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第80話「なんか可愛い」
亮也と別れて家に帰り、炊飯器をセットしてから、シャワーを浴びる。
髪を乾かして、カレーを温めていた時に、仁が帰ってきた音がしたので火を止めて玄関に向かう。
「おかえり。おつかれ」
「ただいま。 カレー、すごい良い匂いしてる」
ふ、と笑う仁に、うん、と頷いて。
「今あっためてたから。シャワー浴びてくる間に用意しとく」
「ありがと。ごめん、スマホ、テーブルおいといてくれる?」
「ん」
そのまま、仁がバスルームに消えていき、オレはリビングに戻った。
テーブルに仁のスマホを置いて、カレーの火をつけてかき混ぜる。
仁の携帯が鳴り始めて、しばらく鳴ってから切れた。
それから少しして、バスルームから仁が出た音が聞こえてきたので、火を止めた。
ご飯とカレーをよそり、サラダを冷蔵庫から出して、テーブルに並べていく。
「すっげーいい匂い。腹減ったー」
髪をタオルで拭きながら、仁がリビングに入ってきた。
「ん、食べよっか」
「水、一杯飲みたい」
「あ、入れるよ」
歩いてこようとした仁を止めて、コップに氷を入れて水を注ぐ。仁に渡すと一気に飲み干した。
「今日すごい忙しくてさ。休憩なしで何も飲まず終わっちゃった」
「え。つか、今日結構長かったのに。 水くらい飲みなよ」
「そうなんだけどさ。なんかずっと客に呼ばれて」
「忙しいんだね。 ていうか、オレ明日、行ってもいーの? ランチとか、余計忙しいんじゃないの?」
「まあ……でも、来てほしいから。大丈夫、彰が居る間は、彰のとこオレが行くから。あんまりうるさくない、良い席あけとくし」
「ん。分かった」
ふ、と笑って頷くと、仁がスマホのランプに気付いた。
「あれ……着信鳴ってた?」
「あ、そうだ。 うん。しばらく鳴ってたよ」
「んー……」
仁がスマホを持とうと手を伸ばした瞬間。
そのタイミングで、着信が鳴った。
「――――……もしもし?」
少しの時間があいて、仁が、ああ、と笑った。
「麻里ちゃんか……うん。さっきも掛けた? ――――……ああ、うん……そうだね」
しばらく、返事をするだけの会話が続いて。
会話が終わって、スマホを置くと、仁が苦笑い。
「……何の電話かよく分かんなかった」
言いながら、仁がテーブルに着く。
「いただきます」
と言って、サラダを食べながら。
「……バイトの連絡グループには入れられたんだけどさ。世間話とかばっかりだから、あんまり返してなくて」
「ふーん……?」
「男子バイト少ないし、かぶって入らないんだよね。だからそんな仲良くもなんないし、あとは女子ばっかだしさ」
まあカフェって言ってるし。女子のが多いとは思うけど。
「なんでカフェでバイトしたんだっけ?」
「…… だって彰コーヒー、好きだろ」
その言葉に、ちょっと首を傾げてしまう。
……ん?
オレが、コーヒー、好きだから??
………って言った? 今。
返せないまま、ただカレーを口に運んでると。
「コーヒーの事とか、カフェの料理とか、色々知るのもいいかなーと思ったからさ」
付け加えるみたいに、仁がそう言った。
「カレーもメニューにあるんだよ。隠し味があるらしくてさ。いつか教えてくれるって店長が言ってた」
「そうなんだ」
「明日色々メニュ―見てみてよ。食べたいメニュー、覚えるからさ。あ、場所分かる?」
「うん。何時に行けばいい?」
「少しお昼からずらして十三時位がいいかな」
「分かった」
頷いてから、ふと気付いて。
「仁が接客してるとか、そういえば初めて見るよね」
「あー……そう言われるとちょっと恥ずかしいかも。来てもいいけど、あんま見ないでね」
「……何それ」
なんか、可愛いな、仁。
見ないで、だって。
クスクス笑うと、仁は少し面白くなさそうな顔をして。
「……見てもいーけど、笑うなよな」
「……ん、笑わないよ」
ついつい笑いながら言うと、仁が、はー、とため息をついてる。
「楽しみかも」
「……コーヒー楽しみにしてきてよ。ほんとうまいから」
「うん、そっちも楽しみだよ」
「そっちも、て…… 」
仁は苦笑い。
その顔を見て、またふ、と笑ってしまった。
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