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第68話「恋人?」

「そろそろ行くね」  今日の仁は、カフェのランチタイムに入るらしい。  十時半頃、用意を終えてそう言ってきた。 「彰は友達にどこで会うの?」 「まだ決めてないから、電話して決めるけど……お昼どこかで食べるかも」 「夕飯は? 食べてくる?」 「んー…… あ、仁は何時まで?」 「十八時」 「今日結構長いんだね。頑張って」 「うん」 「昼から会って、夕飯の買い物とかして早めに帰ってくるから」 「じゃあまっすぐ帰ってくる」  話しながら玄関に向かい、靴を履いた仁が立ちあがって振り返る。 「じゃね、彰。いってきます」 「いってらっしゃい」  ……なんか、鮮やかだなーと、思う、笑顔。  オレも笑顔で送り出して、鍵をかけた。  ――――……ふ、と息をつく。  リビングに戻ると、スマホを持ってソファに腰かけた。  亮也を呼び出す。  昨日も家に帰ってから、亮也に電話をかけた。亮也がバイトの休憩中だったので、今日会えるという約束だけしていた。  ――――……とにかく、亮也と話をしないと。 『もしもし……』 「――――……あ、亮也、おはよ」 『……ん、おはよー、彰』 「……今起きた?」 『昨日バイトの後飲みにいっちゃってさ。ごめん、すぐには、出れないかも……』 「んー……どうしたい? 合わせるよ」 『じゃあうちおいでよ』 「――――……」  家だと……そういう、事になるかな……と一瞬思ったけれど。  ――――……無理強いする奴ではないか。と思い直す。 「……分かった。いつ行けばいい?」 『もういつでもいいよ。――――……あ、なんか昼買ってきてくれる?』 「うんいいよ。何がいい?」 『んー……サンドイッチとか。パンがいいなー』 「分かった。買ってく」 『じゃ後でな』 「うん」  電話を切ると、準備した荷物を肩に引っ掛けて、家を出た。  セフレをやめて、友達に――――……戻りたい。  ……ちゃんと、話せるかな。  ――――…… いや、話さないと。 ◇ ◇ ◇ ◇  途中のサンドイッチのお店で昼を買って、亮也のマンションにやって来た。  中に入って、まだちょっと眠そうな亮也に笑ってしまう。   「また寝てたの?」 「うん、悪い……。顔洗ってくる」 「パン、今食べる?」 「んー……彰の昼といっしょに食べよかな」 「じゃコーヒーだけ飲む?」 「ありがと」  一緒に買ってきていたコーヒーをテーブルに置く。  椅子に座ってると、顔を洗ってすっきりした顔の亮也が戻ってきた。  オレの目の前に座り、コーヒーを一口。 「おいしー…… あ、で? 話って何? 彰」 「――――……うん」  オレは、亮也をまっすぐ見つめた。 「――――……あのさ、亮也……」 「……セフレやめようって?」 「え……」 「―――……やっぱそういう話?」  亮也の言葉に少し黙って。それから、うんと頷いた。 「んー。それは、何で?」 「……セフレとか、やっぱり――――……良くない、かなと思って」 「本命が出来た?」  何かが掠めそうになるけれど――――……。  振り切るように、首を横に振った。 「……ずっと、こういうのどうなんだろって、思ってて……」 「……誰かと付き合うとかじゃないの?」 「違う」 「――――……女の子のセフレは? どーしてんの?」 「……もうそっちも、やめる事にした」 「――――……ふうん?」  亮也が、じっとオレを見つめてくる。 「……彰の気持はさ、なるべく尊重したいんだけど――――……」 「――――……」 「……んー、じゃあさ」 「――――……?」  しばらく考えてた亮也が良い事を思い付いたとばかりに、笑顔になる。 「オレも他のセフレ切るからさ」 「……?」 「……オレと、ちゃんと付き合おうよ」 「え」  びっくりして、固まるしかできない。  そんな答えが返ってくるとは思わなかった。 「彰はセフレと遊ぶタイプじゃないなとは思ってたから。そういう事言い出すのは、分かる。でもオレ、彰と別れんのやだから……オレと、ちゃんと付き合ってよ」 「――――……亮也……」 「オレ、それくらいは、彰の事好きだし」 「――――……」 「彰だって、誰かと付き合うとかじゃないならさ。とりあえずお試しでもいいよ」 「――――……」 「とりあえずさ、考えて? 今答え出さなくてもいいし」  にっこり笑う亮也。  予想外な答えに、なんだか、思考が停止中。   「セフレが嫌で、本命が居ないなら、ちゃんと付き合えば良いんでしょ?」  ……そういう事、なんだっけ……?  なんか、違うよな……。

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