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第1話
毎日が同じことの繰り返し。
殺さない程度に痛めつけ、腹の底に隠した秘密を吐き出させる――そのことですら薬を使えば済むのだ。だったら何故わざわざ自分がこんなことをしなければならないのか。
退屈なルーティンの繰り返しに桜蔭(おういん)は飽き飽きしていた。
そんな中辛うじて見つけた楽しみと言えば、自分の部屋である拷問部屋へと連れてこられた男をいたぶることだけだった。
「あーあ、退屈。なんか面白いことないかなあ」
「お前が退屈なのはいいことだろ。こっちなんて駆り出されまくって大忙しだ」
「そんなこと言って、大義名分で殺すことが出来て気持よくて仕方ないんじゃない? いいなぁ、僕もそっち志願しとけばよかった」
今夜も朝から人っ子一人来ない拷問部屋は最早桜蔭の自室と化していた。そんなところにやってきたのは同僚である男だ。
桜蔭と同じ、組織配給の黒地に銀の装飾が施された制服を着込んでいるが、男にしては細身の桜蔭とは対象的にその制服は鍛えられた筋肉ではちきれんばかりだった。
鋭い目を猫のように細め、男は膝の上に座ってくる桜蔭の細い腰を掴む。
「ちょっと、えっち」
「なーにがえっちだ。こんな細え腰でなにできんだよ、お前ろくに鍛錬もしねえくせに」
「良いんだよ。僕の専門はインドアだから。あと汗かくのやだし」
「お前な、言ってるめちゃくちゃじゃないか」
桜蔭自身も平均的な男よりも鍛えているが、現役で前線に立つ男たちと比べるとやはり細く見えられることが多かった。
そのまま薄い腰から臀部までの輪郭を分厚い掌で撫でられ、桜蔭は口元を緩める。
「ねえ、忙しいんじゃなかったっけ?」
「お前を鍛えてやるよ」
「うわ、おっさん臭いな。まあいいよ。どうせ暇だったし、お客さんが来るまでは付き合ってあげる」
そう腰に巻きつけられたベルトを緩め、目の前の男の唇にわざと音を立ててすり寄る。
まるで黒猫のようだと、桜蔭のことを知る者たちは口にする。体付きや声は男そのものなのに、その仕草や言葉の端々から滲む中性的な雰囲気が男所帯のこの組織内では性欲を煽られる者がよく現れた。
同僚の男もその内の一人だ。
嵌れば仕舞いだと分かっていながらも、足繁くこの拷問部屋へと足を運んでいる。手遅れなのだろうと自覚しながらも、桜蔭を抱いた日の感触が忘れられずにいた。
◆ ◆ ◆
同僚の男との行為を及び、夢中になっている最中。申し訳なさそうに声をかけてきた部下に桜蔭は行為を中断させた。
――新しいお客様がきた。
本邦でマイペースな桜蔭だが、あの方からの命である本職をサボることはない。
何回か分の精液が残ったまま、乱れた制服を着直した桜蔭は同僚を叩き出し、そして新たな同居人を迎え入れるための準備に取り掛かった。
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