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第99話「この世で一番」
「彰、答えて」
「――――……」
「……寝たってなんだよ?」
「――――……」
仁が、出してくる問いに。
答えられずに、ただ、俯いて、しまう。
まっすぐな、瞳、見つめ返せる訳もない。
「彰、ちゃんと答えて」
強い口調の言葉に、咄嗟に仁を見上げる。
――――……苦しそうに、見える。
……胸が痛い。
「――――……」
もう言うしかないんだと、思った。
――――……だってもう、今から何言ったって。誤魔化せっこない。
「……寝てた、から……仁がこっちに、来るまで……」
「――――……あいつと?」
「……何人か、女の子と……――――……あと……亮也、とも」
すごく、うるさく思えて、換気扇を、止めた。
そしたら。ものすごく張り詰めた静けさが襲ってきた。
「……なに? 何人かって」
「――――……」
「こないだ、誰かと別れてたよね?」
「あれは……その内の一人の女の子と――――……もうやめようって、言って……」
「――――……まだ他にも居るって事?……」
俯いて、しまう。
できたらこんなの――――…… 仁には言いたくなかったけど……。
――――……でも、これも……隠したまま、嘘ついてくよりは……。
もしかしたら……良かったのかもしれない。そう、諦めるしかない気がする。
「……それって、恋人じゃないの?」
「――――……違う。付き合おうとか……言ってないし」
「――――……なんで、そんな事……」
「……っ――――……」
……今なら、分かる。
仁を置いてきたのに、誰かと付き合うなんてできなくて。
――――……でも……和己から、仁がモテて家に女の子連れてくるとか。また別の子と付き合ってるとかの情報が、勝手に入ってくるから。
なんかそういうの聞いてると――――…… なんだか、たまらなくなって。
もう考えたくもなくて、誘われるまま、応えた、というか……。
「……亮也って、奴とは? 寝てたって何。はっきり言って」
「――――……」
俯いて、唇を、噛んで。
それから、は、と息をついた。
「――――……だから……そのまま、の意味……」
「抱いたの? ……抱かれたの?」
「抱かれ――――……」
言い終える前に、二の腕を掴まれて、ぐい、と引き寄せられた。
勢いが激しすぎて、驚いて顔を上げたら、仁と真正面に、見つめあった。
――――……怒ってる、のか。
痛そう、なのか。
「なんで……?」
吐き出すみたいに、聞かれた。
なんで――――…… なんでって……。
「どうしてそうなったんだよ…… あいつが、好きなの?」
「……亮也、とは……お互い気が向いた時、に……」
「……男に抱かれるなんて――――……気がむいたからって、そんな事、平気でできんの?」
「――――……っ……」
痛い。
――――……もう、体の奥が、痛すぎて。
涙が、出そう。
でも――――……こんな事で、仁の前で、オレが、泣くわけにいかない。
「……仁だって……」
「――――……なに?」
「……仁、だって――――……色んな女の子と付き合ったってたんだろ。……それと……同じ、だよ……」
「――――……」
仁が、唇を噛んで。
ぐっと、眉を寄せた。
苦しい。
もう。 息が出来ている気も、しない。
「――――……っ……もう……離してよ。……痛い」
二の腕を掴んでいる仁の手から逃れて、背を向けた瞬間だった。
後ろから、腕を掴まれて引っ張られて。
壁に背を押し付けられた。
そのまま、また二の腕を掴まれて。
まっすぐ、見下ろされた。
「……同じじゃない、全然……違う、だろ」
「――――……っ……」
痛そうな、顔。仁。
――――……オレ、何で……そんな顔……させてるんだろう。
……この世で、一番、
笑っていて、欲しいって……思ってるのに。
「女抱くのと、男に抱かれるのが、何で同じなんだよ……!」
「――――……っ」
「……ッ……女なら、かまわねえよ。何で、男と……!」
怒ってる。
今まで、見た事がない位。
でも、それよりも、もっと。
――――……仁が、泣きそうに見えて。
もう、どうしたら、いいのか、分からなくなる。
時を、戻せるなら。
仁の前から逃げた、あの時に戻りたい。
でも、出来ない。
仁から逃げたのに、仁が誰かと付き合うのを聞いて。
体くらいは自由でもいいだろうと、好きにしてた、自分が、バカなんだ。
一人で居ると、色んなマイナスの気持ちに負けそうで。
……意味もないのに、体だけ繋げた。
「……彰……」
両手首を取られて、壁に、押さえつけられた。
自然と上向いて、仁を見上げる。
「……じ……」
名前を呼ぼうとした唇を、仁が塞いだ。
「……っ……!……」
藻掻いても、離せない。
押さえつけられた、手首は、ぴくりとも、動かない。
「――――……離し……っ」
「 ……嫌だ」
何とか離した唇を、またふさがれた。
久しぶりの――――…… キスは。
心が冷えてく、みたいで。
耐えてた涙が、急に、溢れた。
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