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第73話「楽しいけど」

 考えれば考えるほどに。  どうしたらいいのか分からなくなってくる。  でも、現実的に考えれば。  ――――……音沙汰の無かったこの二年に比べれば、今は、明らかに、良い状況な訳で。 「オレ、今さ……こうやって仁と過ごすようになってから、すごく楽しいなって思ってて。また一緒に笑えるようになって、嬉しいし」 「――――ああ」 「……仁と音信不通だった間辛かったから、もうあんなの嫌だし。……このまま笑って、一緒に居たいんだけど……」 「――――……」 「――――…… 勝手に浮かぶ気持ちが邪魔で……なんかもう、どうしていいか……よく分かんないっていうか……」 「……お前、今、楽しいの? 辛いの? どっち?」 「……楽しいけど――――……辛い……かな…… よく分かんない」  んーーーと、唸って。  あー、もうやだな。と、ため息。 「……ごめん、今日はもういいや、オレ、今どう考えても、もう全然分かんないや。……飲もう、寛人」 「は?」 「寛人、ワイン飲みたい。 白ワイン」 「……だめ」 「美味しいやつ、選んで」 「……お前朝バイトだろ。寝坊するぞ」 「仁に起こしてもらう」 「……はー。おぶってくのやだぞ、オレ」 「大丈夫!」  しばらくの押し問答の末。  寛人は、諦めたみたいで。  店員を呼んで、白ワインを頼んでくれてる。 「飲みやすいやつ。グラスで頼んだからな」 「一本頼んでくれてもいいのに」 「だから、絶対おぶんねえぞ」 「……ていうか、おぶわれたの、一回じゃん。何でそんなに言うの?」 「……三回」  寛人の目が据わる。  ……あれ? 三回も?? 記憶ないな。 「え?三回?」 「つーか、お前、どれを覚えてて、あと二回、どーすりゃ忘れんだ」 「……えーと……歩いて帰った気がしてて」 「途中まで歩いて、動かなくなったろうが」 「……まあ、いいか。白ワインに合うつまみ、選んでよ」 「……よくねえけど」 「な、寛人、どれがおすすめ?」 「……メニュー貸せ」  聞いたオレに、寛人は苦笑いを浮かべながらそう言った。 ◇ ◇ ◇ ◇  頭、ガンガンする。  ――――…… あつい……。 「――――……彰……」 「……ん……」  ――――……頭痛い。ぐるぐるしてる。 「……水、少し飲んで……」 「……ん……?……」  体を起こされそうになるけど――――…… ぐるぐるしてて、無理。  その手を避けて、背に当たる、やわらかいものに、沈む。  ふとん……? 気持ちいい……。  ふ、と眠さに気が遠くなる。  唇に、何かが触れて、水が、流し込まれる。 「――――……ン……」   もう一度、冷たい感触。  ……みず……きもちいい……。  ……キス……されてる……? 「――――……りょう……や……?……」  ……あれ? オレ今――――……どこに……。  ――――……あたま、痛い。   体中、どくどくしてて、熱くて。 「――――……」  少し何かを思ったけれど――――……。  すぐに、何も考えられなくなった。

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