2 / 3

第2話※

「やあこんにちは、酷い目に遭ったんだってね。ここの人たちって皆野蛮だから大変だっただろ?」  全身を拘束されたまま椅子に座らせられる男は既に満身創痍だった。猿轡を噛まされ、ふーっふーっと獣のように荒く呼吸を繰り返す度にその胸が膨らむ。  大抵この拷問部屋に連れてこられる人間は組織が取り込みたい者か、組織に楯突いた者だ。  ――そしてこの男は後者だという。手荒な拘束といい、既に虫の息に見えた。  こんな男を長く甚振ることはできないが、幸いこの男の顔は桜蔭の好みの顔だった。  彫りが深く、男性的な色気を溢れさせる造形――今はもう記憶に遠い、思い出の中の父親によく似た自分が最も愛したいタイプの顔だ。  切れながの目がこちらを睨み、獣のように全身の毛を逆立てて唸る男に桜蔭は歩み寄る。履いていたヒールの音がかつり、かつりと広くはない殺風景な空間に響いた。 「僕の名前は桜蔭、今日から君の家族になる者だ。……そんなに警戒しないで、仲良くしよう」  腰に身に着けていたベルトからナイフを抜き取り、桜蔭は男の口にハメられていたギャグボールのヒモを切った。  瞬間、男は桜蔭の整った顔に唾液の塊を吐きつける。血液混じりの唾液がどろりと桜蔭の頬から滴り落ち、桜蔭の笑顔は凍りついたまま男を見た。 「クネクネクネクネ気色悪いんだよ、オカマ野郎。テメェらも、あの変態共も全員ぶっ殺してやる!!」  ――ぷつりと、桜蔭の頭の奥でなにかが切れるような感覚を覚えた。  次の瞬間、桜蔭は手にしていたナイフの柄を持ち替え、そのまま男のコメカミを殴った。 「っ、ぐ、ッ!」  項垂れ、額の傷口が開いたのかどろりと赤い血を滴らせる男の前髪を更に掴み上げ、桜蔭は苦悶に歪むその表情をじっくりと見つめる。  毛細血管が切れ、赤くなった片目の眼球。それでもしっかりとこちらを睨んでくるその目に腹の底、先程まで男根で犯され続けた体内に絶頂にも似た昂りが込み上げてくるのだ。  ――ああ、イイ。  ――これは、久し振りの当たりかもしれない。 「……口の聞き方には気をつけた方がいいよ、ワンちゃん。僕はオカマじゃなくて桜蔭だ」 「っ、ふ、ざけ……んぐッ」  男の口にナイフの柄をそのままねじ込み、口をこじ開ける。切れた唇の端に滲む血液を舐め取れば、男の顔が青褪めた。 「……っ、な、にひ」 「どうせ君は自白するんだ、君自身のこと、お友達、家族……秘密も。君から話を聞き出すために与えられたのは四十八時間」 「それまで、僕とたくさん遊ぼう」荒い吐息を吐き出し、桜蔭は男の股に手を伸ばした。  男の名前は猪鹿倉(いかぐら)。  組織の静粛対象に猪鹿倉の恋人がいたらしく、恋人を始末された怒りで組織に単身で乗り込んできたという。無論、成人男性一人で組織の鍛えられた多数の人間に敵うはずもない。  呆気なく返り討ちに合い、その場で暴行されたのちにここに連れてこられたようだ。  桜蔭からしてみれば呆れを通り越して滑稽ですらあった。この世にいない恋人のために自ら自死するつもりだったのかと。  その反面、その愚かさが愛しくもある。 「お前の恋人は男だったと聞いた。どんな恋人だったんだ?」 