19 / 136
第19話「拒絶」*彰
「……っ……」
……キスする、とか……。
それだけだって、いけない、と思ってた。
……だめだ、オレ……。
仁が愛しくて……全然ちゃんと、拒めなくて。
こんなのおかしい、こんなの、普通じゃない、
父さん母さん達に後ろめたいとか……。
もう、死ぬほどに色々思ってたのに。
仁の事…… 愛しすぎて……とか……。
一番やばいのは、オレな気がする。
そもそも、オレ、なんでキス、拒めない?
寛人にも何度も言われた。普通はもっと拒否するって。
寛人のキスは…… 全力で、拒否れたのに。
仁にも今、同じこと、言われた。
……ほんとは……自分でだって、思ってた。
……仁が、可愛くてって、なんだよ、それ。
高校生になった和己にキスされても、オレ、おんなじこと、言えるか?
……そんなの、絶対無理。
じゃあ、仁は、なんでいいんだよ……。
そこはもう……。
それ以上、深く考えては、いけない気がする。
「…………仁……っ!」
その瞬間。 仁の体を、初めて本気で、引き離した。
「……っ……あきら……?」
傷ついたみたいな、仁の顔に、胸が締め付けられるみたいに痛い。
「……もう……これ以上は、絶対、無理」
「……あき」
「……お前の……ものになんて、なれない……っ」
言った瞬間。感情が溢れすぎて……。
我慢してた、涙が、あふれ落ちた。
ただ、切なくて…… 痛くて。
止められなかった。
けど構わず、続けた。
「……っ……絶対、なれない……!」
そんなことしたら……。
仁が、普通に生きていけなくなっちゃうじゃんか。
オレなんかと、ほんとにそんなことになったら。
幸せな仁の姿が、何も見えない。
もう……絶対、だめだ。
……自分の気持ちは、分からない。
なんで仁ならいいのかとか、抱き締められて感じる、苦しさも。
もう何も分からない。
もう、分からないけど……。
とにかく、これ以上は、もう、絶対ダメだ。
「オレは、仁のものになんか、絶対、ならない」
強く言ったオレに、仁は、辛そうに、顔を歪めた。
胸が痛くて痛くて、 どうしようもないけど……。
今、この仁を抱き締めちゃ、ダメなんだ。
自分に言い聞かせるように、強く、ダメだと唱えて。
「絶対に、無理だから。 二度と…… この話は、しないで」
「……」
「今度キス……したら…… 一生、口きかない」
「……」
「オレは お前のこと、弟として……大好きだから」
「……」
「……これで、こういうことは、終わりにしてよ……頼む、から……仁……」
俯いて、そう言ったら。
そのまま、仁は、何も言わなくて。
しばらくして。仁が手を、離した。
俯いたオレの、視線の先で、仁がその手をぎゅ、と握りしめたのが見えた。
「……それでも……」
「……」
「……彰が無理だとしても、オレは…… 彰しか、好きじゃない」
……仁の言葉が、突き刺さるみたいに、痛い。
「…… 仁 ……ごめん……」
「……謝るなよ。オレが彰を好きなだけだから。……彰は、悪くない」
言われて、切なすぎて、胸が苦しすぎて……。
もう、何も、言葉に出ない。
「……話は分かった。もう、彰には言わないから。……安心して」
そう言うと、仁は、オレをドアの前から少し離して。
部屋を、出ていった。
力が、抜けて。
その場に、しゃがみこんだ。
彰が無理でも、彰しか、好きじゃない。
もう、彰には、言わない。
仁は、そう言ってた。
オレしか好きじゃないけど、もうオレには言わない。
……それって……また隠したまま、生きてくってこと……?
涙が、あふれ落ちてくる。
不意に浮かんだ、ある決意は。
このままここには、居られない。
もう、それだけ、だった。
後書き
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ここから、大学生編になります。
ここからは、基本、彰視点になります。
ともだちにシェアしよう!