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第14話

 どれくらい経っただろうか、緋嶺はゆっくりと覚醒した。日は昇って部屋は明るく、意識もハッキリしていたので、起き上がろうとして身体が動かないことに気付く。そしてさらに気付いてしまった。 「……っ」  鷹使が、緋嶺に抱きつくような体勢で寝ているのだ。しかも緋嶺も鷹使も裸で。 (……え? は? 何があった?)  確か自分は腹に穴を開けられて、死にそうになっていたはずだ。  ハッとして緋嶺は改めて鷹使を見る。そう言えば自分は生きている。それもこれも、鷹使が自分の力を与え続けてくれたからじゃないのか。  彼の顔はいつものように、死んだように静かな表情だけれど、確かに顔色が悪い。なぜ裸なのかは疑問が残るけれど、緋嶺を回復させるのに、相当疲れているのは確かだ。俺のために、と思いかけて首を振った。 (かといって、このままこの状態でいるのは……っ)  緋嶺は何とか抜け出そうともがく。しかし何かの術を使っているのか、首以外動かせない。 「ん……」  すると、鷹使のまぶたがひくりと動いた。すぐに開いたまぶたから琥珀の瞳が見えると、緋嶺はなぜか気まずくなって、視線を逸らして天井を見つめる。 「……まだ動くな……。傷を塞いだだけだ……」  鷹使の声は明らかに掠れて疲れていて、今では反対に鷹使が死んでしまいそうだ。 「ってか、何で裸? 脱がす必要ないよなっ?」 「……血で汚れた服を、いつまでも着ていたいのか?」  それはそうだけど、と緋嶺は納得しかける。けれど本当に一糸まとわぬ姿──下着まで脱がせる必要はあるのか? それに、鷹使には触れない触れさせないと思っていたのに、それがもう破られている。 「……」  しかし緋嶺は鷹使の体温を、心地よく感じていた。触れたところが温かくなって、ゆっくりと力が入ってきているのが分かる。 「緋嶺」  鷹使が身体を起こした。サラリと落ちた金の髪が、窓からの光を受けてキラキラと反射する。  綺麗だな、と思っていたらいつものように唇を塞がれていた。優しく吸い上げた口付けは、いつもとはなぜか少し違っていて、ゾクリと腰の辺りが震えた。これはまずい、と鷹使の身体を押し退けたかったけれど、首以外は動かせないので首を振って拒否する。 「……っ、なに、するんだよっ」 「契約だ」 「……はぁ?  ……っ、んんっ」  静かに言った鷹使は再び顔を近付けて、今度は舌をねじ込んできた。契約って何だ、と聞きたいところだけれど、緋嶺の頭を鷹使が押さえていて、首すらも動かせなくなる。  すると緋嶺の中から、意図せず燃え上がった炎が一気に大きくなった。鷹使と触れ合うと性的興奮が起こるけれど、明らかにこれは鷹使が緋嶺の身体をコントロールしている。 (こ、こんな……こんなことで……っ)  口を離した時にはもう緋嶺は息が上がっていた。怪我のこともありぐったりしていると、鷹使は緋嶺の下半身に手を伸ばす。そして足の間の──もう痛いほど硬くなった怒張を、柔らかな指で輪を作り、ゆるゆると扱き上げるのだ。 「ぅあ……っ、……っ!」  鷹使が与えてくる刺激は決して強くない。それなのに緋嶺は過剰に反応し、腰を跳ねさせ背中を反らした。 「気持ちいいか? 緋嶺」  そう言って鷹使は緋嶺の胸に口付けを落とす。胸の先を赤く濡れた舌先で弾かれ、声を上げられないほど痙攣した。そして彼は掛け布団を全て退かし、緋嶺の両足を広げてその間に座る。 「なっ、に、してんだっ! 止めろ!」 「大人しくしてろ」  嫌な予感がする、と緋嶺は彼を見るけれど、彼が案の定滾った一物を緋嶺の足の間に持ってきて、それをある箇所にあてがう。そして緋嶺の両足は抱え上げられ、鷹使は奥へと身体を進めた。 「ううぅッ!」  そんなバカな、信じられない、と緋嶺は脳内でできる限り鷹使を罵った。声に出せないのは、後ろのあまりの圧迫感のせいで、息が詰まるからだ。 「……っ、力を抜け」 「お前が抜けバカ!」  何でこんな事を、と切れ切れの息の中で言うと、楔を全て埋め込んだ鷹使は軽く緋嶺の唇を食んだ。そして弾んだ息の中、彼はこう言うのだ。 「初めから、こうしておけば良かったな……」  冗談じゃない、と緋嶺は鷹使を睨もうとしたけれど、奥に入れられたまま揺さぶられ、それは叶わなかった。彼が動くと性器の奥のある箇所に当たり、腰がガクガクと震える。 「あ……っ、嫌だ、止めろ……っ!」 「どうして? 気持ちいいだろ?」  ここが、と何回かそのまま揺さぶられていると、大きく身体が震えて頭の中が真っ白になった。声も出せずグッと息を詰めると、全力疾走した後かのように大きく呼吸をする。あまりにも強い快感に緋嶺は戸惑っていると、鷹使は緋嶺の身体を動かせるようにした。 「後ろでイッた気分はどうだ?」 「……っ!」  びくん、と緋嶺の腰がまた跳ねる。鷹使が何らかの力で緋嶺をコントロールしているのは明らかだが、その目的が分からず戸惑うばかりだ。 「とはいえ、初めてだからな。加減しておいてやる」  無理やり事に運んでおいて、そんな事を言う鷹使は、また軽く緋嶺を揺さぶりながらキスをした。しかしそのキスは今までと違い、なぜかとても甘いのだ。  仕草が甘いのではなく、本当に味がする。そしてその味は一気にむせ返るほど濃くなり、とろりとした蜜のような甘さに緋嶺は酩酊した。そしてまた、大きく身体が震えるのだ。 「……さすがだな。もう、繋がった……」 「何なんださっきから! ……あ、やめ、もう嫌だ……っ!」  そう言いながら緋嶺はまたガクガクと身体を痙攣させる。強烈な快感にのたうち回りそうになり、弛緩した後はぐったりしてしまった。鷹使はこんなものか、と呟きあっさりと緋嶺の中から出ていく。  緋嶺は疲れて何も言えずにいると、鷹使はまた緋嶺の唇にキスをした。甘い蜜の味がして、思わず唾を飲み込むと、ふっと鷹使は笑う。 「甘いか?」  緋嶺は力無く頷くと、契約成功だな、と鷹使は言った。成立ではなく成功とは、どういうことだろう? と思ったけれど、緋嶺の意識はそこで落ちてしまった。

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