100 / 135

第100話「試した意味」

「……っ……」  涙が触れたのか、仁が、ふ、と瞳を開けた。 「――――……彰……」  唇が離されて。でもものすごい至近距離のまま、仁の指に、涙を拭われた。 「――――……」  何も。言わない。 「……じ、ん……?」 「――――……オレとキスすんのは……そんな泣く位、嫌?」 「――――……」  違う。  ――――……キスするのが、嫌なんじゃなくて……。  こんな顔させて、こんな気持ちで、  怒って、傷ついてる仁とキスするのが――――……。 「――――……ごめん……」 「――――……何、が……?」 「……亮也、は……会った日からずっと……誘われて……」 「……誘われたら男に抱かれんの? ――――……何が、ごめん、なんだよ」  仁が眉を寄せたまま、じっと、見つめてくる。  見つめ返すのはきつくて、俯いて、話すしかできない。 「……断ってたけど……何度も、誘われてるうちに……仲、良くなって……最初はオレ……そんな事ができるのか……試してみたかった……し…… その後は……気が向いたら、て、感じで……」  ものすごく端的だけど、これが本当の所で。  そこまで言って、更に俯いた。   「オレが男と、とか……仁が嫌なのは分かる、から。だから、ごめんて……言った……」 「……何だよ、それ」  仁の低い声が、静かに、漏れて。 「彰、自分が何言ってるか、分かってんの?」  そう言われて、仁を見上げた。 「……どういう意味?」  何を言ってるかは、分かって話してたつもりなので、仁の言ってる意味が分からなくてそう聞くと。仁はまた眉を寄せて。まっすぐ見下ろしてくる。 「あいつが好きだから付き合ったんじゃねえの? ――――……試してみたかったから、寝たの?」 「――――……ん……付き合っては、ない……けど……」 「試してみたかったって、それ、何でなのか、自分で分かんないの?」 「――――……何でって……」  何でって。  ――――……何でって、何?   何が、聞きたいのか、全然分からない。  仁の手が、オレの腕を掴んで。  ぐ、と力が込められた。  痛い、と思ったけど――――……仁の、辛そうな顔を見てたら、言えなくて。  ただ、視線を逸らせずに仁を見ていると。 「……オレとできるか――――……あいつで試したって事だろ……?」 「――――……」  ――――……今言われた事を、頭の中で繰り返す。  え、何……?  そんなんじゃない。  そんな訳ない。そんなんじゃ――――……。  試したかった。  ……そんな事が出来るか、試したかった。  ――――……試す……。  ……仁と、できる、か? 「――――……」  ……そっか……普通は――――…… 試す意味なんか、ないんだ。  性の対象が女の男は、そんな事、試そうとは、しないんだ。  必要も意味もないし、きっと考えもしないんだ。  じゃあ、オレは――――……。  何のために――――……試したんだ……。 「……離、して…… 仁」 「――――……」 「っ…… はな、してよ……」  無理。  オレ、今――――……これ以上お前の前に居られない。  なんかもう頭のなか、ぐちゃぐちゃで――――……。  何考えればいいのか、全然分からない。 「今、一人に、して――――…… もう、無理……」 「……っ離さねえよ……」  藻掻いていたら、背中を再度壁に押し付けられて。  きつく、抱き締められて、動けない。 「何でそんな、試すなんて――――……」 「――――……っ」 「そんなんで、あいつに、抱かれたのかよ……!」 「……っ」  首を振って、仁から離れようとしていたら。  ぐい、と顎を掴まれて、上向かせられた。 「……何回抱かれたんだよ…… 試して、続けたって事は……よかったの?」 「――――……っ」  一瞬で、体中の血が冷えて。  指先が、震えるのが、分かる。 「……はな、して……」  涙が、また、溢れそうで。   「――――……彰のイく顔…… 何回、見せたの?」 「……っ……なに、いって……はな……」 「……っ……離すわけ、ないだろ……」  いつもの優しい、声とは全然違う。  低い、押し殺したような、声が。 辛くて。  涙をこらえて眉を寄せた瞬間。 再び、唇が、ふさがれた。 「――――……ン……っ?……っ……」  今度はすぐに、舌が、中に入ってきた。 「――――……や、めっ…… ぅ……っ」  振り解こうとしても、背中を壁に押し付けられた状態での、食いつくされるようなキスに、抵抗もままならない。 「……っ……」  舌を激しく絡められて、口内、好きにされてると――――……。  ぞく、と背筋を、生理的な、ヤバい感覚が襲う。  今――――…… こんなふうに、感じたく、ないのに。 「……い、やだ…… 仁……っ」    もがいて、少し離れた口が空気を求めて――――……。  瞬間、また深くキスされる。 「――――……ン……っ」  容赦ないキス。  ――――……息が出来なくて、くらくらして、のぼせてくる。

ともだちにシェアしよう!