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第3話※
ぢゅぷ、ぬぷ、と口の中で粘膜同士が混ざり合う。先程の独りよがりのキスではない、今度は猪鹿倉からの荒々しい口付けに桜蔭は耽っていた。
唾液が溢れようとも、唇の薄皮化がふやけよぅとも形振り構わず夢中になって舌を絡め、唇を噛み付くようにしゃぶりついてくる猪鹿倉。
桜蔭自身を恋人と思い込もうとしているのか、それともヤケクソなのか。どちらにせよ、この男の鍍金が一枚、また一枚と剥がれていくのがわかった。
「……っ、は、君は……積極的だね。悪くない、恋人を抱くときもこんな風に熱烈に求めてたのか?」
ペニスを引っ張り、答えを促せば猪鹿倉は何も答えない。その代わりにキスをされ、桜蔭は少しだけ驚いた。それもほんの一瞬、流されるのは面白くないが、この男から求めさせるのは悪くない。
自己保身のため、結果的にこの世に既に居ない恋人を裏切っているのだ。猪鹿倉は。
その罪をこの男が理解したときの反応の方が楽しみで、今回はそれに乗ってやることにした。
「犬、唇だけじゃなくてこっちも舐めるんだ」
そう、桜蔭は猪鹿倉の膝の上に跨り直し、そのまま猪鹿倉の鼻先にずい、と胸を突き出した。
荒く、熱い猪鹿倉の呼吸が先程噛まれて歯型の残った乳首に吹きかかる。
その感覚に軽くイキそうになりながらも、猪鹿倉からぎりぎり首を伸ばさなければ届かないところまで胸を近づけた。
「……ッ、は、」
「見てみろ、さっき君に噛まれた場所だ。……今度は、どうすればいいかわかるだろ?」
ナイフとリードを片手に握りしめたまま、桜蔭はくいっくいっと猪鹿倉のリードを引っ張った。猪鹿倉は目を伏せ、そして舌を突き出すのだ。腫れ上がった乳首を舐めようとするその舌が触れる寸前、わざと身を引いて宙を掠める舌。なんだと目を開く猪鹿倉の間抜けな顔を笑ったあと、桜蔭は再び猪鹿倉に抱きついてその唇に胸を押し付けた。
「……ッ、ん、ぅ……ッ」
濡れた音を立て、猪鹿倉の舌がしっかりと桜蔭の乳頭を捉える。男と付き合っていたのだから多少の経験はあるということか、猪鹿倉の舌の動きは絶妙で、執拗なほど絡みつく舌と柔らかく啄んでくる唇に桜蔭は背筋をぴんと伸ばして声を漏らす。
「……っ、いいよ、さすが僕のワンちゃんだ」
「は、……ッ」
「傷も優しく舐めてくれ。君がつけた傷だ。……ちゃんと気持ちよくしてくれたら、こっちの首輪も緩めてあげるよ」
そう囁きかければ、猪鹿倉の目の色が変わった。
部屋の中にぴちゃぴちゃと淫猥な水音が響く。
時折乳首を吸い上げられ、そのまま舌先で乳頭を執拗に嬲られれば声を抑えることはできなかった。
「……っ、ん、ぅ……っふふ、赤ちゃんみたいに必死にしゃぶりついちゃって……っ、かわいー……」
「ッ、は……ん……ッ」
「ぁ……ッ、ん、……優しく、優しくだって……ッ」
我慢できず、もう片方の乳首を自分で弄り、引っ張りながらも桜蔭は猪鹿倉の愛撫に身悶える。
いち早く苦痛から逃れたくて焦ってるのだろう、荒々しい愛撫が桜蔭には丁度よかった。
「……っ、ぁ……っ、んん……ッ!」
猪鹿倉の前髪が胸に当たるのを感じながらも、強く乳輪ごと吸われれば桜蔭は猫のようにぴんと胸をのけぞらせ絶頂する。
先程まで同僚との行為の形跡が残ったままの下着の中、少し動いただけでぬるぬると滑るのを感じながらも桜蔭は吐息を漏らした。
「……はぁ、約束だからね。少しだけ緩めてあげるよ」
飴と鞭は使い分けなければならない。鞭だけでは躾にはならないからだ。
