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第6話
天使様の美しい顔が僕の視界いっぱいに広がる。
顔が近付くにつれ天使様の甘い吐息が僕の唇に掛かるのだが、もしかしてキスしちゃうの?
「わっ、ちょっと待ってください」
咄嗟に拒んだ僕の声に、一瞬動きを止めた天使様だったが、「大丈夫。安心して、私に身を任せて下さい」そう言って、僕の首の後ろに腕を入れてきた。
「み、身を・・・って」
異性はもちろん、同性とでさえ親密な距離を取った事の無い僕は、思考も体も硬直するしかなかった。
そんな状態の僕の上半身を軽々と引き上げた天使様は、僕の反応を不思議に思ったのか一瞬眉間にしわを寄せたけど、もう一度「大丈夫、痛い思いはさせないから」と囁いて、首裏にに入れた腕とは反対側の手を、僕の膝裏に差し込んだ。
イヤ、痛い思いはさせないって言うけど、ある意味この状況が、いろいろ痛い気がしてきた。忘れてたけど、この場所には大勢の人が集まっており、ヒソヒソと囁き合う声も聞こえて来る。
天使様の言動から何をしようとしているのか見当が付いた(キスされると思った自分が恥ずかしい)けれど、衆人監視のもとアレをされると思うと痛いどころか即死は免れない気がするのだ。精神的にも物理的にも(苦)
見た目通りに、僕の体は重い。大学生の頃には100キロを突破し、今も豊満ボディをキープしたままだ。
反して天使様はと言うと・・・・・。
僕が見える範囲(実は首を動かす事も出来なかった)での天使様の印象は、決して弱々しくはないけれど、前世(この時点で、と思っていた)のモデルさんばりのスタイルだ。
外見とは違い力持ちだとしても、僕を抱き上げるのは無理だろう。多少体が持ち上がったところで、取り落とされてしまうのは目に見えている。
お姫様抱っこからの、二度目の転落死!(転落死フラグなの?)
「ダメ! 無理だよー」
その瞬間、制止する僕の声が広間に響き渡ったのである。
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