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第67話「もしも」
「彰、ほんと気を付けて。オレ居なかったら頭打ってたかもよ? 死ぬんだよ、後頭部とか打ったら」
「分かったってば」
塾のバイトを終えて、昼ご飯を食べて、買い物をしての帰り道。
もうここまでで、何回、同じような事を言われたか。
「……ていうか、 仁が呼ばなかったらオレ振り返ってないから、落ちてないし……」
さっきからちらっと思ってた事をついつい言ってしまうと、仁が、えっと驚いた顔でこっちを見てきた。
「え、待って、オレのせい?」
「……いや、違うけど……だってもうしつこい……」
「つか、呼ばれたってなんだって、落ちんなよっつー話だろ」
「……その通りだけど……」
はー、とため息。
「もー仁、分かったってば、本当に気を付けるってば」
「……オレ、正直、さっき縮まった心臓、今もそのままな気がするからね。確実に寿命縮まったから」
「だからーごめんってば……」
もはや可笑しくなってくる、レベル。
「ほんとに気を付けるし、大量の荷物抱えてる時はもっと気を付けるから」
「だから手分けして持つって」
「……はい。ってさ、オレ、人生で階段落ちたの、初めてだからね、もう無いって」
「無いとは限んないだろ、オレ、言っとくけど、落ちた事ないからな。一回落ちたんだから、彰はもっと注意しろよ」
「……はいはい。分かりました」
「はいは一回! ちゃんと聞けよな」
「……はい」
そこでやっと、仁が黙る。
はーよかった、終わったかな?
ちら、と仁を見ると。なんだかとっても真顔で。
「……なんかさーああいう事があるとさ」
「うん?」
仁の声の調子が変ったので、首を傾げて、仁をまっすぐ見つめると。
「こうして、普通に暮らしてられるのも、当たり前に続くと思ってるけど……違うのかなって思うとさ――――……」
「うん……?」
「――――……なんか色々思うことがあるんだけど……」
「……どういうこと??」
「……なんか……時間かけて、色々頑張って……とか思ってることもさ……どうなんだろ、とか思った訳……」
「……ふうん?? まあでもさ、いつ死んでもいいように毎日生きれたら良いなとは思うけど――――……」
「……けど?」
「――――……なかなかそうは、いかないよね。……長く生きるっていう前提で、色々考えるもんね……」
「でも、死ぬ瞬間に後悔すんのは嫌だなって、さっきのせいで思ったよ」
仁がため息をつきながら、そう言った。
「なんかオレが転がった事くらいで、急に難しい事考えてるし……」
「考えるよ。 だって、もう、一瞬で色々考えたし」
苦笑いのオレに、仁は眉を顰めてる。
死ぬ瞬間、後悔、かぁ……。
……もし、さっき死んでたら、
……死んだオレは、何を後悔したかな。
もしも明日死ぬなら――――……オレ、今日、何して過ごすかなー……。
さっき、一人で教室で少しだけ考えた事が、さっとよぎるけれど。
ひたすら、無視して、心の奥底に追いやる。……考えない。
「……とりあえず、やっぱり、ちゃんと注意しろよな、彰」
「……分かったってば……」
またさっきの話に戻った……。もー、仁……。どんだけなんだ……。
苦笑いを通り越して、呆れ笑いになってしまった。
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