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第19話「拒絶」*彰

「……っ……」  ……キスする、とか……。  それだけだって、いけない、と思ってた。  ……だめだ、オレ……。  仁が愛しくて……全然ちゃんと、拒めなくて。  こんなのおかしい、こんなの、普通じゃない、  父さん母さん達に後ろめたいとか……。  もう、死ぬほどに色々思ってたのに。  仁の事…… 愛しすぎて……とか……。  一番やばいのは、オレな気がする。  そもそも、オレ、なんでキス、拒めない?  寛人にも何度も言われた。普通はもっと拒否するって。  寛人のキスは…… 全力で、拒否れたのに。  仁にも今、同じこと、言われた。  ……ほんとは……自分でだって、思ってた。  ……仁が、可愛くてって、なんだよ、それ。  高校生になった和己にキスされても、オレ、おんなじこと、言えるか?  ……そんなの、絶対無理。  じゃあ、仁は、なんでいいんだよ……。  そこはもう……。  それ以上、深く考えては、いけない気がする。 「…………仁……っ!」  その瞬間。 仁の体を、初めて本気で、引き離した。 「……っ……あきら……?」  傷ついたみたいな、仁の顔に、胸が締め付けられるみたいに痛い。 「……もう……これ以上は、絶対、無理」 「……あき」 「……お前の……ものになんて、なれない……っ」  言った瞬間。感情が溢れすぎて……。  我慢してた、涙が、あふれ落ちた。  ただ、切なくて…… 痛くて。  止められなかった。   けど構わず、続けた。 「……っ……絶対、なれない……!」  そんなことしたら……。  仁が、普通に生きていけなくなっちゃうじゃんか。  オレなんかと、ほんとにそんなことになったら。    幸せな仁の姿が、何も見えない。  もう……絶対、だめだ。  ……自分の気持ちは、分からない。  なんで仁ならいいのかとか、抱き締められて感じる、苦しさも。  もう何も分からない。  もう、分からないけど……。  とにかく、これ以上は、もう、絶対ダメだ。 「オレは、仁のものになんか、絶対、ならない」  強く言ったオレに、仁は、辛そうに、顔を歪めた。  胸が痛くて痛くて、 どうしようもないけど……。  今、この仁を抱き締めちゃ、ダメなんだ。  自分に言い聞かせるように、強く、ダメだと唱えて。 「絶対に、無理だから。 二度と…… この話は、しないで」 「……」 「今度キス……したら…… 一生、口きかない」 「……」 「オレは お前のこと、弟として……大好きだから」 「……」 「……これで、こういうことは、終わりにしてよ……頼む、から……仁……」  俯いて、そう言ったら。  そのまま、仁は、何も言わなくて。  しばらくして。仁が手を、離した。  俯いたオレの、視線の先で、仁がその手をぎゅ、と握りしめたのが見えた。 「……それでも……」 「……」 「……彰が無理だとしても、オレは…… 彰しか、好きじゃない」  ……仁の言葉が、突き刺さるみたいに、痛い。 「…… 仁 ……ごめん……」 「……謝るなよ。オレが彰を好きなだけだから。……彰は、悪くない」  言われて、切なすぎて、胸が苦しすぎて……。  もう、何も、言葉に出ない。 「……話は分かった。もう、彰には言わないから。……安心して」  そう言うと、仁は、オレをドアの前から少し離して。  部屋を、出ていった。  力が、抜けて。  その場に、しゃがみこんだ。  彰が無理でも、彰しか、好きじゃない。  もう、彰には、言わない。  仁は、そう言ってた。  オレしか好きじゃないけど、もうオレには言わない。  ……それって……また隠したまま、生きてくってこと……?  涙が、あふれ落ちてくる。  不意に浮かんだ、ある決意は。    このままここには、居られない。  もう、それだけ、だった。 後書き ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ここから、大学生編になります。 ここからは、基本、彰視点になります。

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