1 / 6
第1話 はじまり
「……はっ……ん、ん………う……あっ……んん〜~っ!」
ここは王宮の奥にある、第二王子の寝室。赤いビロードのベッドカバーの上で、深く重なる影が2つ。漏れ聞こえるのは、時折、快感によって生まれる悩ましい吐息と、どこの器官から生まれたか分からない水音だった。
影のうち一人は、ブロンドの柔らかい絹のような髪を肩までたらし、高い鼻梁は驚くほど小さく整った顔の中心におさまった見目麗しい男だ。その男は目を閉じているが、時たま熱に浮かされたように薄く開けられると、色素の薄い翡翠のような瞳が見え隠れしていた。
もう一人の影は、青みがかった黒色の髪の男だ。こちらは、瞳が大きいのが印象的ではあるものの、先ほどの金髪の男と比べると、雑踏ではすぐに見失ってしまいそうなほどの凡庸さだった。
──ちょ、誰だよ?! 俺のこと凡庸って言ってる奴は?!
凡庸で悪かったな。残念ながら、生まれてくるときに容姿は選べないんだから仕方がないじゃないか。
俺の名前はエリック・スタトック。凡庸だけれど、これでも伯爵家の次男だ。次男ってところが、また残念ポイントだったろうか……?
いやいや、それどころじゃない。今はこの現実をどう受け止めたらいいのかってことだ。最初に俺たちがこの部屋に入ってきた時は、古くからの友人として学校の話やもうすぐ始まる試験の話をしていたはずだった。そのうちに第二王子のルーク様が「ちょっと疲れたから休みたい」と言いだしたのだ。
俺は凡庸だけれど、そんなにアホではないと思う。学校の勉強のほかに国の執務までこなしているんだから、そりゃ疲れて当たり前だとわかるよ。そうルーク様に言われたら、「ではまた学校で」と言って退室しようとしたんだ。
それなのに、なぜか俺はルーク様に引っ張られて私室の奥にあるこの寝室まで連れてこられたのだ。もしかして倒れる可能性があって、誰かそばに必要なのかと思った。「そんなに具合が悪いのですか?」 と心配になって尋ねてみたら
「……そうかもしれないんだ」
と、微かに頬を染めて言うではないか! ね、熱があるのか?!
ともだちにシェアしよう!