに好意を持つ子たちは卒業してしまえば校内で捺くんに会うことはなくなってしまうんだし。 身につけているものを記念に欲しがったとしても、しょうがない。 きっと女の子たちにもみくちゃにされたんだろう捺くんの姿を想像すると大変だったんだなとしみじみ思えるし―――。 だけど、ある種女の子たちにとって特別な第二ボタンはどういう基準でどういった子の手に渡ったんだろう……。 いや、もしかしたら勝手に取られたのかもしれないし。 いや、別に気にしてるわけじゃないけれど……。 「優斗さん」 俺は本当になにを小さなことを考えてるんだろう。 自分に呆れて―――……。 「優斗さーん!」 「……え? あ、なに?」 腕を引っ張られて、ようやく捺くんが俺を呼んでいることに気づいた。 まだ玄関先。 どうやらぼうっと突っ立ってしまっていたらしい俺は平静を装いながら笑いかける。 「うん、あのこれ。もらって?」 どこか照れくさそうにそう言った捺くんがポケットからなにか取り出して俺に握らせた。 小さな硬いもの。 掌をあけて見ると―――ボタン。 「……え?」 「あー、えと、第二ボタンってやつ。第二ボタンはさ、やっぱ俺が好きな人に持っててほしいから」 「……」 「って、こんなボタン、優斗さんにはどうでもいいと思うけど」 「……」 「でも、優斗さんがもらって? ね?」 はにかみながら捺くんは微かに頬を赤くして笑って、俺にキスしてきた。 とっさにその身体を抱きしめる。 「もちろん。大事にするよ」 貴重な捺くんの高校時代の欠片。 ただのボタンなのかもしれないけれど、いい歳して乙女思考かもしれないけれど。 バカみたいに喜んでいる自分がいる。 そうしてこんな可愛いことをしてくれる捺くんが愛おしくて、まだ廊下だというのに壁にその身体を押し付けて深いキスを返した。 「……ん…」 舌を絡めあわせながら、熱を分け合うようにキスに没頭してそのまま寝室に滑り込んだ。 「捺くん……卒業おめでとう」 「ありがとう」 笑いあいながら、制服のままの捺くんとベッドにもつれこんで。 もうこの制服を着ている捺くんを見るのも最後なんだと感傷に浸りながら、熱に溺れていった。 おわり☆
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