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第50話 後日談6
甘いものを食べて至高の時間を過ごした二人は、少し早いけれどホテルにチェックインをする。明日には緋嶺も楽しみな美ら海水族館に行くので、その周辺のホテルに泊まるのだ。
「うわー、オーシャンビュー!」
ホテルの部屋に入るなり緋嶺の目に飛び込んできたのは、澄んだ海と珊瑚の白い砂が創る碧 だ。普段海とは無縁の緋嶺でも、どこまでも広がるスパルタブルーと浅瀬のミントブルーは綺麗だと思う。
「川とはやっぱり違うな」
緋嶺は鷹使を振り返ると、彼は隣に来て緋嶺の腰を抱いた。そしてそのままベランダに誘 われる。
「え、何……?」
普段は腰を抱くどころか、手さえ繋がない鷹使の甘い仕草にドキリとして彼を見上げると、人間離れした綺麗な顔が近付いた。
「……」
触れるだけの軽いキス。そして視界が彼の顔でいっぱいになると、気に入ったか? と囁かれる。
しかし緋嶺は返事をすることができなかった。くぐもった声を上げたのは唇を塞がれたからで、そこから一気に深い口付けへと変わる。
「……ぁ、たか……」
そういえば、先程人に見られない所なら、というような話をした気がした。だからって早速これかよ、と思わなくもないけれど、緋嶺は大人しく口付けを受け入れ、彼の肩に両腕を回す。
すると鷹使は緋嶺の耳に唇を這わせた。ビクッと震えた身体は、いつの間にか背中に回った鷹使の腕で支えられている。はぁ、と甘い吐息が零れて視線を彼の背後に移すと、ベランダの柵に小学生くらいの少年が座っていて、思わず鷹使を突き放した。
「うわあああ! 誰だお前!?」
緋嶺はその少年に叫ぶと、鷹使は眉間に皺を寄せて振り返る。そして少年を見て、再び緋嶺の首筋にキスをしようとした。
「ちょ、ちょっと待て! この状況でやるなよ!」
「知るか。せっかく良い雰囲気だったのに」
構わず先に進めようとする鷹使を剥がすと、鷹使はため息をついて緋嶺から離れた。
「おいお前たち、オレに力を貸せ」
「……人の情事を邪魔しといて、随分上から目線だな」
鷹使が少年を睨む。鷹使は美人だが、黙っていると冷たい印象があるので、睨まれたら大抵の人は怯むけれど、少年は気にした感じもない。
少年はひと目で人間ではない容姿をしていた。オレンジ色の髪は夕焼けの空のようで、瞳は黄緑色。その色は今朝飲んだジュースの、シークワーサーを連想する色だ。白いタンクトップを着たその肌は、不思議と日焼けしておらず白いまま。そして極めつけは、オレンジ色の髪の毛からぴょこんと出ている、猫のような耳があった。
しかし緋嶺は、少年の目元とギュッと握った両手が震えていることに気付いてしまう。
緋嶺が口を開こうとした時、鷹使が再び顔を近付けてきた。今度こそ思い切り拒否すると、彼はため息をついて少年の方を向く。
「良いところなんだ、邪魔するな」
「なんだと!?」
「鷹使、そうじゃないだろ?」
案の定少年を追い払おうとした鷹使に、緋嶺は自ら少年に近付いた。そして身をかがめて目線を合わせると、力を貸してほしいってどういうことだ? と優しく問いかける。
すると、その少年は緋嶺のおでこをめがけて思い切り頭突きした。
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