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第29話

「そうか」  俺を見る王様は、風のない湖面のような目をしている。 「では、魔王は今どこにいる?」 「魔宮の最果て。悠久の火の部屋です」 「魔王は自力で動けない状態か」 「恐らくは。限られた者しか魔王の部屋には入れないので、確実な回答ではありません」 「僕が魔王討伐軍を編成して、魔王を討つと言ったら君はどうする」 「止めます」 「なぜ?」 「俺の意志で魔王を討たなかったからてす。一度助けた命を討たせる訳にはいきません」 「僕の命令に逆らうのか」 「命を救うのが勇者ですから」  瞳と瞳が絡まり合う。  譲れない。  人を救うために魔王を討つという道理。  当然だ。  王様には、国民の命を守る責務がある。  でも。  だから、王様…… 「ごめんなさい」  勇者だから、俺も守らなければならない。  人間の命も。魔族の命も。  両方の命を。 「魔王を滅ぼせば、恒久の平和が約束される。人類の願望だ。あと少し手を伸ばせば、それが手に入るのに。君は諦めろと言うのか」 「誰かを犠牲にした平和が永遠に続くとは思いません」 「言うね」 「諦めて下さい」 「勇者が『諦めろ』か……」 「すみません」 「違うよ。君は正しい」 「でも……」 「でも僕も間違ってはいない」  そうだね?  はい。  だから苦しい。 「ただ今回は、君にそこまで言わせてしまった僕に非がある。すまない」 「そんなっ」 「勇者に『諦めろ』なんて言わせてはいけない。そうだろう、魔軍宰相殿」 「全くです」 「……だそうだ。だから君が申し訳なく思う事は何一つないよ」  蒼い双眼が曇りなく見つめる。 「君は僕の勇者だ。君の選んだ道が未来を拓く。そう信じているよ」  胸がじーんと熱くなる。 「ありがとうございます」 「こちらこそ。正直に話してくれてありがとう」 「ダイコンですね」  ……えっ、大根? 「おや、勇者様は知りませんか。こういう人を、人間界では『大根役者』というそうですよ」 「ちょっ、君っ」  王様が焦り出した。どうして?  俺、全然、意味が分からないんだけど〜

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