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夏祭り編 第1話
今日は花火大会がある。
夏真っ盛りの夜は昼よりもそりゃ暑くないけど涼しくもない。
蒸し暑くてじんわり汗が出てくる。
「あちー」
うちわをパタパタあおいで風を送りながら花火大会のある川辺へと向かって歩いていた。
「そのうち涼しくなるよ」
「そうなの?」
隣にいる俺の年上のめっちゃ優しくてイケメンな彼氏の優斗さんは涼しげな顔をしてる。
「着なれないから暑いー」
「でも似合ってるよ」
目を細め言われて照れくさくなりながら顔が緩んだ。
「優斗さんのほうが似合ってるよ! すっげぇ色っぽい!」
俺と優斗さんは浴衣を着ていた。
お袋が用意してくれた浴衣で、優斗さんは白と紺の太め縦縞ので俺は黒地に白の格子柄。
もう本当に優斗さん似合いすぎててヤバイ。
浴衣っていつもより色気出る気がするし、大人の魅力っつーか、もうほんとマジでカッコイイ!
通り過ぎる見知らぬお姉さんやら女の子やらチラチラ見てくるし!!
「そうかな? 捺くんのほうが似合ってるよ」
いや、優斗さんのほうが!、って言いあいしたらキリねーし、優斗さんに褒められるのは嬉しいからヘラヘラ笑っちまう。
手繋ぎたいけど人混みだし我慢して、そのかわりちょっとだけ距離は近く歩いて行った。
「あ、露店だ。なんか買おうよ」
「そうだね。なにがいいかな」
「焼きそばとー、クレープも食べたい! あとは~」
どこも行列ができてる露店を見渡しながら目についたジャンボフランクフルトの文字。
……ジャンボフランクフルトか。
俺がまだ高校生だったころこうして花火大会に来て優斗さんが食べたことがある。
あの時はヤバかったなー。
デカくて熱々だったフランクフルトに優斗さんが悪戦苦闘して噛み切れなくってさー。
『っ……ん、あつ……っ。……ちょ、捺くん……これ大きい……っ、ん』
とか言って……。
その時も浴衣姿だった優斗さんはもう色っぽいとかレベルじゃなくて、我慢できずに結局花火も見ずにとりあえず公衆トイレで抜いて、そのあとすぐラブホに行ったんだよなー。
懐かしい。
「あとは?」
昔のこと思い出して言葉が途切れてた俺の顔を覗き込んで優斗さんがほほ笑みかけてくる。
「……え、えーと」
それはそれで楽しかったけど、花火はやっぱり楽しく見たいからってことで次の年からは避けていたジャンボフランクフルト。
んー、どうしよう。
悩む俺は視界をめぐらせて―――止まった。
「アイス!」
昔懐かしのアイスキャンデーってフレーズで棒アイスが売ってある。
棒アイス……。
ジャンボフランクフルトより小さいし、熱くないし。
だけど棒ってとこにちょっとだけ邪な気持ちがないって言えば嘘だけど。
ジャンボフランクフルトよりは平気だろ!
「じゃあ買いに行こうか」
「うん!」
俺は安易な気持ちでアイスにしたことを後悔することになる―――まであと15分。
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