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第79話「自由な人達」

 今日は、仁は、十四時からのバイトなので、昼を食べたら出ていった。  午前中、一緒に買い物行った時に、夕飯はカレーライスが良いって言っていたので、仁が出てすぐ作り始めて煮込み中。もうすぐできあがる。  ……暇。  仁が来る前、自分が何してたか、少し考えてみる。  ――――……女の子達と遊んでたり。亮也と会ってたり。他の友達と遊びに行ったりも、してた。  セフレの子達だって、別にそういう事だけしてた訳じゃなくて、遊びに出かけたり、ご飯食べたりもしていた。一人で過ごしてた訳じゃない。ていうか、むしろ色んな人と会ってた。  なのに。なんか、仁が来てから、オレ、仁だけになってる気がする。  大学生になる、弟。  別行動なんて当たり前。……ていうか、一緒に動く事自体、普通そんなにないんじゃないかと思うのに。  ――――……一緒に居たいというのか……。  居なきゃいけないような気になっている、というのか……。  仁は、今、こっちに知り合いは居ないから、そりゃそうなるかなって気もするんだけど……。  オレは別にこっちの友達たちと会ってもいいのに。  誘われても、春休みは忙しいと言い続けて、結局全部断ってしまった。 「――――……」  これが良くない気がしてきた。  仁だけ、とかの状況にしてるから……。  仁の事か、考えられなくなってて。  ……昔と今の仁の事ばっかり……。 「――――…… なんか…… おかしくなりそ……」  ぽそ、と呟いた。  ……はー、と、テーブルに突っ伏した瞬間。電話が鳴った。ディスプレイを見ながら、通話ボタンを押す。 「……もしもし、亮也?」 『彰?』 「うん」 『今日ひま?』  ――――……ずっと今のまま、一人で居たくないし。  ……恋人、とかいうのも話さないと。 「いいよ。外で会えるなら。十九時には家に帰るけどいい?」 『ん、いいよ。どこ行く?』 「体動かしたいんだよね。なんか……あ、テニスは?」 『いーよ。三十分後、駅で待ち合せでいい?』 「わかった」  電話を切って、立ち上がって、カレーを煮込んでいた火を止めた。 ◇ ◇ ◇ ◇  テニスコートをレンタルして、二時間、打ち合い続けた。 「――――……すげーいい汗かいた」  気持ちよかったな。  やっぱ、こういうのしてないと、ダメだな。うん。  更衣室で着替えていると、急に、亮也がぷっと笑い出した。 「……何?」 「……お前、ほんと、負けず嫌いだなーと思ったら、笑えて来た」 「亮也だってそうじゃん」 「彰ほどじゃねえよ」  クスクス笑いながら亮也が言う。 「……なんかすごく楽しかった。ありがと」 「ん。 彰これからどうする? 今十七時前だけど……あと二時間くらい」 「んー……コーヒー飲みにいこ。話したいし」 「いーよ」  二人で歩きながら、通りがかりのコーヒーショップに入った。 「結構いい運動になったな~」  首を軽く回しながら、亮也が笑う。 「ほんと。テニスやるの、前に亮也とやった以来かも」 「オレも。あれいつだっけ……」  言われて、うーん……と考える。 「寒かったから……冬、だったかなあ? 去年だよね?」 「そーかも。 また近々やろうぜ」 「うん」  頷いて、少しの沈黙。  水を飲んで口を潤してから、亮也にまっすぐ視線を向けた。 「……あのさ、亮也」 「ん?」 「こないだの話なんだけど――――……やっぱりオレ」  言いかけた所で。亮也が、ふ、と息をついて。 「……分かった。もういいよ」 「え」 「やっぱり無理なんだろ?」 「……ごめん」 「……そっちはとりあえず今は、諦める」 「……ん? とりあえず……?」  引っかかって、ん?と首を傾げると。  亮也は、ニヤ、と笑った。 「とりあえず、諦めるけど、いつかその気になるかもしんねーじゃん?」 「――――……」 「まだあと二年は、お前と居るしさ」 「――――……亮也って……すごいと思う」  思わず感心して呟いた言葉に、亮也はクスクス笑う。 「そう? 彰と恋人になれないなら、オレ、他のセフレ切んないからね?」 「……そこは好きにしていいよ」 「あと――――……オレ、彰とも、セフレがいいな」 「――――……」 「どーしてもしたくなったら、オレを呼んで? オレとなら、今更だしさ。気持ちいい事して発散したくなったら、な?」 「亮也……」  なんだかもう。ここまでくると、笑ってしまう。   「……笑ってんなよな、オレは本気。覚えとけよな?」 「……とりあえず聞いとくけど……」  そこで運ばれてきたコーヒーに口をつけて。  それから、また、亮也を見上げた。 「亮也、オレと友達になれる?」  その質問をしたら。亮也は、ふと顔を上げて、オレを見つめた。 「友達って、セフレも入る?」 「……入んない」 「嘘だよ。 呆れんなよ」  オレの顔を見て、苦笑いを浮かべてから。 「んー……オレにとってはセックスするかしないかだけの違いなんだよな。お前と居ると楽しいから居るんだし。というか、セックスしてても友達だし。しなくなってもそれは変わらない。彰が嫌だっていうなら、しなくても居られるし」 「――――……わかった。……ありがと」  何となく嬉しくなって。ふ、と笑ってしまうと。 「――――……まあでも、キスしたくなるけどなぁ、そんな風に笑われると」 「……バカ」  一言返したオレに、亮也はクスクス笑った。 「もーちょっと自由に考えたら? どーせ人生一回なんだからさ。自分が好きな方、楽しい方でいいんじゃない?」 「……お前は自由過ぎだと思うけど」 「オレと彰を足して割れば、ちょうどいいかもね」  そんな風に言う亮也に、笑って頷く。  ――――……自由にかー……。  そういえば、寛人も自由だよな。  なんか、誰にも侵されない感じ。  なんでオレの周りには自由な奴が居るんだろ?  オレも自由に生きれたら――――……。  自由に生きれたら、どーすんだろ……。  なんて少し色々思いながらも。  ……無理だなー、オレには。    ふ、とため息をつきながら。  能天気な亮也の顔を見つつ、いいなー、なんて思ってしまった。

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