「……っ、黙れ、この……ッ、ぉ……ッ」 「抱いていたのか? それとも、抱かれてたのかな? ……見たところ、立派なモノをお持ちのようだからここをたくさん使ってあげていたのかな」  好奇心に駆り立てられた猫のように猪鹿倉の股の間に座り込んだ桜蔭は、パンツ越しに膨らんだ男根を舌先で突く。  それだけで猪鹿倉は反応した。それぞれの足首と椅子の足と拘束した鎖が音を立てるのを聞きながら、くすくすと桜蔭は笑う。 「……ッ、黙れと言ってる」 「そう毛嫌いしなくてもいいじゃないか。辛いことは口に出した方がすっきりすると聞く。……ほら、こっちも楽にしてあげよう」 「やめろ」と暴れる猪鹿倉を無視し、桜蔭はそのままパンツのファスナーを緩めた。まだ完全ではないが、確かに芯を持ち始めたそこを見下ろしたまま桜蔭は細く白い指を伸ばし、下着越しにつうっとなぞる。  瞬間、猪鹿倉の腰が跳ね上がった。指の下で男のものが大きくなるのを感じ、更に桜蔭は唇を寄せる。 「っ、は、口では嫌だと言ってるが、こちらはなかなか物分りがいいみたいだね。ほら、良い子だ。僕に触ってほしそうに震えてる」 「……ッ、違う、勝手なことを抜かすな、この……ッ!」  それでも認めない猪鹿倉に加虐心を煽られながらも、そのまま下着越しにちろりと舌を這わせる。鼻先を押し付け、膨らみにキスし、びくりと震える猪鹿倉の腿を掴んだまま股間に顔を埋めた桜蔭。  その下着の膨らみに滲む先走りのシミに唇を押し付け、啜り上げれば猪鹿倉の鍛えられた腹部が震える。 「っ、ふ、ぅ……ッ」 「……は、」  なにが恋人だ。なにが家族なのだ。  そこに愛情がなくとも興奮はするし勃起はする。  下着のウエストを掴み、ずり下げればぶるりと飛び出る猪鹿倉の性器に思わず笑みが溢れた。既に我慢汁で濡れ、真っ赤に充血した男根は見立て通り平均よりも遥かに多い。巨根が自慢の同僚の男のことを思い出しながらも、桜蔭は下半身、その奥が熱く疼くのを感じた。  ――旨そうだ。  むわりと鼻腔を擽る雄の匂いに脳髄が痺れ、ないに等しい理性では我慢することなどできなかった。ちろりと小さな舌を出した桜蔭はそのまま目の前の反り立つ男根に舌を這わせる。 「な、ッ、ぉ、お前……ッ」 「は……っ、んむ……ッ」  裏筋にちゅぷ、と唇ごと押し付け、そのまま浮かび上がる太い血管に舌を押し付けた。下着の中に手を滑り込まれ、ぱんぱんに膨らんだ睾丸の重みにうっとりと目を細めながら桜蔭は目の前の性器にむしゃぶりつくのだ。 「っは、……ッ、ぅ゛、ぐ、やめろ……ッ! こんなこと……ッ、なんに……ッ」 「っは、いい声。恋人とはどんなセックスしてたの? ねえ、教えてよ僕に」 「っ、だ、まれ……ッ、お前なんか……ッ、ごろ、し……ッ、ぅ゛……ッ!!」  れろぉっと根本から亀頭まで舌を這わせ、そのままぱくりと亀頭を咥えればビクビク!と口の中で性器が反応する。そのまま喉の奥まで舌で撫で上げながらも性器を飲み込み、咥内全体を使って唾液を絡め、亀頭を中心に舌で責め上げた。 「っ、ふ、ざけ……ッ、ぅ゛……ッ! やめ、ぇ゛……ッ!」 「ん゛……ッ、ふ、ぅ、ふふ……ッ」 「う゛、ッ、クソ……ッ! クソがぁ……ッ!」  思わず笑ってしまいそうになりながらも桜蔭は咆哮にも似た声を漏らす猪鹿倉の腿を掴んで根本まで性器を飲み込んだ。  子供腕ほどあるそれは喉の奥、口蓋垂を掠めながらもにゅるにゅると出入りする。