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最終話「側に」

「……彰、明日のバイト午後からだよね?」 「うん、仁も?」 「ん。じゃあ明日午前はゆっくりしよ。あ、買い物は行く?」 「うん」 「早めに行って、のんびりしよ」 「ん」  頷いて、そのまま、仁に抱き締められたまま、目を伏せていたら、ふと思い出した。 「あ、そうだ。塾のバイトどうするか決めてほしいって、真鍋先生から電話来たよ」 「……うん」  腕の中から、髪を撫でられたまま、仁を見上げる。 「どうするか決めた?」 「んー……。カフェ減らして、塾のバイト行こうかと思うんだけど」 「ほんとに?」 「……それでいい?」 「うん。ていうか……それでいいって何で聞くの?」  不思議に思って聞いたら、少し黙った後。 「……それだと、彰にずっと張り付くことになるから」  何だか苦笑いを含んだ声でそんな風に言う、仁の言葉に笑ってしまう。  ゆっくり、仁を見上げた。 「ていうか……それをだめだって、オレが言うと思う?」  仁は答えずに、オレの顔を、ただじっと見つめている。 「もう一生、張り付いててくれていいよ?」 「……ん」  やっと嬉しそうに微笑んだ仁が、ゆっくり顔を近づけて、キスしてくる。 「……そういうこと言っちゃうと……オレ、ほんとに張り付くよ」  笑み交じりの言葉に、何だか可笑しくなって。 「……よく考えたら、張り付くって表現、おかしいけど」  クスクス笑いながら、仁を見上げて、オレはその頬に手を触れさせた。 「オレ……もうずっと、仁と一緒に居るつもりだから」 「――――……」  不意に、腕が回ってきて、ぎゅうと抱き締められる。 「……大好きだよ、彰……」  噛みしめるみたいに囁く声に、瞳を伏せる。  仁の背中に腕を回して、そっと抱き付いてから。 「……学校は一緒に居れないから、塾のバイトで一緒に居れるのは嬉しいし……少し違う仁も見れるし。講義とかが嫌じゃなければ、続けてくれたら嬉しい……」 「……ん、分かった。続ける。明日電話しとくから、彰からもよろしく言っといて?」 「うん。……次はマイク持って、講義もさせられると思うけど。平気?」 「つか、オレ、元生徒会長だよ? ……何百人の前で喋ってたからね。全然平気」 「あ、そっか。そうなんだよね。……オレ、それ見てないんだよね」  何気なくそう言ったら。 「まあ元々、卒業してたから見れないけどさ。……家にも居なかったもんね?」 「……ごめんって」  ちょっと恨めし気に言われて、仁を見上げて思わず謝ったら。  仁は、瞳を優しく緩ませた。 「……ちょっと言ってみただけ。謝んないで」 「ん……」    ごめんね、と、ちゅ、と頬にキスされる。 「……生徒会長の仁、カッコよかっただろうなー……モテたでしょ」 「んー? ああ…… まあ。すげーモテたけど」 「……ちょっとは謙遜したら」  言うと、仁は可笑しそうに笑う。 「まあ、和己からも、仁がすごいモテてるって報告きてたけど」 「何の報告だよ。いらないなー……」  クスクス笑いながら、仁はオレを抱き締めた。 「誰にモテたって関係ないし。オレ、今ここに居るんだから、そういうことだよ」 「わー……なんかすごいセリフだな」  言いながら、仁を見上げると。 「だってそうだもん」  と、なんだかちょっと可愛い言い方で、笑う。 「……ずっと彰のことしか、考えてなかったよ。忘れようとしてた時期もあったけど、結局、忘れようとしてるってことはその時点で既に考えてるってことなんだよなって……なんかそんなことを思ってた」 「――――……」  オレは、じっと仁を見つめていたけれど。  何とも言えない気持ちになって。  ゆっくりゆっくり、仁に、キスした。 「……もう忘れようとしなくていいから。