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第59話「考えたくない」

 仁が考えてる間。  頬杖をついて盤を見てる仁を、何となく眺める。  ふふ。真剣な顔。  手を抜くとバレるから、抜かないけど。  ……勝たせてあげたくなってしまう。 「――――……」  仁が石を置いて、こっちに顔を上げるので、オレもまた考える。  仁、強くなった気がする。  やってたのかな、オレとやらなくなってからも。 「――――……」    今、仁と居ると――――……楽しい。  ……また元どおりになれて、ほんとに、良かった。  このまま、ずっと、こんな風に居れたらいい、よな……。    と、そこで、ふ、と止まった。  ……ずっと……。  ……ずっと、って…… いつまで、だろ?  ……何を、考えるんだっけ、オレは。  ――――……仁に迫られてたあの頃のこと……。  ……何でオレが、その手を振りほどけなかったか、てこと。  全部考えることを拒否して――――…… 逃げた、理由。  そして、二年以上も、  まともな恋愛もしないで、適当にしてきた意味……だっけ……??  ……そんなの――――……分かんないな……。  今更過ぎて、分かんない。 「……彰?」 「……え?」 「彰の番だよ?」 「あ。うん」  あ、今、どこに置いたか見てなかった。  ぼーっとしてた。 「……ここ、置いた」  仁が、ぽん、と指で指してる。 「あ、いいのに。言わなくて。見てなかったのが悪いんだし」  言ったら、仁は、ぷ、と笑った。 「昔、オレがぼーとしてた時、よく教えてくれたじゃん」 「――――……そうだっけ?」 「そーだよ」  クスクス笑いながら、仁が「早くやって」と言う。  あんまりそんな記憶、ない。  ……覚えてない事も、きっといっぱいあるんだろうな……。  黒石を置いてから、また考えてる仁を眺める。  ほんと。  真剣。  ――――……昔、向かい合ってた時は、まだ子供っぽくて。  真剣だけど、楽しそうな表情で、盤を見てて。  負けると毎回すごく悔しそうで。    もう――――…… 子供っぽいとこは、無いな。  なんかもう、全然、違う。  静かに、石を置いて。ひっくり返して。  結局、少しの差で、オレが勝った。 「ちぇー。また負けた」 「仁、強くなった気がする。 オセロやってた?」 「ネット対戦はしてた。受験の息抜きで。オレ、強くなってる?」 「うん、なってる。気抜いたら負けそ」 「また今度やろ」 「……もう一回って言わないんだ?」 「ん。今はいいや」 「――――……じゃまた時間ある時、やろ」 「ん」  仁が手早く石を重ねて、片づけてく。 「仁、コーヒー、もっかい淹れようか? 冷めちゃったし」 「……じゃあ、カフェオレがいいな」 「分かった」  オセロの片付けは任せて、コーヒーを淹れに立ち上がる。  仁は自分の部屋に、オセロを置きにいった。  静かになった部屋に、お湯を沸かす音だけ。  やっぱり、昔の事をほじくり返して考えるのはやめたい。  どうせ、思い出して考えたって、もう、関係ないし。もう、忘れたい。  忘れて――――…… これから、どう、過ごせばいいか。  考えればいいんじゃないのかな。  さっき別れたばっかりなのに、今寛人と話したい。  すでに考えるの嫌になってきたって伝えたら、何て言うだろ……。 「――――……彰?」 「……え?」  部屋から戻ってきた仁が、椅子に座りながら、呼びかけてきた。 「眉間にしわ……すごいけど。何か難しいこと考えてる?」  そう言われて、手で眉間に触れて少し擦ってると、仁が、クスクス笑った。 「――――……オレこないだも言ったけどさ」 「……?」 「彰に頼られるようになりたい。……つか、少しは頼れよ」 「――――……だから。 ……ちょっと生意気、仁」  そう返すと、仁はむ、として。  じっとオレを、見つめて。 「オレふざけてないし。本気で言ってるから」 「――――ん……ありがと」  今度は茶化さず頷いて。  まっすぐな、視線を、受け止める。  だから――――……。  なんで……。  なんとなく、どこか――――…… 痛い、のか……。      それが何なのか、全く分からない。  ――――……前は考えもしなかった。  仁に、そんな風に言われるなんて。  オレが、仁に頼るとか。  だって、仁は弟で、可愛くて、守りたいって、オレが、思ってたから。  少しは頼ってって言われるけど……。  すでに結構、頼ってる気がする。  仕事もかなり頼ってしまってる。仁と働いてると、スムーズで楽すぎる。  料理とか、家事とかも、むしろ仁のが率先してやってて、自然と任せてしまってる部分も多い。  そういうのだけじゃなくて。  なんか、自分の中で、完全に欠けてた仁が、  急に、すべて埋められてく、みたいな。  なんか――――……調子が狂うから、   ――――……こんなに、ざわざわ、する、のかな。    この複雑な、よく分からない気持ちを――――……。  ちゃんと考えるのって……。  ……やっぱり……なんか、気が進まない。  仲良くなれて良かった、で。  済ませて、おきたい。  

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