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第28話

 それから三日三晩、緋嶺は鷹使に文字通りつきっきりで看病し、回復をサポートした。というか、鷹使が離してくれなかったというのが正しい。  回復した鷹使はセナについてボロクソに文句を言っていて、緋嶺はそれ程心配したんだな、と苦笑する。 「もうお前は俺の半径三メートル以上離れるな」  ついにはそんな事を言い出すから困った。からかうつもりで俺の事好きすぎだろ、と言ったら、悪びれもなく悪いか? と帰ってきたので閉口するしかない。 (愛されてるんだか、束縛されてるんだか……)  緋嶺はため息をつく。寝室からリビングへ移動しようとすると、何かに阻まれた。 「……っ、ちょっと?」  後ろから鷹使に抱きしめられ、緋嶺は彼を振り返ろうとする。しかし耳の付け根にキスをされ、思わず肩を竦めた。そして鷹使が触れた所から熱が広がるように大きくなって、まずい、と身をよじる。 「……【契】が外れたから、お前、腹減ってるだろう」 「……」  緋嶺は答えなかった。回復したばかりの鷹使の血をもらう訳にはいかない、と黙っていたのだ。けれど彼にはお見通しだったらしい。 「でも鷹使……あんたまだ回復したばっかだろ……」 「……何だ、遠慮してたのか?」  そう言って鷹使は後ろから、左手で緋嶺の右頬を撫で、その流れで親指を口の中に入れてくる。緋嶺は噛みたくなる衝動を抑えて、その親指を舐めた。  鷹使がクスクス笑う。 「舐めてないで、噛め」  鷹使はわざと緋嶺の八重歯の辺りを撫でた。緋嶺は耐えきれなくなってその指を噛むと、じわりと鉄の味がする。 「んんっ、……んっ」  緋嶺はその味に酩酊しながら鷹使の手を両手で掴み、夢中で(すす)った。 「……美味しいか? 緋嶺」  楽しそうな鷹使の声にも答えず、他の誰よりも美味しい鷹使の血を吸っていると、鷹使は緋嶺の口から指を出してしまった。 「あ……」 「こっち向け、顔を見せろ」  身体を反転させられ、再び親指を咥えさせられる。どうしてこちらを向かせたのか、と鷹使を見ると、彼の琥珀色の瞳が金色に揺らめいた。 「──っ! んんんーッ!」  ビクビクと緋嶺の腰が跳ねる。立っていられなくなり膝をつくと、唾液が糸を引いて、緋嶺の口から親指が出ていった。 「もう、おしまい……?」  身体が熱い。鷹使が何かしたのは分かったが、それよりも緋嶺はもっと血が欲しくて、鷹使の腰にしがみつく。  すると、目の前に大きく盛り上がったジーパンがあった。血の匂いとは違うけれど、こちらもクラクラするような香りがして、緋嶺は思わずそこを食む。  鷹使はまた笑った。そして緋嶺の頭を優しく撫でる。 「良い顔だな。そこも舐めてみるか?」  緋嶺は頷くと、すぐにそこのボタンとチャックを外した。ボクサーパンツの中は、やはりはみ出してしまいそうなほど大きくなっていて、緋嶺は脳が焼けるかと思う程興奮する。 「こっちは歯を立てるなよ?」  相変わらず楽しそうな声がして、緋嶺はそこを唇で食み、頬ずりする。熱くて硬い感触が更に身体を熱くさせ、下着も下ろした。そして熱に浮かされたまま熱く滾ったそこに舌を這わせ、口に含む。  すると鷹使は一瞬息を詰めた。長く吐いた息と共に緋嶺の濡れたように黒い髪を優しく梳くと、口内の怒張がヒクヒクと動き、更に硬さを増す。そしてやはり、ここも甘い蜜のような味がするのだ。 「あ……美味し……」  緋嶺は口を窄めて、吸いながら顔を前後させた。