唾液と先走りが口の中で泡立てて混ざり合い、唇で性器全体を絞り上げながらも頭を前後させて喉オナホで扱き上げればあっという間に舌の上で猪鹿倉の性器は怒張していた。  顔を真っ赤にし、眉間に深い皺を寄せる猪鹿倉を見上げながら桜蔭は腫れ上がった亀頭にちろちろと舌を這わせる。瞬間、更に口の中のそれは跳ね上がった。 「……ッ、ふーッ、ぅ゛……ッ!」  先程までの悪態はどこにいったのか。  奥歯を噛み締め、拘束椅子の背もたれに逃げるように凭れかかる猪鹿倉は荒く呼吸を繰り返していた。  もうそろそろだろうか、などと思いながらどろどろに濡れた性器を締め上げながら亀頭を咥え、吸い上げた次の瞬間、桜蔭の口の中で大量の熱が迸る。 「ッ、は、ぁ゛……ッ!!」  どぷッ、と音を立てて喉の奥へと直接注ぎ込まれる熱をそのまま飲み干し、桜蔭は尿道口に残った精子までも全て残さず吸い上げた。  そしてじゅぶ、と音を立て性器から口を離した桜蔭は、唾液と精液で濡れた唇を舌で舐めとった。 「……濃いな。悪くない味だよ、僕が女だったら一発で孕んでいただろうね」 「ッ、黙れ……」 「人の口で出しておいてまだ強がるのか? 本当に強情だな、それとも恋人への操立てってやつか?」 「まあどちらでもいいけど、まだ物足りなさそうだね」そう言って、向かい合うように猪鹿倉の膝の上に乗り上げた桜蔭はそのまま猪鹿倉の逞しい上半身にしなだれかかる。  その太腿に置かれる桜蔭の柔らかな臀部の感触、そして重みに反応するかのように股の間の猪鹿倉のものが再び頭を擡げ始めるのを見て桜蔭は「ふふ、」と笑みを浮かべた。そして、目の前すぐそばにあるその端正な顔に唇を寄せる。  この部屋に来たばかりとは違う、苦悶の表情には興奮の色も混じっているのを桜蔭は見逃さなかった。 「早く素直になれよ。僕の家族になってくれるのならたっぷりとここを可愛がってあげるというのに」 「……ッ、殺す……」 「それも悪くない。君のこれでヤリ殺されるのは堪らなく良さそうだ」  すり、と自分の下腹部を押し付けるように桜蔭は猪鹿倉の上に跨った。まるで疑似性行為をしているかのように性器の上に尻を置き、その割れ目の辺りでスリスリ…♡と更に圧迫する。それだけで猪鹿倉の性器がまた膨らむのが分かり、気分を良くした桜蔭はそのまま猪鹿倉の後頭部に腕を回すように抱きついた。 「な……」  二人の影が重なり、拷問椅子が小さく軋んだ。  鼻先が擦れ合い、なにをされるか悟った猪鹿倉は硬く唇を結ぶ。それを無視して、桜蔭は伸ばした舌で猪鹿倉の唇を舐めた。 「っ、ん、ぅ……ッ」  ちゅぷ、ちゅ、とわざと音を立るように、何度も何度も優しく甘えるようなキスで猪鹿倉の唇を開かせようとする。  唇を重ねれば自然と胴体は重なり合い、桜蔭の薄い胸を押し付けられるように抱きつかれながらも下腹部を揺すられる猪鹿倉。唇だけは許さまいと必死に顔を逸らそうとする猪鹿倉の痩けた両頬を抑えたまま、更に桜蔭はぐっと腰を落とすのだ。桜蔭の体重に押しつぶされそうになりながらも、逆らうように更に硬さを増す男根。そこを割れ目で挟むように、桜蔭は嫌らしく腰を動かし、刺激し続けた。 「……っ、ん、ぅ……ッ、ふ……ッ」 「う゛……ッ、ぐ……」  上唇を噛むように捲られ、半ば無理やり侵入してくる舌を奥歯を食いしばって尚拒む猪鹿倉。