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chapter7 ラスト ①

 フランツはベッドの上で乱されていた。  体のもっとも敏感な部分を刺激する力は、フランツの心も嵐のようにかき乱している。禁欲的に結ばれていた唇からは、厭きることなく同じ喘ぎが繰り返される。それが自分の口から出ている声だとわかると、フランツは信じられないような気持ちで頭と心が破裂しそうだった。  パウ……  ああっと息を喉で押し込む。だが両足の間から喰いこんだ二つの指は、まるで喘げと命令するように傲慢に動く。いじられている感覚は、どうしようもなく全身を熱くさせ、束縛させた。  と、急に動きが止んだ。押し入っていた異物が、体内から消え去ったのがわかった。 「……フラ」  フランツは無意識に瞑っていた目を、押しあげられるように開いた。すぐ真上に、パウロの顔があった。 「大丈夫か?……」  パウロは優しくフランツの頭や顔を撫でる。 「……ああ」  フランツは激しく胸を上下させながら、何とか微笑んだ。 「大丈夫だよ、パウ……」  指を挿入された箇所が、ひどく濡れているのが感じられる。隠さなければならない部分が、卑猥に剥き出しになっていることに、フランツは複雑になったが、幼馴染みのためにあらゆる気持ちを呑み込んだ。  パウロは汚れていない手の方で、汗で滲んだフランツの頬や額をぬぐう。 「あともう少しだ。頑張れそうか」 「……うん」  フランツは聞き分けの良い子供のように頷いた。 「パウが……一緒なら……」  徐々に息遣いが落ち着いてきた。 「私は……ちゃんとやっているだろうか?……パウの期待に応えているだろうか?……」  一皮剥いたら、恥ずかしさで血が逆流しているに違いないと、フランツはぼんやりと思った。自分が何をされ、何をしたのか。記憶の断片が不思議に霞んでいる。ロンドンを覆う霧のように、サハラ砂漠に現象する蜃気楼のように。  そこには秘密が隠されている。 「……ちゃんとやっている。俺の思ったとおりに」  パウロは囁くと、フランツの額にキスをした。 「感謝する、フラ」 「……」  フランツは額に触れた温かい唇の感触に、何故かほっとした。全てが大丈夫だと、安心した。 「……良かった。私は任務を遂行しているんだね……」  軍人意識がにわかに甦ったのか、ジョークとも思えないような口調で言う。 「そうだ、フラ」  パウロはそれをジョークと受けとめて笑った。その魅力的な笑顔に、フランツは吸い寄せられた。 「さあ、あと一息だ」  そう言って、パウロはフランツの上に覆いかぶさると、両腕で抱き寄せながら、唇を塞いだ。舐めるように濃厚なキスをしながら、フランツの首や腕や胸板を這うように触ってゆく。フランツも少しは慣れたようにパウロのキスを受けとめながら、その背中へと腕を回した。 「……パウ」  キスの合間に、フランツは呟く。日頃からは考えられないような、砂糖菓子のように甘ったるい声だ。 「フラ……」  パウロの手が、フランツの腰を撫でた。 「……一つだけ、謝らせてくれ」 「……何をだい?」  パウロはまるで今から口説くような声を、フランツの耳元に寄せた。 「俺は、嘘をついた」  「……嘘?…」  フランツは微睡んでいるように呟く。  だがパウロの返事は、フランツの声を封じるような――己の言葉も戒めるような、深い口づけだった。フランツの腰にあった手も、さらに下がっていき、太股に触れる。締まった肉づきの肌を、丹念に撫でながら、両足を少しずつ押し広げてゆく。  くすぐったいと、子供のように思った。  パウロのキスが、ふっと離れた。  フランツはそっと瞼を開く。 「……俺がキスをすると、いつも目を閉じるんだな……」  どこかからかうような、けれどちょっぴり寂しそうな低い声が聞こえてくる。 「俺が怖いのか……」 「……まさか……」  フランツは枕に埋もれた頭を振るような素振りをする。怖いなんて、思ったこともないよ、パウ。ただパウのキスの相手が私なんかで、本当にいいんだろうかと思ってしまうんだ……フランツは思う……パウはクラスの人気者で、いつも女の子たちに囲まれていた……私はただの鈍間なドイツ人だ……パウがキスを贈るのに相応しい相手はもっと……  フランツの思考がそこで止まった。下半身に、何か硬くて冷たいものが押し当てられ、自分の両足が、パウロの手で高く抱えられていることに気がついた。  気だるい午睡から目が醒めたように、目の前を向いた。パウ……と言いかけた言葉は、次の瞬間、絹を裂くような呻き声に変わった。  