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第45話「良い関係」

 仁のバイトが始まって、一週間が経った。  仁の動きが驚くほどスムーズで、やりやすい。  勉強は教えていたから飲み込みが良いのは知ってたけど、自ら考えて動けるかどうかは知らなかったし、知る機会もなかった。  忙しい時とか、何人かサポートのバイトが入った事もあったけど、むしろ余計に手間がかかったりして、慣れるまでは時間がかかったのに。  仁は、初日から楽だったっけ。  やるなぁ、仁……。   というのが、率直な感想。  オレが大学に入ってすぐの頃、大学のバイト募集の掲示板に、家から歩いて行ける塾の講師の案件があって、軽い気持ちで電話で問い合わせた。真鍋先生の柔らかいけれど強い押しに負けて、その日の内に面接になって、雇われることに決まった。  もうすぐ丸二年。社員以外の入れ替わりはかなりあるので、バイトの中では長い方になっている。  もう、社員に助けを求めなくても、自分の業務は滞りなくこなせる。  仁なら、すぐできるようになりそう。  向いてるかもなぁ……。 生徒にも人気ありそうだし。  十分間の休憩時間。トイレ休憩と息抜きなのだけれど、仁は教室の途中で、女子生徒ばかりか、男子生徒にまで囲まれていた。  笑うと優しいし、人懐こそうな顔になるから、好かれるし。  昔から、仁は人気あったよなー……。 「彰先生、聞いてる?」 「……あ、ごめんね。もう一回言ってくれる?」  いけない、すっごいぼーっとしてた。  オレも今、質問されてたんだった。  気を取り直して、生徒たちと向き直る。  ――――……涙腺がおかしくなったあの日から、一週間が経った。  とにかく、意味も分からないけれど、かなり不安定になるから、そういう行為をするのはやめようと決めた。  改めてちゃんと考えたら、したい時にするだけの関係を、全然良いとも思えてなかったし。  なんでそんな事してたんだっけ、と、改めて考えたりした。  結果、何でしていたか、はっきりとは自分でも分からなかったけれど……。  ただ、何となく――――……一人に決めて、自分だけ幸せになる訳にはいかないと思っていたから、な気がした。  それはやっぱり、仁の事があったから、だったのかもしれない。  だとしたら、もう、そんな風に考えなくて、良くなった訳で。  それに、仁が家に居て誰も呼べなくなるし、泊まりに行く理由づけも面倒だし。  いろんな理由で、セフレの関係を、自分の中で無くした。  多分、こちらから声を掛けなくなって、向こうからの誘いを断っていれば、自然と解消する。  女の子は飲み会で知り合った、普段あまり関わらない他大学か、他学部の子がほとんどで、関係がどうなってもあまり問題がなかった。  亮也だけちょっと特別で。同じ学部で一緒の授業も多いし、一番会う回数が多くて関係が密だったから、自然消滅みたいなやり方での解消は無理だから。  ……ちゃんと、話、しないとな……。  そう思いながら、亮也の誘いも、他の誘いも、全部断って、一週間。  春休みなので、特別用事もないし、敢えて作る事もしてないので、塾のバイト以外は、ほとんど、仁と居る。  ――――……仁と居る時間が、すごく長い。  おかげでやっと少し、慣れてきた。  あの日、仁と、笑って過ごそうと決めて。  余計な事を考えないように、心に決めて。  バイト帰りに買い物して帰って、一緒に料理をしたり。  三食ほぼ一緒で。  二年間何の連絡も取ってなかったことが嘘みたいな、急激な接近。  オレが意味不明に泣いてたからなのか、仁は何だかやたら優しくて。  ……気を遣ってるのが分かって。  オレは、気を遣わせないように、元気に振舞う。  少し、無理はしてるような気はするけれど、  でも、そのおかげで、仁との関係は、良い。  今、すごく仲の良い、兄弟、な気がする。  兄弟というか……男友達みたい、な気もする。  表面から見れば、文句なしに、とても仲の良い関係だと、思う。

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