それにより一層炊きつけられた桜蔭は、そのまま猪鹿倉の並びのいい歯とその歯茎をれろぉーっと舐めていく。瞬間、びくっと猪鹿倉の肩が跳ね上がり、顎が緩む。  ――もう少しだ。  桜蔭は更に舌先で責め、互いの唾液でどろどろに汚れながらもキス責をした。 「……っ、キスは好きか? 僕は好きだよ。なんだか愛し合ってるみたいじゃないか?」  猪鹿倉は応えない。それでも、尻の下でびくびくと反応する性器が返事をしてるようなものだ。  桜蔭は返事がないことを気にすることなく、再び口を貪りながらも自分の制服に手を掛けた。  突然目の前で脱ぎ出す桜蔭にぎょっとする猪鹿倉。目の前の男に見せつけるように上着の釦を外し、下に身に着けていたシャツの前も開けさせていく。  引き締まった上半身は男のそれだ。しかしそれだけではない。右半身を彩る鮮やかな女の幽鬼の和彫りが施されていた。幼い頃に出来た大怪我の傷を隠すために彫ったものだが、桜蔭はこの刺青を気に入っていた。  なによりも、この体を見たときの男の反応を確かめるのが好きだった。  猪鹿倉の目は自分の体に目を向けられていた。侮蔑の色もなにもない、惹きつけられたように食い入るように向けられた視線の熱さに全身の体温が何度か上がるのを覚えながら、桜蔭は猪鹿倉の頭を抱く。それから猪鹿倉に自らの胸を押し付けるのだ。 「っ、は、……ッ、や、めろ……ッ」 「――ここが、僕の心臓がある場所だ。ほら、食い破ってみるかい?」 「ッ、……」  そう、猪鹿倉の唇に自分の胸、その先端を咥えさせるように押し付ける。  散々男に弄ばれてきた乳首は明らかに肥大し、誘うように上向きに尖っていた。硬さももったそれを擦りつけられた猪鹿倉の目はこちらを睨んでいた。  さあ、どうする?  そう試すように猪鹿倉の後頭部を優しく撫で上げるように胸を押し付けた。鼻も口も塞ぐように胸で押し潰せば、ぬるりとした舌の感触が桜蔭の乳頭を掠める。 「……っ、は……ッ」  所詮この程度か。  そう、乳首を吸われ思わず吐息を漏らした次の瞬間、ガリッと尖った乳首に噛み付かれて桜蔭は「ぁっ」と甲高い声を漏らした。  そして体を逸したと同時に、桜蔭は笑って猪鹿倉の頬を叩く。今度は平手だった。それでも常人の張り手ではない。既に満身創痍だった猪鹿倉は殴られた反動で俯く。そして男の口が己の血で汚れてるのを見て桜蔭は笑った。 「ッ、悪い子だ。ああ、駄目だね。やり直しだ――猪鹿倉」 「……そう言う割には、随分と気持ち良さそうな声出してたけどな」  笑う猪鹿倉に微笑み返し、今度はその性器を掴んだ。急所を握られれば反応せざるを得ないようだ。「ぐ」と小さく呻く猪鹿倉に構わず、更にその根本をきつく親指と人差し指で作った輪で締め上げていく。 「やっぱり家族にするのはやめよう。お前は僕の犬にしてやる、今からお前は犬だ。聞こえてるか?」 「キチガイ野郎……っ、テメェのままごとに付き合ってられるかよ、殺すならさっさと殺せ……ッ!!」 「殺さない」 「……ッ」 「僕はお前を殺さない。お前は僕を殺せるかもしれないけどな」  手の中の男性器はきつく締め上げるあまり変色し始めていた。それは性器だけではない。口で強がっていようが、相当苦痛なのだろう。