褒美はちゃんと与えるものだと先代に叩き込まれていた桜蔭は、先刻の約束通りペニスバンドを緩めることにした。
その前に目の前で腰のベルトを緩め、汚れた下着を脱ぎ出す桜蔭に猪鹿倉は「なにを」と声を震わせた。
下着を脱げば、己と別の男の体液がとろりと垂れるのを感じながらも桜蔭は再び猪鹿倉の膝の上に――正確には陰茎の上に跨った。
既に解され、柔らかく割れた肛門からは内壁の肉色がちらりと覗く。腫れ上がった亀頭の上、柔らかくのしかかって来る重みと桜蔭の熱に猪鹿倉の腰が震えた。
「……っなにって、ご報告だよ。可愛いワンちゃんへのね」
「っ、や、めろ、駄目だ……ッ」
「嘘吐け、さっきからずーーっと僕のナカにハメたくてハメたくて仕方ないんでしょ? ほら、ペニスが頑張って背伸びしてる」
「っ、ちがう、これは」
「違わないでしょ」
包丁を放り投げ、そのまま股の下の猪鹿倉のペニスバンドに手を伸ばす。キツく締めすぎたらしく、既にパンパンになっていたベルトを緩めた。そのままベルトを引き剥がした桜蔭は「待ってくれ」と懇願する猪鹿倉の声を無視して腰を一気に猪鹿倉のペニスの上に落とした。
「ッ、ふ……ッ」
「――ッ、う゛ぐ、ひ……ッ!」
脳天まで貫かれるような感覚だった。
断末魔にも似た猪鹿倉の悲鳴とともに内臓を押し上げるほどの太く長いペニスの先端から勢いよく吐き出される熱に、桜蔭は舌を突き出して笑った。
「っ、は、ぁ……ッ、これ、これ……ッ! 最高……ッ!」
どくどくと脈打つペニスからは溜りに溜まった精液が吐き出され続けている。腹に溜まっていくその精液に蕩けた表情を浮かべたまま、桜蔭は服が汚れるのも構わず腰を軽く持ち上げ、そしてばちゅん!と勢いよく腰を落とした。
「まっ、ぅ、ご……ッ、ぉ゛……――~~ッ♡」
止めようとしていた猪鹿倉の声は途切れる。
射精直後の敏感な、それもようやく待ち望んだ快感が一気に押し寄せた状態で躊躇なく、蕩けた桜蔭の内壁に扱き上げられれば耐えられることなどできなかった。
食いしばった歯の奥から唾液を溢れさせながらも快感を受け流そうとするが、できなかったのだろう。仰け反り、汚い声を漏らして悶える猪鹿倉に桜蔭は笑いながら腰を動かす。
「っ、ああ? なに? なんてえ? 聞こえねえよ雑ァ~~魚ッ、もっとはっきり言え……ッ♡」
「っ、まっ、ぉ゛♡ ……ッ、ふーッ、う゛、うう……ッ♡」
「どんだけ気持ちいいんだよ、声とろっとろじゃん……っ♡」
短いストロークで中のいいところを刺激しながらも、下腹部に力を込めて猪鹿倉のペニスを腰全体で文字通り犯す。精液が混ざり合い、腰を打ち付ける度に「お゛ッ♡お゛♡」と恥ずかしい声を漏らす猪鹿倉に次第に桜蔭も気分が乗っていた。
「……っ、なあ、ほらこここうやって亀頭のずぽずぽされんのきもちいーか? なあ、猪鹿倉ぁっ♡」
「っ、ぎ、もぢよくなんか……な゛……ッ♡」
「嘘吐け♡ 僕の中に種付したいですって腰動いてんだよお前♡」
「っ、ち、が……ッ、う゛、あ゛……ッ!♡♡」
拘束具を壊す勢いでガチャガチャ擦って、椅子に縛り付けてるにも関わらず少しでも長く体内に残ろうとヘコヘコ浮く腰は無様でしかない。
口では否定するがもう堕ちかけているのを桜蔭はわかっていた。蕩けきった声が、情欲に濡れた目が、萎える暇もなくびくびくと体内で大きくなる性器が全てを物語ってる。
「……っ、じゃあなんだよこれは……ッ、死んだ恋人に申し訳ないとか思わないんだ? 自分を殺した組織の男におチンチンバッキバキにしてさぁ……ッ♡ 本当、よく仇取ろうなんて考えられたねえ♡」