鷹使の頭を撫でる手は、羽のように優しく、この怒張とは正反対だ。 「緋嶺、お前も気持ち良くなりたいだろ?」  しばらく夢中でそこを愛撫していると、鷹使は顎を掴んでそれを止めた。糸を引いて垂れた唾液が緋嶺の唇から零れたけれど、そんな事を気にしていられないくらい、身体が熱くなっている。  その様子を見た鷹使は目を細めて、緋嶺の唇をそっと拭った。 「どうして欲しい? 緋嶺」 「……鷹使の、欲しい……」  緋嶺は、自分でも何を言っているのか分かっていなかった。とにかく鷹使から与えられる五感への刺激がどれも気持ちよくて、早く、とせがむように縋り付く。 「服着てちゃ、できないだろう?」  笑いながら緋嶺の服を脱がせ始めた鷹使に、緋嶺はそれよりも早く自ら服を全部脱ぎ去る。 「楽しいな? 緋嶺」  鷹使も足元に絡まっていたジーパンと下着を取ると、膝を付いていた緋嶺の唇に優しくキスをした。緋嶺は鷹使のトップスも脱げと、無言で服を引っ張るとそう急かすな、とまた笑いながら脱ぐ。 「鷹使……鷹使……っ」  うわ言のように名前を呼び、緋嶺は鷹使の首に腕を回した。鷹使の手が緋嶺の肌の上を滑ると、緋嶺は敏感に反応し、甘い声が出てしまった。 「……随分いい声出すじゃないか」  俺はさっきの一瞬だけきっかけを作ったが、後は何もしていないぞ、と鷹使は言い、緋嶺の乱れた呼吸で開いた唇を食む。それすらも緋嶺にとっては背中がゾクゾクする程の刺激になって、何が何だか分からなくなってしまう。 「あっ、あっ、鷹使……っ、もう無理っ、早く……っ!」 「……落ち着け緋嶺、ちゃんと入れてやるから」  まったく、今度する時はコントロールせずにしないとな、と鷹使は呟き、緋嶺を布団の上に寝かせた。緋嶺は疼いて仕方がない身体を持て余し、本気で泣きそうになる。  鷹使が緋嶺の膝裏を持ち上げた。大きく恥部を見せる格好になるけれど、緋嶺はこれから来る快感への期待の方が大きく、ぷるぷると太ももが震える。 「……も、入れて……っ」 「……その淫乱ぶりは淫魔以上だな」 「あっ! ああっ! ──ッ!!」  鷹使の熱い肉棒が、緋嶺の後ろに入ってきた途端、緋嶺は身をよじる程の快感に襲われた。同時に胸とお腹に熱い体液が飛び、ヒクヒクと余韻に身体を震わせる。 「たか……鷹使……っ、俺……っ」  切れ切れの息でそう言うと、鷹使はああ、すごいな、と口の端を上げる。 「入れただけで繋がった……」  多分【契】の事を言っているのだろう。そして彼は動き出した。緋嶺は髪を振り乱し、訳が分からず鷹使にしがみつく。背中に爪を立て、あられもない声を上げながら鷹使を呼んだ。何度も何度も意識が飛び、声を上げる元気が無くなるまで揺さぶられる。  それでも、緋嶺は鷹使の背中に回した腕は離さなかった。次第にしっとり濡れていく肌を感じ、緋嶺はそれにすらも感動してボロボロと泣く。 「緋嶺……お前は本当に可愛い」  パンパンと鷹使の腰がぶつかって、濡れた音もそこから聞こえる。いやらしいと思うのと同時に、鷹使の息も乱れて終わりが近い事を悟った。 「ずっと、俺のものだ。他の誰にも渡さない。……殺させやしない」  緋嶺はその言葉にうんうんと頷く。すると鷹使は呻き、顔を顰めた。その顔があまりにも色っぽくて、緋嶺も一緒に絶頂する。  そして二人とも無言で、とろりと甘いキスをした。

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