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第49話 後日談5

 首里城を出た二人は、近くの人気沖縄そばのお店で昼食を摂る。白っぽい麺は蕎麦というよりうどんのような見た目だ。コシが強くて、豚肉と鰹節と島の塩で取ったという出汁(だし)とも相性抜群だったので、緋嶺は思わず顔がほころぶ。  鷹使も同じ感想だったらしい。緋嶺が彼を見ると微笑み、美味いな、とズルズル麺を啜っていた。 (うん。俺もやっぱり鷹使には笑っていてほしい)  胸の中に温かいものが満ちる。相手を愛しいと思うことが嬉しい。嬉しいから更に相手が愛しいと思う。これが愛と言うのか、なんて恥ずかしいことを思って、熱くなった頬を、汁を飲み干すことで誤魔化した。 (こんな、何でもないことでも嬉しくなるんだもんなぁ)  ただ食事をしているだけなのに。感情って不思議だ。 「食べたか?」  そんなことを思っていると、鷹使も食べ終えたらしい。二人して美味かったな、と笑い合うと、せっかくなので店員さんに美味しかったと告げて店を出る。 「緋嶺、食後のデザート欲しいだろ?」  車に乗るまでにそんなことを言われ、一体どこまでプランを考えているんだ、と苦笑した。二人とも甘党であるため、緋嶺としてもデザートは嬉しい。 「俺は、あんたの気が利き過ぎて、何か見返りを求められるんじゃないかってヒヤヒヤしてるよ」  笑ってそんな冗談を言うと、鷹使はフッと笑った。それが、からかいの笑みだと分かった時にはもう遅い。 「たっぷり返してもらう。……夜にな」 「……っ、おま、やっぱり……っ!」  緋嶺は赤面して彼の肩を叩くと、鷹使は声を上げて笑う。車に乗り込むと案の定、胸ぐらを掴んで引っ張られたので拒否した。 「ちょっとっ、外から見えるし!」  地元でも人がいない場所ならともかく、ここは観光地で人も多い。男同士と言うところに後ろめたさはないけれど、やはり人の目は気になる。 「見えない所なら良いんだな?」  言質を取ったとばかりにニヤリと笑う鷹使。緋嶺はパクパクと口を動かすけれど、言葉が出ず、困った挙句彼の肩を再び叩いた。けれど今度は、力が入っていない弱々しいものだったが。  楽しいな、と笑う鷹使は上機嫌だ。しかし緋嶺はそんな彼を見て嬉しく思うから、不機嫌を装って口を尖らせるしかない。  ◇◇  それから少し車で移動して、着いたのは木材や緑でナチュラルテイストに飾られた、カントリー風のお店だ。中に入るとショーケースにはズラリと可愛らしいタルトやシュークリームが並んでいる。 「わー! 美味(うま)そう!」  男二人で来るような雰囲気ではないけれど、甘いもの好きには堪らない。緋嶺が素直に喜んでいると、来た甲斐があったな、という鷹使の視線とぶつかった。 「どれにする?」  緋嶺はショーケースを眺めながら聞くと、好きなものを好きなだけ食え、というので遠慮なく注文した。イートインスペースがあるとのことなので、飲み物も注文して階下のイートインスペースに向かう。 「女子みたいだな」  席に着きウキウキしていた緋嶺を見て、鷹使も嬉しそうにしていた。今朝、首里城では少ししんみりしてしまったので、良い雰囲気だ、と緋嶺も嬉しくなる。 「甘いものの前では、みんな女子みたいになるんだよ」  そう言って緋嶺はチーズタルトを口に運んだ。濃厚なチーズの香りが口いっぱいに広がって、サクサク食感のタルトと相まって、本当に美味しい。 「あー……幸せ」 「お前は甘いもの食べている時、いつもそう言うな」 「あ、何だよ? あんただって好きなくせに」  売り言葉に買い言葉。そんなやり取りさえ楽しいと思うのは、きっと相手が鷹使だからだ、と思う緋嶺は、やはりこの人が好きなんだな、と実感させられる。  どこかで、甘いものを食べた時の脳と、恋をした時の脳はほぼ同じ状態になる、と聞いたけれど、それなら好きな人と食べる甘いものは最高だな、と緋嶺は次々とタルトを頬張っていった。

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