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第23話

 鷹使の説明によると、連絡があったのは警察からで、人間が眠ったまま目が覚めず、約一ヶ月その状態が続き、そのまま亡くなったそうだ。  そしてさらに、同じように眠ったままの人間が県内にもう一人、いるという。 「眠ったままというのと、二十代男性というところが共通点だな」  警察が調べて分かっただけで、まだまだいるかもしれない、というのが鷹使の見解だ。確かに、目覚めないというのも稀なケースだけれど、それが県内に二人、目覚めた憲二も入れて三人いたとなると何かの仕業に見えてくる。  すると、鷹使のスマホがまた着信を知らせた。彼は無線通信で車のオーディオに繋ぐと、会話を始める。 「……はい。あなたから連絡がくるってことは、悪い知らせですか?」 『まぁ、そんなとこです。先程の被害者に続き、二人目、三人目の被害者が出ました』  電話の声は、先日豪鬼が人間を襲った現場にいた、警察関係者だ。 「三人目? 眠ったままだった人がまだいたのか」 『はい。しかも二人目と三人目の死因は失血死です。一人目とは違う』 「確か一人目は心臓麻痺だったな。寝ているだけなのに失血死とは?」  緋嶺は話を聞いて眉間に皺を寄せた。人間の血の臭いがした気がして、鼻を擦る。  その警察関係者によると、失血死した二人は、何者かによって首を切られていたそうだ。しかも骨まで綺麗に切れていたので、人間がその辺の道具で切ったとは思えない、とのこと。 「……何か試してるのか?」 「……っ、ふざけんな!」  緋嶺はガンッとダッシュボードを蹴った。鷹使に睨まれるけれど、試すって何をだよ! と怒りはおさまらない。  鷹使は予定を変更して、三人目の死亡事件の現場へ向かう事にする。通話を切ると、彼はため息をついた。 「落ち着け」 「落ち着けるかよ! 人の命を何だと思ってるんだ」 「お前は鬼だろう」  緋嶺はその言葉に鷹使を睨む。 「鬼が人の心配しちゃいけないか?」  そうは言っていない、と鷹使は緋嶺の髪の毛をくしゃくしゃと撫でた。子供扱いするような仕草にイラッとして、緋嶺その手を振り払う。 「相手の狙いはお前だ。お前が冷静にならないでどうする」  もっともなことを言われ、緋嶺はグッと息を詰めた。短く息を吐くと、分かったよ、と呟く。 「で? 現場に行って何するんだよ?」 「犯人が本当に悪魔か確認する」  そんなの、見ただけで分かるのか、と緋嶺は問うと、手口や力の痕跡を見て判断する、と返ってきた。それだけで分かるなんてと驚いていると、天使は術や技の数は他の種族に比べて軍を抜いているからな、と当然のように言われた。  鷹使を見ていると天使というのは見た目だけの話で、性格も力も他の種族とそう変わらないのでは? と思ってしまう。コハクもそこそこキツい性格のようだったし、人間が抱く天使のイメージは捨てた方がいいな、と緋嶺は思った。  現場に着くなり、緋嶺は血なまぐささに腕で鼻を覆う。前回と同じで鷹使はまだ平気らしいけれど、緋嶺も前よりかは余裕があった。 「血の臭いに反応するのはやはり鬼だからか」  緋嶺の様子を見て鷹使が呟く。  着いたのはとある一軒家。住宅街によくある二階建ての家で、駐車場と小さな庭がある、どこにでもある家だ。しかし今は警察車両などが周りを取り囲んでおり、物々しい雰囲気が漂っている。 「ああ、天野さん。先程はどうも」  声がして振り向くと、やはり先日も緋嶺たちを案内した人がいた。 「天野さんが来るって分かると、みんな貴方に任せましょうって言うんですよ」  人間以外の仕業だと、私たちには解決できませんからね、と彼は苦笑する。そしてまた、資料が見たかったら連絡ください、と言い残して去っていった。  緋嶺たちは早速被害者の部屋に入る。血の臭いが一層濃くなり、口を開けるのさえ嫌になる。  現場は一目見ただけでも凄惨だと分かった。首を切られただけあっておびただしい量の血痕と血溜まりがあり、緋嶺は入り口辺りで足を止め、血を見ないように身体ごと視線を逸らす。 「緋嶺、人間以外の血の臭いはするか?」 「……いや、一人だけだ」  鷹使の質問に緋嶺は答えると、俺も同じ見解だ、と部屋を出る。どうやら彼も限界だったらしく、酷い臭いだな、と呟いていた。そして長居は無用だ、と早々に現場を後にする。 「……で、犯人は悪魔で間違いないんだな?」  車に乗り込み、緋嶺は鷹使に確認すると、彼は頷いた。 「わずかではあるが悪魔の力を感じた。明日、それを頼りに犯人を追ってみよう」  緋嶺も頷くと車は発信する。しかしある事を思い出し、鷹使に尋ねた。 「明日は大野さんちに行く日じゃ……」 「そんな事言ってられない。電話で元気か聞けば良いだろう」  確かにそうだけど、と緋嶺は内心がっかりした。あれから大野は緋嶺の事を気に入ってくれ、孫のように接してくれるようになったからだ。  一抹の寂しさを感じながら、緋嶺は暗くなった景色を眺めた。

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