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第2話 はじまり2
俺は驚いて「ルーク様、お顔が少し赤いようです。もしかして熱が……?」と言って、ルーク様にはベッドに座るように促した。いつも凛々しく、威風堂々としているルーク様には珍しく、コクンと頷くと素直に俺の言うことを聞いてくれた。なんだか失礼だけれど、可愛らしいなと思ってしまった。
俺は床に片膝をついて、ルーク様を見上げ、「どなたか医師を呼んでまいりましょう」と伝えた。
しかし、ルーク様は「医師などいらぬ。……エリック、ここへ座れ」と自分の左隣を指し示したのだ。
なぜ? とほのかに疑問を感じたが、ルーク様の言うことには逆らえない。「はい」と応じて、隣に腰かけた。赤いビロードのカバーがかかったベッドは、思いの外、柔らかく俺が座った重みでルーク様が俺に寄りかかるような態勢になってしまった。
「あっ、すみません。ルーク様、大丈夫ですか?」
ルーク様の小さな頭が俺の肩に、乗っかっている。顔は驚くほど小さいけれど、身体つきは程よく筋肉がついている。身長が高い分、余計にほっそりと見えるのかもしれない。
俺が慌てて、身体を支えて起こして差し上げようと思ったのだが、ルーク様は、それを手で制止した。
そして、男の俺でもクラクラしてしまうようなアンニュイな表情で
「なんだか最近、よく眠れないんだ」とつぶやいたのだ。
「それは大変です。ルーク様が体調を崩されたら、この国も私にも大きなダメージですから、やはり医師に薬を処方していただきましょう」
俺は立ち上がって、医師を呼びに行こうとしたのだが、隣からグイッと引き戻されてしまい、同じ場所に座り直してしまった。
「……エリックにとってもダメージがあるのか…? 私が倒れると……?」
囁くような小さい声だったが、
「はい、もちろんです。ルーク様は、この国にはなくてはならない存在ですから」と俺は返答した。俺の答えはきっと全国民が思っているのではないだろうか。
ルーク様は、ルーク・ハバートン・ガイナといってガイナ国の第二王子だ。もちろん皇太子であるルーク様の兄ネイサン様も、父親で現国王も立派な方だ。安定した国の運営は、この2人によるものであることは間違いない。ただ、ルーク様は、特別だった。
国の古文書に残された、ガイナ国の始祖であるグラムビの姿そのものだったからだ。ルーク様がおうまれになった時は、始祖が再び降臨したと国中が歓喜に包まれたという。それほどにこの国ではルーク様の存在は、神にも近しい神聖なものだった。
そんな尊い存在ではあるが、やはりこども時代はある。兄様と2人だけで過ごすのはよくないと、友人として引き合わされたのが俺だったのだ。年齢が同じで、家柄も問題なし。俺の兄もルーク様の兄ネイサン様のご学友だったことも大きかった。そして、5歳くらいからだったか、ちょくちょく父に連れられて王宮に遊びに来るようになった。
ルーク様は、その頃からすでに人間らしからぬ美しさだったが、話してみるとネイサン様の影響のせいか、快活で頭の回転が速い聡明な子どもだった。俺たちはすぐに仲良くなり、俺は今の18歳になるまで一番近しい友人のポジションに居続けたのだ。
最近は卒業も近くなってきて、それぞれ将来が分かれて行くんだろうなと漠然と感じていた。俺も在学中に婚約者を見つけろと散々、父親から言われていたし、それについても冗談めかしてルーク様に報告していた。
ぼんやりと綺麗な横顔を眺め、昔のことを思い出していると、ルーク様の手が俺の頬に触れ、意識が戻ってきた。
「国の民ではなく、お前、エリックはどうなのだ」
と尋ねるから、
「それはもちろん、私もルーク様にはいつも健康でいていただきたく……」
「ならば、昔のように、ここに挨拶をしてくれ」
そう指し示されたのは、少し赤みが差したルーク様の頬だった。
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