オレもしないから」  オレがそう言うと、仁がすごく嬉しそうに頷く。 「……ていうか、もうオレは、彰と一緒に何しようかなーどこ行こうかなーとか、それしか考えてないけどね」  嬉しそうに言う仁に、そうなんだ、と笑いながら。 「うん。もうずっと一緒にいようね……」  そう言うと。 「そんなの当たり前」  と言った仁に、抱き締められる。 「……もう、絶対離さないし、側にいる」  仁が、まるで誓いの言葉みたいに、はっきりと告げてくれる。  幸せな感覚でいっぱいで。  仁に、キスされて、瞳を閉じた。 ◇ ◇ ◇ ◇  週末。  ――――……今、オレと仁は、実家の門の前。 「……めちゃくちゃ、ドキドキ、する」 「うん」 「やっぱり、ちょっと待って」 「……うん」  ぷ、と仁が笑いながらオレを見つめる。 「何で仁は平気なの……」 「オレはもう、修羅場乗り越えてるし。和己には父さんから話してくれて、分かってくれてるみたいだし……てなったら、オレがするのは、幸せな事後報告みたいなもんだから」  仁はクスクス笑いながら、そんな風に言う。  オレ達は……というか、オレは、実家のチャイムを鳴らせず、立ち止まっている。  もう五分位は、経ったかな……。  ここに来る前も、駅前の喫茶店で、一時間位の時間を潰して、覚悟してきたのだけれど。 「いいよ、待ってるから」  仁はクスクス笑いながら、門の先の家を見上げてる。  ……覚悟は散々してきた。  仁とそうなった時点で、覚悟はした。  ……そしたらもう仁が父さんと母さんに伝え済みと聞いて、驚いたけど。  よく考えたら、もう、許可をもらってくれていた訳で、オレはかなり楽だと思うのに、家に入る勇気がなかなか出ない。 「……仁、ごめん」 「いいよ。分かるし。オレも、言うって決めてから、実際言うまでは、結構日数かかった」 「……覚悟してない訳じゃないんだけど」 「それも分かってる。謝んなくて大丈夫だよ、彰」  優しい言葉に、胸の奥が、きゅ、と疼く。  オレは、拳を握り締めた。 「――――……ん。行く」 「え。もう? いいの?」  逆に驚かれた。 「覚悟、できた」 「……そっか」  めちゃくちゃ嬉しそうに笑う仁に、キスしたい衝動に駆られるけど。  ……そんなこと、言ってる場合じゃない。  こんなにドキドキして実家のチャイムに触れることなんか、もう今後二度とないだろうなと思いながら、ボタンを押した。  インターホンに出てこない。家に居る筈なのに。……そう思った瞬間。  不意に、玄関のドアが開いたので、そっちに視線を向けた。  父さんと母さんと、和己も見える。  めちゃくちゃ、笑顔の三人を見たら。  泣きそうになってしまった。 「まだ泣くの早いよ、彰」  オレを振り返った仁が、オレのことを、愛おしそうに。  本当にそうとしか見えない位、愛おしそうに、見つめてくる。 「……嬉しいだけ」  オレが言うと、ますます優しく緩む、仁の瞳。  愛しさでいっぱいになりながら。  オレは、家に向かって、歩き出した。  -Fin- ◇ ◇ ◇ ◇ あとがき◇ (読みたい方だけ…♡) お読みいただき、ありがとうございました。 他サイトでは三人称で書いて、今現在も続いているものを、一人称で書き直し、一旦、エンドマークをつけさせていただくために、最後のシーンを追加しました。 この続きは、番外編で、読み切れる形でのせていこうかなと思います(^^) もし、このお話を好きだと思って頂けましたら♡ 下の「感想を伝える」の所から、ハートマークを送って頂くか、レビューを書いて頂けたらとても嬉しいです(*'▽')♡  ではでは……♡ (2023/2/23)

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