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◇番外編「穏やかな朝」

 朝。  ふ、と目が覚める。  ん……。何時だろ。目覚ましまだ鳴ってない……。  もぞ、と動いて、枕元のスマホに無意識に手を伸ばした時。  スマホに触れる前にその手を取られた。あ、と思うのと同時に、そのまま、抱き寄せられる。  すっぽり抱き締められて。 「――おはよ、彰」 「仁……はよ。起きてた?」 「今起きた。彰抱いてるとすごい寝ちゃうんだよね。オレ」 「……まぁ、良いことかな?」 「ん、そだね。……彰は?よく寝れてる?」 「うん。めちゃくちゃ、寝てる」  ふふ。  穏やかに笑う。  毎日。  目覚めはとっても穏やかで、幸せだったりする。  朝食の後、仁と一緒にスーパーに買い物に来た。  今日は午後は、オレが塾で、仁はカフェでバイト。 「昼と夜……彰、何が食べたい?」 「朝はパン食べたから……お昼は、麺類とか?」 「麺類か……焼きそばは?」 「ん、いいよ」 「じゃあ夜は……仁、カフェのバイトは、何時までなの?」 「多分、十九時位に家に帰るよ。彰は?」 「塾の方が早く終わるかも」  そう言うと、仁は楽しそうにオレを見つめてくる。 「じゃあ、カフェの前で待ち合わせよ?」  とってもウキウキしてる。ぷ、と笑ってしまいながら。 「ん、分かった。なにか食べて帰る?」 「そうしよ。ん、じゃあ、とりあえず焼きそばの材料と明日の朝のパン」  嬉しそうに笑った仁は少し先を歩いて、オレを振り返ってくる。  ――なんか。ものすごく、可愛いし……。  そんな嬉しそうにされると、ほんと何ていうのか……。  ていうか……仁って。スーパーに居ると、目立つよな。ってまあ、どこに居ても目立つんだけど。  何でこんなに目立つんだろうか。背、高いしな。  うーん、別に、こんなに良い男じゃなくていいんだけどなぁ。別にオレ、顔で好きなわけじゃないし……。  こんなにカッコいいと、この先だって、すごいモテそうだしさ。  すごい素敵な女の人とかも、仁を好きになる可能性があるっていうか……。  ……ちょっと、やだなあ。仁のこと、信じてないわけじゃないけど。でも、迫られちゃうってだけでも嫌だとか、なんかオレ、心狭いというか――余裕がないのかな。  仁が焼きそばの麺を手にしながら、にんじんあったっけ?と聞いてくるので、うん、と頷きながらも、なんだかとりとめもなく考えている自分に困っていると。 「なんかさあ……」 「ん?」 「……彰、もうちょっと、ダサいカッコしない?」  仁に言われた言葉の意味が、よくわからない。  ダサいカッコ??  全然分からなくて、思わず自分の今着ている服を確認してしまう。 「……んん? 何それ? どういう意味?」 「んー…… 特にさ、オレが居ないところでさ」 「……?」  全然分からない。  ダサいカッコをすすめられている……?  不思議すぎて、じっと見つめていると、仁は少し言葉に詰まって。それから苦笑いを浮かべた。 「……なんかさぁ」 「うん……?」 「……昔から、綺麗だとは思ってたんだけど」 「…………」 「最近ますます可愛くてさ」 「――え。オレのこと言ってる?」 「今他に誰の話すんの」  仁はまた苦笑い。 「……彰が綺麗すぎてヤバいから、オレは心配なんだよね」 「――」  開店と同時に入ったスーパーは人がまばらで。まわりに人は居ない。それも分かってて、仁はこんなことを言ってるのだけど。 「だから、とりあえず、服装、そんなにオシャレじゃなくしてもいいなって思っただけ―― つか、オレ、何言ってンだ……」  最後、なんだか自分に呆れたように仁が言う。  ポリポリと頭をかいてるその動作を見ていたら。  ふふ、と笑いがこみあげてしまった。  そのまま、あは、と笑ってるオレに、そんな笑わないでよと、むくれる仁。 「……ごめん、後で、話す。今オレが、思ってたこと」 「後で?」 「うん、後で。家、帰ったら」  クスクス笑いながら、そう言ってしまう。  まだちょっと、む、としてるけど、その内、ま、いっかと微笑む。  ――こういう風に微笑んでる仁は。ほんとに可愛くて。なんだか、こっちまで顔が綻ぶ。

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