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第1話

「6ヶ月以内に死にます。」 日高はそう言われた時、一瞬衝撃があって。 猛烈な悲しみがあって。 そして高揚していた。 それはもう我慢しなくていいと言われた気がしたからだった。 自他共に認める理性的な彼は、自分でもそう生きることが正しいと思っていた。誰かの為になることを当然と思い行う事も、規則正しい生活も決して苦だったわけではない。 だけれど理性を投げ捨てたくなることが日高にもあった。 それは主に恋愛だった。 日高は小学生からずっと好きな人間がいた。 綾瀬 櫂。 その名前を胸の中で唱えるだけで日高の胸は踊る。 櫂は2つ年上の幼馴染だった。兄と同級生の彼を初めて見たのは小学4年生だった。 彼に初めて会い、陽の光を集めて笑った時に日高は息をすることを忘れた。 しかし櫂の想い人は日高の兄である千隼だった。それに気づいたのは中学一年生で、恐らく櫂が千隼を好きになったのもそれくらいの歳なのだろう。 日高は誰よりも千隼を見ていた。 だから彼が兄へ向ける瞳の熱に気付いたのは当然であり、必然であった。 櫂を好きになってから9年間。日高はずっと幼なじみの弟であり、想い人の弟でいた。 それがこれからも続くと思ったし、その覚悟もしていた。 だけれどどうしようもないくらい彼に打ち明けて、砕けてしまいたい時もあった。 しかし彼との関係が断絶してしまうことの方が遥かに怖かった。 だから心底に潜らせていた。 だけど、もう死んでしまうと言うのなら。 それも意味など持たないだろう。

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