猪鹿倉の顔色は赤くなったり青くなったりと忙しそうだ。  そんな猪鹿倉の顔をじっくりと眺めながら、桜蔭は近くの鉄製の台に散らかしたままだったリードを手に取った。  犬の首につけるサイズよりも細く小さい、丈夫な革製のそのベルトを見た瞬間猪鹿倉の顔が青ざめる。その先端には金属製のリードのようなチェーンがぶら下がっており、それに指を絡めながら桜蔭は猪鹿倉のペニスの根本にそのベルトを巻きつける。 「っ、ぉ、おい……ッ」 「どうした? 何を狼狽えてる? ……殺されてもいい、そういったのはお前じゃなかったか?」 「……ッ、ぅ、ぐ……ッ!」  容赦なくぎちぎちに縛り上げ、金具を止める桜蔭はそのままチェーンを引っ張る。勃起と重量に逆らうように性器を引っ張られ、猪鹿倉は堪らず声を漏らした。額から脂汗を滲ませ、唸るその姿に桜蔭は満足そうに微笑む。 「お前のペニスは躾がなっていないな。ワンと鳴いて伏せをすることもできない、種付をしたくて堪らない発情期の犬だな」 「は、ッ、なせ」 「立場を間違えるなと言ってるだろ? ワンちゃんに人語は難しかったか?」  弄ぶように、今度は別の角度にチェーンを引っ張れば猪鹿倉の食いしばった唇の端から唾液が溢れる。  根本を縛られてるおかげで射精を阻害されてるのだろう、侘びしそうに尿道口がくぱくぱと開いてるのを見て桜蔭は頬を紅潮させ、その赤黒く鬱血し始めた亀頭を優しく撫でる。  瞬間「ううっ」と猪鹿倉が間抜けな声を漏らし、より一層楽しげに笑いながら開いた尿道口の窪みに指を押し付け、穿った。 「っ、ふ、ぅ゛……ッ、ぐ……ッ」 「顔色が悪いね、苦しい?」 「……ッ、く、クソが……ッ!」  犬の尻尾のようだと思った。陰茎を縛りあげれば大抵の男は従順になるのだから。  ぬちぬちと滲むカウパーを亀頭に塗り込めば、更に体液は滲み出す。フッフッと胸を上下させ荒く呼吸を繰り返す猪鹿倉を嘲りながら、桜蔭は再び猪鹿倉に上体を押し付ける。その片手でペニスを拘束したまま、猪鹿倉の耳を引っ張ってその鼓膜に直接甘く囁きかけるのだ。 「僕の犬になるって言え」 「……ッ、……」 「そうしたらこの首輪を外して、たくさん可愛がってやる」 「どうだ?猪鹿倉」そう、ぴちゃ、と赤く紅潮した耳朶を舐める。今にも破裂しそうなほどの鼓動が重なった上体から伝わってくるようだった。  猪鹿倉の額、滝のように流れる汗を舐め取り、「猪鹿倉」ともう一度名前を呼べばびくりとペニスが反応する。 「……っ、こ、とわる……」  猪鹿倉の目の焦点はぶれ始めている。それなのにまだ折れないのだから面白い。  桜蔭は笑い、そして猪鹿倉の睾丸を掌全体で叩いた。 「っ、ぐ、ひ……ッ!!」  瞬間、電流が走ったように猪鹿倉は悶絶する。前屈みになり、自分に凭れかかるように喘ぐ猪鹿倉が面白くて、上向きにペニスを引っ張りながら二度目の平手打ちを睾丸に食らわせた。 「ッ、ふ、ぐ……ッ!」 「お前は強情だね、猪鹿倉。……気に入ったよ、お前みたいな頑丈で壊れない犬が欲しかったんだ、僕は」 「はー……ッ、がァ……ッ!」 「おまけに萎えるどころかこんなに大きくさせて、自分で自分を苦しめてる。浅ましい雄だな、このまま壊死するつもりか? まあ僕はそれでも構わないよ、面白そうだからね」  口をパクパクと開閉させ、痛みを和らげようと必死に下腹部を攀じる猪鹿倉に構わず無防備な睾丸に3発目の平手打ちを食らわせれば今度は猪鹿倉は声をあげなかった。  