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第43話「痕」

 家に帰ったら、もう、仁が先に帰っていて、玄関で出迎えられた。 「遅かったね。どこ行ってた?」 「んー……人と会ってた」 「……そっか」  少し、間があく、返事の仕方。  仁が、いつもこういう返事をする奴なのか。  ――――……何か、言いたい事が、そこに、入ってるのか。  仁が来てから、何回か気になるけど……。  ――――……でも少し気になっただけで、終わる。  仁は、昔の可愛い弟に、戻ってる。  優しいし、少し頼れるようにもなった、弟。  おかしな事も言わない。  灼かれるみたいな視線で、見つめられる事も、無い。  これから――――…… 少なくとも、オレが卒業するまで、二年はきっと、一緒に暮らすことになる、家族。  ……弟。家族。   「あ、そうだ。さっきベッド届いたから、部屋に入れてもらった」 「そうなんだ。どこに置いた?」 「とりあえず窓際」  仁の部屋を覗きに行くと、今まで何もなかったその部屋に、大きなベッドがひとつ。 「明るい方が目、覚めるから」 「そっか。――――……あ、母さんからの段ボールも来たんだね」 「ん」  部屋の隅に段ボールが積まれてて、いくつか開いていた。 「ベッド下の収納と、クロ―ゼットで洋服とかは片付きそうだよ」 「じゃあ衣装ケースみたいなのは買わなくて良さそう?」 「うん。あ、あとさ、シャツ買ってきた」 「シャツ? あ、塾の?」 「ん。こんなんでいいよね?」  買ったままのビニール入りのシャツを差し出されて、仁に近づいて受け取った。薄いブルーのと、ストライプと、白。 「とりあえず三枚あれば足りるかなと思って」 「うん。いいんじゃないかな。これ一回洗濯してアイロンかけた方がいいから……洗濯機入れちゃうね」  ビニールを開けながら、そう言うと。 「……いいよ、やる」  手から、それが取られた。  何だか、急に無表情な感じの仁に、不思議に思っていると。 「――――……彰、あのさ」 「……?」 「首のあと、ちょっと目立つ……」 「――――……?……あ。……」  あ、さっきのか……。  とっさに、さっき吸われたあたりを隠す。 「近づくとすぐ見えるよ」 「――――……」  言いながら、シャツを袋から出し終えて。 仁は、ふと笑った。 「中学生には、刺激強いんじゃね?」 「――――……気を付ける」  何とかそう言って、首元のシャツを少し、上げた。 「オレ、今から夕飯作る。彰、なんかやる事ある?」 「……明日の授業の準備、少しする」 「そっか。少しって?」 「十分位。終わったら手伝いに行くよ。あと、明日もバイトだから、シャツ、今洗濯機入れといて。あとで、オレのと一緒にアイロンかけるからさ」 「ん。分かった」  返事を聞いて、仁の部屋を出る。  自分の部屋に入って、カバンを、掛けて。  中から塾の教材を、机に置く。  ――――……鏡をのぞき込んで、首元を確認。  はー。最悪……。……オレほんとに、キスマーク残りやすい。   亮也のもなかなか消えないもんな……。

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