「っ、は、ぁ゛……ッ、う゛……ッ♡ ち、が……ッ♡ お、お前は……ッ、殺す……ッ♡ ぜったい、殺すぅ……ッ♡♡」
「っ、んふふ、無理無理♡ 僕殺しちゃったらもうこのおチンチン気持ちよくしてもらえないよ?♡」
くいっと腰を動かせば、「う゛ッ」と猪鹿倉は小さく呻いて二度目の射精をする。悔しくて堪らないくせに、怒りからなのか射精しながらも萎えることなく中を圧迫するペニスに桜蔭はほうっと息を吐いた。
「ふ、……ッう゛……ッ」
猪鹿倉の頬に、目尻に溜まった涙が伝う。
自己嫌悪と興奮、罪悪感と怒り、殺意。溢れ出す感情と快感に耐えきれずに決壊する男は今までに何人もいた。
その瞬間を見るのが桜蔭の楽しみだった。
「あーあ、泣いちゃった……♡ 可哀想に……♡ でも大丈夫、今日からは僕が君の飼い主になってあげるからね」
性器を埋め込んだまま、桜蔭は猪鹿倉の頭を自分の胸に預けさせる。そのままよしよしと赤子をあやすように優しく、柔らかく、呪うのだ。
緊張していた猪鹿倉の肩が小さく跳ね、そしてちろりと胸の先、尖った乳首を舐めるのを感じて「良い子」と猪鹿倉の性器を締め上げた。
猪鹿倉にもう拘束具は必要ないだろう。
そう独断で判断した桜蔭は猪鹿倉の拘束を外した。瞬間、抱き締められてそのまま深く性器を挿入される。文字通り串刺しにされたまま、腹に響くその熱と感触に呑まれそうになりながらも桜蔭は猪鹿倉の欲望を受け止めたのだ。
「ッ、は、ぁ゛……ッ♡ くそ、馬鹿に、馬鹿しやがって……ッ♡ っ、誰がお前の犬なんかに……ッ♡」
「……っは、僕の首を締めるよりも、僕の心臓を貫くよりも先に、挿入した君が何を言っても……ッ、ん、ぅ、……っむだ、だから……ッ♡」
「う゛ッ、ふ、う゛うう゛……ッ♡」
猪鹿倉の腰に足を回し、みっちりと根本で咥え込んだまま締め上げればナカの猪鹿倉の性器が反応する。
「ほら♡ほら♡」と急かすように腰を動かせば、猪鹿倉の動きが止まったがそれも束の間。性急になったピストンで内壁を摩擦され、結腸の壁をぐぽぐぽと太い亀頭で押し潰されるのだ。
「ッは、ぁ゛……ッ♡ やば、ッ、ん、それ……ッ、好き……ッ♡」
「っ、ハーッ、ぁ゛ッ、あ゛ッ、クソ、ぉ゛……ッ」
「ワンちゃん、もっと頑張って腰振って……ッ♡ 僕が死ぬくらい気持ちいいセックスで逝かせてよッ♡」
拷問部屋の片隅、落ちた凶器の存在も忘れてお互い夢中になって貪り合い合う。桜蔭を快感に溺れさせるほど絡み付いてくる肉襞に意識ごと持っていかれそうになりながらも、猪鹿倉は目の前の腹立たしい男を泣かせることしか頭になかったのだ。
「ッ、はーッ、クソ……ッ、ぉ゛……ッ♡ っ、お前なんか、ッ、ん゛、う……ッ♡」
言葉を文字通り唇で塞がれ、そのままちろちりと舌で唇を塞がれれば猪鹿倉は自ら口を開き、こちらの舌を絡めとるのだ。
舌を吸い上げ、尖らせた舌先で性器のように猪鹿倉の舌全体をじゅぽじゅぽと音を立てて下品に愛撫する桜蔭。
耳の末端まで赤く染めた猪鹿倉は、そのまま片手で桜蔭を抱えたまま後頭部に手を回した。
逞しい腕にしっかりと抱かれた性器はちょっとやそっとでは抜かれることはない。深く喉の奥まで侵入してくる猪鹿倉の舌を甘く噛みながら、きゅっと下腹部に力を入れれば腹の中のそれが更に太くなって前立腺を擦り上げた。
「っ、は、……ッ、ぉ、……ッ、おういん、……ッ♡」
「はーっ、ね、僕と恋人、どっちが気持ちいい……っ?」
「うるさいッ、てめぇ、ン♡ ……ッ、あいつに決まってるだろ……ぉ゛ッ♡ 調子に乗んじゃねえ……ッ!」
