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第1話 序曲
「…………ございます」
んん〜
「おはようございます…………様」
誰かの呼ぶ声がする。
「おはようございます。勇者様」
勇者って、俺?
「おや。まだお目覚めになりませんか?眠りの魔法が少し、効きすぎてしまったのでしょうか」
耳元で囁く声が心地良くて、また微睡みの中へ落ちてゆきそう……
「困りましたね」
俺がこの優しい声の人を困らせているの?
何とかしたい。
でも、瞼が重くて目が開けられないよう〜
ふわ〜
「仕方のない勇者様です……フフ」
まるで羽に包まれているように。
体がふわふわして心地良い。彼の少し低くて柔らかな声を聞いていると、ふわふわした心地で眠りの中に誘われていく。
「起きて下さい。勇者様」
吐息が耳元をすくった。
首筋のあたりがくすぐったくて、さわさわ、さわさわ触れてくるのは彼の髪だろうか。
「おはようございます。勇者様」
ほっぺたに濡れたあたたかい何かが……
チュッ♥
「ひゃっ!」
「やっとお目覚めになりましたね、勇者様。おはようございます」
「………」
「おや?固まってらっしゃいますが、石化魔法を使った記憶はないのですが」
「………」
「勇者様?」
「………」
「目覚めの魔法が浅かったのでしょうか。目を開けて眠っていらっしゃる。もう一度、試してみましょう。頬に触れますよ、勇者様」
星の光を集めたような、美しい銀の髪が朝日に揺れた。
左の頬に指が触れて……大きな手に包まれて……優しい温もりが頬を撫でた。
蜂蜜を溶かしたような瞳。
きれい……
陶磁のような白い肌。長い睫毛。秀麗な面差しが近づいてくる。
「おはようございます。勇者様」
「キャアァァァーッ!!」
「どうされましたか、勇者様。突然、奇声を発せられて。ここは私の館。勇者様を害する者はいませんよ」
プルプルプル〜
震える肩で小刻みに首を横に振った。
「では寝起きに奇声を発するのは、人間の文化でしたか。勉強不足、申し訳ございません。今後は勇者様の文化を尊重致します」
プルプルプル〜
そんな文化はありません。
「私の勘違いでしたか。重ね重ね申し訳ございません。ところで、先程から勇者様はどうして震えているのでしょう?もしかして、怖い夢でも見ましたか?」
ふぁさふぁさふぁさ
シーツの波が揺れた。
「もう大丈夫ですよ。私がいます」
ぎゅうー♥
「キャアァァァーッ!!」
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