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第96話「仁との電話」* 寛人side
バイトの休憩中。スマホをチェックしたら、仁から、電話が入ってた。
また何か、あったかな――――……。
て、なんか、ここ数日、彰よりも仁との方が喋ってねえか?
苦笑い。
仁に向けて、電話を掛ける。
『片桐さん? こんばんわ』
「ああ。 今バイトの休憩中。十五分位なら話、聞ける。どうした?」
『すみません。――――……オレ……』
「ん?」
『……――――……彰に好きだって……言う……と思うので…… 一応報告です』
「ふうん……? まあいいんじゃね? つか、急にどうしたの。 墓場まで持ってくんじゃなかったのか?」
『……墓場とか言いましたっけ?』
苦笑いの仁の声。
『オレの気持ちを知った上で、もいっかい考えてもらった方がいいのかなって…… オレが勘違いって言ってごまかしてたら…… 間違っても、好きにはなってもらえないって……そんな気がしてきて』
「――――……まあ、オレ、それを最初から言ってるけどな」
『……今日、彰に――――……昔のは、勘違いなんだよね?て、聞かれて』
「……へえ?」
『……勘違いで今は何とも思ってないって……もう嘘も、つけなくて……』
「――――……」
『……ずっと会わないまま考えて、決めてきた色んな事が――――…… 彰の顔見て、過ごしてたら、段々出来なくなってきて……彰に好きになってもらえなかったら、良い弟で一生過ごす覚悟もしてからこっちに来たのに――――…… まだこっち来て一カ月も経ってないのに、無理な気がしてきて」
「……まあ、そうだろうな。全部理屈でなんか出来ねえだろ。考えてた二年間は、彰に関わらねえで決めたんだろ? 実際、好きな奴が、目の前にいんのに……平気な振りも限界なんじゃねえの」
『……なんかオレ、甘かったかも……』
「――――……つーか。そんだけ、好きなんだろ」
仁が、黙って。
『……それに、オレ――――……二年前も、彰に言ったんだけど』
「ん?」
『……オレの事、好きなんじゃないのって…… 今も……たまに、そう思いそうになる時が、あって――――……』
「……ふうん?」
『……でもあの時は、彰、絶対無理って言いだして――――……そっから、完全にシャットアウトされたから……」
「――――……」
多分、オレにも何も言わなくなった時だな。
どうつついても、何も、話さなくなった。考える事、拒否してたし。
『あの時はきっと……オレが、弟だから、無理だったんだと思うんですけど……』
「……ん、それで? 弟だから無理ってとこは、今も変わってないと思うんだけど。どーやって、そこ、超えるつもりだ?」
『――――……それはこれから考える。でも……オレの好きを、勘違いにしてたらダメだと、今は思ってて。だからと言って、あの時みたいに無理矢理迫ったりは、しないけど……』
「――――……あのさぁ、仁?」
『なんですか?』
「……お前、モテるだろ」
『まあ。モテますね……』
即答に、笑ってしまう。
「少しは否定しろよ」
『別に嬉しい事でもないし。……それがなんですか?』
「……お前ならさ、他の女の子なら、つーか、他の男でも、もっと簡単だと思うんだけど。なんで、彰なの? この世で一番難しい相手じゃねえ? 本人の性格的にも、弟とってさ……」
『……この世で一番難しい……かー……まあ……そうかもしれないですね……』
仁は、苦笑しながらそう言って。
『……全部が好きって、思うから……他がどうでもいい位』
「――――……」
『……なんかもう自分でも……どうにもできないんで……』
「――――……は。 分かったよ」
オレは、それを、全部見てきた、気がする。
小学校、中学校、高校――――…… で、今も。
全部。こいつが彰を好きなとこ。……ずっと、見てきてしまった。
「……何でわざわざオレに言った訳?」
『こないだオレが、片桐さんに言った事と……大分変ってきてるし。……伝えておこうと思って。――――だって……悔しいけど……彰、すげえ困ったらあんたんとこ、行くだろ。……だから、予備情報……って感じ』
「はは。何だ、それ」
『……困って弱ってたら、オレのせいだから――――…… 助けてあげて』
「――――……了解」
たぶん彰も――――……お前の事が好きなんだろうけどな……。
それを認められるかどうかは――――……。
――――…… んー。
分かんねえな。
どうなりゃあいつは、認めるんだ……?
認めないで一生行く気なのかもしれないし。 分かんねえな。
「……まあ…… 頑張れよ」
『――――……』
「……聞こえてるか?」
『――――……頑張れって、言ってくれるんですね』
クスクス笑ってる仁。
「――――……お前が、彰をすげえ好きなのは……昔から知ってるから」
『――――……』
「……頑張れ、としか、いえねーかな……」
『……ありがとうございます』
「ああ。――――……あと何かある? そろそろ行かねえと」
『大丈夫です。……片桐さん』
「ん?」
『――――……話せて落ち着きました』
「――――……おう。 またな」
電話を切る。
とんでもないもん背負ってるから――――…… 同じ年の奴よりは、秀でて大人っぽいんだろうけど。 ずいぶんちっちぇ頃から、悩みが大きすぎるし。
でもやっぱり、心を自分で安定させるには、まだ色々経験足りなそうだな。
――――……彰が、普段の通りしっかりしてれば、支えてやれるんだろうけど……。仁に関しては、彰の方が情けなくなるしな。すぐ弱るし。
はー、とため息をついてから。
スマホの時計を見て立ち上がる。
近いうち、彰になんか一言、入れとくか――――……。
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