72 / 135
第72話「今更」
今更、昔の仁に、心の中、乱されて。
でも今、目の前に居る仁は、友達みたいな弟でしかなくて。
ものすごく大事だっていう視線だけ、向けられる。
オレの心配ばかりして、オレと一緒に、居ようとばかり、して。
オレがどう思うかとか、いつも聞いてきて。
――――……そのせいで、自分が仁をどう思うか……。
毎回、自分の気持ちを、確認させられて。
事故みたいな接触で、昔の事を、体で思い出して。
気持ちでも、体でも、仁の事ばかり、考えてる気がする。
――――……でも。
目の前に居る、普通の弟の顔した、仁に。
……今、自分が思う事を、向けていい訳がなくて。
全部、宙に浮いたみたいなとこで、想いが冷えていく。
「……あ、そうだ。寛人」
「ん?」
「……亮也にさ」
「――――……亮也?」
「……セフレの相手。亮也に、やめようって話しにいったんだ、昨日」
「ああ、そいつか……初耳だな」
苦笑いする寛人に、ごめん、と伝えてから。
「……そしたら ちゃんと、恋人になろう、て言われて」
「ん。で?」
「……待つって言われて、もう分かんなくなって、保留中……」
「――――……そうか」
「絶対無理って断れない位は好きだし、すごく良い奴なんだけど……」
そう言いながら、酒を口にする。
寛人は、考え深げにオレを見ていたけれど。
少し間を置いてから、声を小さくして聞いてきた。
「……彰は男を恋人にって、可能性ありなのか?」
「なんか…… オレ、別にありなのかも……よく、分かんないんだけど……」
「……絶対、無理じゃねえの?」
「……そもそも、完全に無理だったら、あいつとそんな関係になってないし……だけど……好きだけど、やっぱり恋とかじゃないから。亮也も違うと思うんだけど……だからよく分かんなくて」
「なあ……こないだも、聞いたけど。仁は、弟だから、ダメだったのか?」
寛人の質問に、ふ、と顔を上げて。
その言葉を、考える。
――――…… 酔ってて、いつもより素直な心に、何だか、痛い質問。
「……つか、無理。家族だし、親も弟も居るし……おかしくなっちゃった仁の言う事、本気にして……受け入れるなんて、出来る訳なかったし。今考えたって、無理」
「親も弟もいなかったら? ……仁がおかしくなったんじゃなくて、あいつが本気だったら? ……それは、考えた?」
「……そんな前提、ありえないから、考えてない」
そう答えたら、寛人は、眉を顰めた。
「――――……お前って……」
言うと、寛人は、ふーー、と息をついた。
「……オレって、なに?」
「――――……一番大事なとこ、考えねーよな……」
「……考えてるけど」
そう言うと、寛人はまたしばらく無言。
「……彰はさー……」
黙っていた寛人が、ゆっくりした口調で、そう言った。
俯いてた顔を上げて、寛人を見つめると。
「……余計な事考えすぎなんだよ。いいとこでもあるんだけどさ」
寛人の言葉に、少し首を傾げると。
「……誰にも嫌な思いさせないようにとか、生きてく上では無理だと思えよ。一番に、自分の気持とか、一番大事な奴を考えたら?」
「――――……」
寛人の言ってる事は、分かるんだけど……周り気にしないなんて、できないし。
一番、大事な、奴。
――――……一番、大事な奴……か。
いつも、いつも、ずっと、
頭にあるのは――――…… 一人、だけど。
意味もよく分からないし。
……これから分かってしまったとしても。
そんなの……ほんとに、今更、だ。
ともだちにシェアしよう!