剥き出しの秘所から、フランツの体内へ、パウロのペニスが押し入った。 「……あっ、あっ、あっ、ああっ……」  フランツはベッドの上で反り返った。味わったことのない痛みに突き上げられ、無意識に逃れようともがいたが、パウロに手足の自由を奪われた。 「ああっ……あっ……あっあっあっ……」  ペニスは、まるで褒美を与えようとするように、貪欲に貫いた。フランツの欲情を的確に探りあて、そこを舐めるように愛でるように突いている。先に指でならしていたので、ペニスはうまい具合に入っている。先端はすっぽりと吸い込まれて、中で行為に及んでいる。 「……あ……ん……」  フランツは突かれる度に、切れ切れの喘ぎを洩らした。ペニスを挿入されるのは初めてだった。痛みは衝撃だった。けれど体は激しく感じていた。心臓も血も細胞も、別の生き物になってしまったかのように、興奮している。  ……パウ。  フランツは縋りつくように呼んだ。パウ、パウ、パウ…… 「フラ……」  まるでそれが聞こえたように、パウロはフランツの頬に手をやった。 「辛いか……」  パウロの息は乱れていた。肌に玉のような汗ができている。 「……俺の背中に腕を回すんだ」  パウロはフランツの両足を深く折り曲げると、前へ屈み込んだ。フランツは言われた通りに、パウロの背中へ両腕を回し、強く抱きしめた。そうしないと、自分がバラバラになりそうだった。 「それでいい……」  パウロは、一段と深く突きはじめた。   フランツは下半身から大きく揺さぶられながら、必死でしがみついた。髪も濡れ、あらゆる肌も、過酷な訓練をしているように汗まみれになっている。背中は擦れ、その下のシーツは湿っている。  ぶつかりあう音とベッドの軋む音が、積み重なって床下に散らばってゆく。他に物音が一つもしない室内、そこだけが熱くて激しい。  パウロはフランツの腰に手を置いた。しっかりと両手で掴むと、強く引いた。  フランツは痙攣したように背を反る。  腰を動かされ、フランツの中にあるペニスがさらに獰猛になった。抉るように貫かれ、焼けつくような刺激が自分を麻痺させる。それは痛みではなく、初めて味わう強烈な快感だった。 「はうっ……はあっ……あ……」  上下に腰を振られる度に、フランツの口はそれを悦ぶように声をあげた。まるで樽の底に小さな穴が空いて、中のビールが少しずつこぼれ出るように、喘ぐ声を押さえる術はなかった。  ――自分は……している……  フランツは地の果てへ堕ちてゆくような眩暈に捕らわれていた。  ――パウと……セックスをしているんだ……  なんて……気持ちがいいんだろう……  フランツはぼやける目で、パウロを見た。パウロは手馴れたように、フランツの内部に押し入っている。その艶めいた表情には恍惚の色が浮かんでいる。パウロもひどく感じているようだった。  視線が絡まりあった。 「……気持ちいいか、フラ」  まるで心の具合を読み取ったかのように、低く訊く。  いいや……とフランツは否定しようとした。まだかすかに残っていた自制心の欠片が、そう言わせようとした。だが自身を貫く快楽は、絶対的な支配者になっていた。 「ああ……気持ちがいい……」  全身で感じ入っているような艶かしい声色を出す。  パウロは自信たっぷりの笑みを見せると、フランツの口を吸うように塞いだ。  合わせるように、下半身の動きが慌しくなる。  フランツは声を奪われ、性の快感の出口を閉ざされた。だが容赦なく、ペニスは突いてくる。膨らんでゆく欲情は、フランツの理性を粉々に押し潰そうとする。  フランツは耐えるようにパウロに縋った。まるで大海原で遭難しないように背中を抱きしめる。  ……もう駄目だ……  フランツは意識がかすんでいくのを感じた。  ……私は……死ぬのかもしれない……  パウロのペニスが、最後の扉をこじ開けた。絶頂とも言える興奮が、貫いた。  ……ああ、パウ……  体内で何かが放出されたのを感じながら、フランツはぐったりとベッドに埋もれた。  ――君と一緒なら……私は……  私は、ずっと……  フランツの瞼が、静かに落ちてゆく。  その耳朶に、荒い息が触れた。 「……フラ」  パウロの声は、かすれていた。激しいセックスのためか、それとも達したからかはわからない。 「フラ……」  その声は、優しく言った。 「愛している……」  幼馴染みの体に刻みこもうとするかのように、深く接吻をする。  愛しているんだ、フラ……  フランツは、意識を失った――

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