痛みは重ねるほどより鋭利になる。それは桜蔭自身がよく知っていた。  そして最もデリケートで敏感な場所となるとその痛みは計り知れない。同じ男だからこそ、その痛みを想像したら胸が熱くなった。  前屈みになったまま声すらも上げずに悶絶する猪鹿倉の顔が見たくて、桜蔭は猪鹿倉の髪を掴んで再び起こす。  汗なのか涙なのか、濡れた頬と、まだ光の宿ったその強い目に思わず胸を撫でおろした。  ――ああ、そうでなくては。  口を開いたまま浅く呼吸を繰り返す猪鹿倉の頬を撫で、桜蔭はその唇にキスをした。  今度は猪鹿倉は拒むことをしなかった。 「……っ、ふ、んむ……ッ」  喉奥へと窄まった舌を絡み取り、自ら猪鹿倉の舌に重ねる。唾液が垂れようが、猪鹿倉はろくな抵抗することはなかった。  一旦この場で抵抗することをやめたのか?  反撃の隙きを見計らっているのか?  この際どちらでもよかった。今この瞬間の己の昂りを発散してくれるのならば、なんでもいい。  夢中になって猪鹿倉にキスをする。猪鹿倉が応えることはなかったが、それでも舌を絡めれば絡めるほど猪鹿倉は嫌そうな顔をする。そのくせ、その男根が萎えることはなかったのだ。  それが桜蔭は楽しくて仕方なかった。  舌伝いに己の唾液をとろりとたらし、「飲みなよ」と桜蔭は猪鹿倉の顎を掴んで無理やり口を閉じらせる。そのまま鼻を摘めば、猪鹿倉は息苦しさに耐えきれずに口の中に溜まった唾液を喉の奥へと落とした。ごくりと、喉仏が上下するのを確認して桜蔭は「良い子だね」と猪鹿倉の頬にキスをする。まだ懲りずに唇を避けようとするのでペニスを思いっきり回してやれば、「ぁぐッ」と猪鹿倉の腰が跳ねた。 「僕のキスは愛情の証だよ。それを受け取れない悪い子はまたお仕置きだ」 「……はーッ、はー……っ」 「こっちを見ろ、猪鹿倉」  亀頭を撫で、そして思いっきりその尿道口を潰すように口を塞げば猪鹿倉は太い悲鳴を漏らした。  少し力を加えて亀頭を揉めば、「ぐ、う」と猪鹿倉は潤んだ目でこちらを睨みつけてくるのだ。  反抗してるつもりなのだろうが、桜蔭にとっては逆効果も甚だしい。  桜蔭はそのまま猪鹿倉にキスをする。ぷに、と柔らかく押し付けるだけのキスだ。 「僕にキスをしろ、猪鹿倉。……君が恋人とやっていたようなキスだ」  唇が触れ合う距離で桜蔭は呟く。恋人という単語を出す度に猪鹿倉の目に薄暗いものが宿る。隠す気もない憎悪、敵対心、嫌悪感。それらが心地よくて、桜蔭は繰り返した。 「猪鹿倉、これは犬のお前への命令だ。……出来ないのなら、この場で去勢してやる」  ナイフを手にした桜蔭は、反りたったペニスにその刃を押し付けた。  猪鹿倉のペニス、その尿道口から汗のように流れる露は止まらない。興奮してるのだ、この男も。それとも命の危機を感じて本能的な快感を呼び起こされているのか。  緊張に顔を強張らせながら、拘束されたままの猪鹿倉は顔を寄せ自ら唇を押し付けてきた。  肉厚な舌は微かに震えながらも伸ばされるのを見て、桜蔭も口を開いて舌を出す。顔を寄せてくる猪鹿倉を招き入れるように、そのまま桜蔭は目を細めた。

ともだちにシェアしよう!