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第46話「帰りたい」
塾のバイトを終えて、仁と二人でエレベーターで一階に下りる。
「彰、昼、何食べたい?」
「んー……仁食べたいものある? オレは何でもいいや」
「外で食べてく?」
「それもどっちでもいいよ」
「じゃあ、どっか外で――――……」
仁が何か言いかけたその時。
「――――……?」
仁の方向に、何だかまっすぐこっちを見てる気配の人が見えて。
気になってふと、焦点を合わせたら。
あれ。寛人……?
思った瞬間。
「彰」
呼ばれて、こちらに近付いてくる。
「寛人――――……」
オレがそう言うと、「え?」と声を出して仁はオレを見て。。
それから、隣に立った寛人に視線を向けた。
「――――……あ。……生徒会長?」
仁のその言葉に、寛人は苦笑い。
「結構昔の話だけど……仁も、二個下の生徒会長だろ?」
「仁って……オレの名前知ってるんですね」
「お前は覚えてないかもだけど、ガキの頃、彰のクラスに遊びに来てたろ。仁、て呼んだ事も結構あるぞ、オレ」
「あー……っと…… すみません、覚えてないかも……。 片桐さん、ですよね。こっちに居たんですね」
「そうだよ。 ……って、別に彰と合わせた訳じゃねーぞ。たまたまだ」
「……分かってますけど……」
仁が、ふ、と寛人に視線を流して。
寛人と仁が微妙に見つめあってるのを、思わず眉をひそめて眺めてしまう。
「何それ、どんな会話……?」
聞くと、寛人は苦笑いでオレを見る。
「いや。別に…… なんか仁は、そう思ってるのかなーと思って」
「別に。思ってないですよ。たまたま、ですよね」
「ああ。たまたま」
「――――……」
またそこで、二人して、無言。
……かみ合ってんだか、かみ合ってないんだか。
ほんと、なんなの、その会話。
「寛人、どーしてここにいんの?」
「ああ。バイト先の研修がこの近くだったから、お前と昼飯食おうと思って、朝連絡入れたんだけど。既読つかねーし、もうなんか一人で食おうと思って店探してたとこで、お前見つけた」
「あ、そうなんだ。ごめん、今塾のバイト終わったとこで。全然スマホ見てなかった」
「お前らもこれから昼?」
「うん、そうしようと思ってて……」
どうしようかな、仁はきっと寛人と一緒はやだよな。でも今の今まで仁と一緒に食べる話してたし。と、思った瞬間。
「彰、オレ先に帰ってるよ」
その仁の言葉に、オレが反応するよりも先に。
寛人が、仁をまっすぐ見つめて。
「いいじゃんか。一緒に食べようぜ、仁」
「は?」
「え?」
怪訝そうに眉をひそめた仁の一言と。
意味が分からず漏れたオレの一言。
ものともせずに、寛人は、続けた。
「こんな機会も二度とねーかもだし。どうせ二人で食べようとしてたんだろ?」
「――――……」
何言ってんだ、寛人……。
オレ、この三人で食事、食べる気は、全然しないんだけど。
「オレが一緒だと都合悪いことでもある?」
寛人が、仁に視線を流して、そんな事を言う。
――――……そんな言い方で言ったら、きっと仁は……。
「別にないし。……いいよ、じゃあ、彰、どっか入ろ」
案の定、そう答える。……ちょっとムッとした感じで。
……絶対、寛人は、分かってそんな言い方で聞いたに違いない。
「よし、そうこなくちゃ――――…… 彰、どこ行く?」
二人して、オレに行先を委ねて、全任せ。
「……オレ、帰ろうかな」
ぼそ、と漏れた本気の一言に。
「「は? 何言ってんの」」
こんな瞬間だけ、ばっちり気が合って、同時に突っ込まれる。
いや、冗談だよ。
……冗談だけど――――…… 帰りたいのは、ほんと。
仁は、昔から、アンチ生徒会長で。オレが寛人の名前出すと、あんまり良い顔しなかったし。
寛人は、オレと仁の事知ってて――――……今は、もう大丈夫って伝えてあるけど、絶対、この感じ、何かオレには良く分かんない事、考えてるに違いない。
いやだいやだ、帰りたい。
店を探しながら、歩いている時。少し、前を行く寛人の後ろで、仁を見上げて、こっそりと。
「仁、あの……気まずかったら、帰ってもいいよ??」
「は? 嫌だよ。都合悪いとか訳わかんねーし。行くから」
「……」
だよな……。
――――……もう。寛人は、仁のこういう性格、お見通しであのセリフを吐いたに違いない。
……寛人、ほんと……相変わらずだな……。
憂鬱な食事場所、せめて静かじゃない場所にしようと思って。
家族連れでにぎわってるだろうファミレスを提案してみた。
「ファミレス?いーけど……」
「どこの?」
「どこでもいい。決めて」
――――……なんか。
言った通り、ファミレスに決まってくれても、
……帰りたくてしょうがなかった。
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