1 / 17
第1話
「6ヶ月以内に死にます。」
日高はそう言われた時、一瞬衝撃があって。
猛烈な悲しみがあって。
そして高揚していた。
それはもう我慢しなくていいと言われた気がしたからだった。
自他共に認める理性的な彼は、自分でもそう生きることが正しいと思っていた。誰かの為になることを当然と思い行う事も、規則正しい生活も決して苦だったわけではない。
だけれど理性を投げ捨てたくなることが日高にもあった。
それは主に恋愛だった。
日高は小学生からずっと好きな人間がいた。
綾瀬 櫂。
その名前を胸の中で唱えるだけで日高の胸は踊る。
櫂は2つ年上の幼馴染だった。兄と同級生の彼を初めて見たのは小学4年生だった。
彼に初めて会い、陽の光を集めて笑った時に日高は息をすることを忘れた。
しかし櫂の想い人は日高の兄である千隼だった。それに気づいたのは中学一年生で、恐らく櫂が千隼を好きになったのもそれくらいの歳なのだろう。
日高は誰よりも千隼を見ていた。
だから彼が兄へ向ける瞳の熱に気付いたのは当然であり、必然であった。
櫂を好きになってから9年間。日高はずっと幼なじみの弟であり、想い人の弟でいた。
それがこれからも続くと思ったし、その覚悟もしていた。
だけれどどうしようもないくらい彼に打ち明けて、砕けてしまいたい時もあった。
しかし彼との関係が断絶してしまうことの方が遥かに怖かった。
だから心底に潜らせていた。
だけど、もう死んでしまうと言うのなら。
それも意味など持たないだろう。
ともだちにシェアしよう!