苛ついたように額に青筋を浮かべた猪鹿倉は桜蔭を拷問椅子に下ろす。その瞬間抜かれるペニスに一抹のもの寂しさを覚えるのも束の間、次の瞬間一気に腰を打ち付けられ、桜蔭は背もたれに背を押し付け甘い悲鳴を上げた。
「っ、は……ッ♡ んッ、い、きなり……ッ♡」
「は、ッ、ぁ゛ー……ッ♡ クソッ、お前なんかのせいで……ッ♡」
「ッ、ふ、……ッ! ぁ、は、すご……ッ♡ なんだ、ワンちゃんのわりに、まだまだイケるね……ッ♡」
「余裕ぶっこいてんじゃねえ……ッ♡ すぐに、逝かせ……ッ、ぇ゛ッ、く、ぅ゛……ッ♡ ひ、ッ、締め、るな゛、ぁ゛ッ♡」
椅子の座面に押し付けたまま、猪鹿倉は力任せに腰を打ちつけようとするもののその都度締め付けてくる桜蔭の中に呆気なく何度目かの射精をする。それでも尚、腰を止めることはできなかった。
「っ、はぁッ、ぁ゛♡ ッ、フーッ♡ くそ、……っ、ぉ゛……ッ♡」
吐き出される精液が溜まっていく。キャパオーバーになり、ピストンの都度椅子の座面に溢れる白濁を感じながら桜蔭は覆いかぶさってきては夢中になって猿のように腰を打ち付けてくる目の前の男にしがみつき、その剥き出しになった首筋に顔を埋める。
更に射精を促すようにその首筋に唇を押し付け、舌を這わせ、首筋の太い血管から鎖骨の凹凸までいたる所にキスをすれば猪鹿倉の全身の熱は増し、更に怒張した性器は熱した鉄パイプのように桜蔭の中を無尽蔵に犯すのだ。
善がる桜蔭を見たいがために、必死に夢中になって自分に多い被さり腰を振る男に興奮しながら桜蔭は猪鹿倉にキスをする。
それだけでナカのものがドクンと脈打つのを感じながら、猪鹿倉は最早何度目かもわからない絶頂を迎える。初回よりも量は減ったが、それでも中に出されている感覚に桜蔭は笑った。射精のしすぎでそろそろ空になったのではないかと引っ張られる猪鹿倉の睾丸をよしよしと撫でながら「もうしまいか?僕はまだ君ほどイッてないぞ」と囁きかけるのだ。
その挑発が猪鹿倉のプライドと興奮を焚きつけることとなる。
それから二日間、規定の時刻が来るまでパンパンと肉が潰れるような音と二人分の声が止むことはなかった。
◆ ◆ ◆
「よ、なんか久し振りだな。桜蔭」
「そうだっけ?」
「また痩せたか? ……ってか、色っぽくなったような」
「本当君はセックスを誘うのが下手だね。ヤりたいならヤりたいっていいなよ」
「ち、ちげえって。……お前だってずっとあの男の尋問で忙しかったんだろ? 名前はなんだっけ……えーと……」
「猪鹿倉。……まあ、滅多にこない客だからね。腕が鈍ってないか心配だったけど無事聞き出せたからよかったよ」
「ふーん?」
「それで? あの男は?」
「……まあ、今回は単独だったからってことで暫く懲罰房行きだってよ。洗脳は俺達の仕事じゃねえからな」
「……っはは、洗脳ねえ。あいつに効くかな」
「ん? まあ確かに強情なやつだしな」
「まあそうだな。けどま、今度会うときが楽しみだ」
「あ、お前気をつけろよ。お前のこと根掘り葉掘り聞き出そうとしてたみたいだから。……相当恨まれてんぜ、あれ」
「それは怖いな。……君が守ってくれるなら安心だろうけど」
「……っ! あ、当たり前だろ。それが俺の役目なんだし……」
「冗談だよ。自分の身くらい自分で守れる」
しかしまあ、もう暫くは退屈せずに済みそうだ。
同僚の男からのキスを受け入れながら、桜蔭は密かに微笑んだ。
おしまい
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