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第45話 後日談1
「鷹使 、そっちはどうだ?」
世間は夏休み。鬼頭 緋嶺 は額ににじむ汗を拭きながら、背後の天野 鷹使を見やった。
鷹使は今日の仕事内容に合わせて動きやすい服装をしていて、綺麗な腰まで伸びた金髪も後ろでひとつにまとめている。琥珀の瞳の彼は緋嶺を見やると、疲れた顔だが優しげに目を細めた。
「ああ。これで大物は大体終わりだな」
「じゃあ、新垣 さんにまだ手伝うことがあるか、聞いてくる」
頼む、という鷹使の返事を聞いて、緋嶺は階下へ下りる。一階を探してもいなかったので、緋嶺は玄関から外へ向かった。
外は屋内と比べ物にならない程の、湿気と熱気と陽射しだ。あまりの眩しさに緋嶺は目を細めると、人の良さそうな男性が声を掛けてきた。新垣だ。
「鬼頭さん、こちらも大体終わったので、休憩しましょう」
緋嶺は分かりました、と返事をして、また鷹使の元へ戻る。休憩しようと伝えると、それがいいな、と鷹使と一緒に階下のリビングに向かった。
「この暑いのにありがとうございました。あとは私たちでやりますので」
新垣は後ろに、これまた優しげな女性を連れて来ている。彼の伴侶となる女性だ。
今日の依頼は、この新垣夫婦の、新居への引越しだったのだ。
「いやしかし、鬼頭さんは運送会社で働いていただけあって、重いものも軽々運ぶからさすがだと思いましたよ」
新垣夫妻からお茶とお茶菓子を勧められ、緋嶺と鷹使はありがたく頂く。初めに緋嶺が運んだ冷蔵庫で冷やした水ようかんが、冷たい麦茶と合って最高に美味しい。
「伊達 に『何でも屋』をやっていませんからね」
もし力仕事で困ったなら、またよろしくお願いします、と緋嶺は営業スマイルを浮かべた。となりで鷹使がこっそりため息をついている。
充分に休憩した後、緋嶺は新垣夫妻に再度もう手伝うことはないか確認し、ないようなので新垣家の新居を後にした。
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