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番外編「おとまり」3

   ラーメンを食べながら、さっきの続きを考えていると。 「ねーねー、朔ちゃーん」 「んー?」 「何で朔ちゃん、元気ないの?」  沙也がラーメンをちゅるちゅると、すすりながら、オレをじーっと見てる。 「んーん、元気だよ?」 「そうかなあ?」 「部活疲れちゃったかも。暑かったしー」  それは本当だから、普通にそう言うと。 「じゃあおやつに、一緒にアイス食べよーよ」  いいよ、と言いかけて。  あーおやつの時間にはもう、居ないかな……。 「ごめん、沙也、オレ今日魁星のとこに行くから」 「え、そうなの?」  母さんがオレを見る。 「うん。泊まりに行ってくる」 「泊まり? 綾には言ってあるのかな?」 「魁星のおばちゃんからの誘い……みたいな気がする」  そう言うと母さんはクスクス笑った。 「何よそれ?」 「……だから……オレ、挨拶に行くみたいな……」 「ああ――――……そういうこと? まあ、魁星はこっちで宣言してったもんね」 「……そう。多分」 「あらあら……あとで綾に電話しとこーっと」 「何電話するんだよー?」  なんか、嫌な予感しかしない。 「あら? 別に変なことじゃないわよ? 食事よろしくーとか……。まあ……色々」 「色々って何ー」  ほんと、このお母さん達は……。  いいのか、自分たちの息子同士が、付き合うとか言っちゃってるし、泊まるとか言ってるし。  ……いいのか、不純同性交友みたいなのとか、心配しないのか……?  まあ、でも、そんな事心配しないか……。  実家でそんなこと、する訳ないし。心配しないよな、そうだよな。 「ごちそーさまーー」  沙也が元気に言って、「テレビ見てくるー!」と、走って離れて行った。  離れて数秒。 「朔」 「……ん?」 「綾も居るんだし、ちゃんと節度は守れって、魁星に言っときなさいよ」 「――――……」  とんでもないこと言った母さんを、多分オレは、すごい顔で見たと思う。  母さんは、吹きだして、「あんたは大丈夫だと思うんだけどねー魁星はすすんでそうだからなー」なんて、言う。 「そういうのやめてよ。もー!! もー!! ごちそうさま!!」  立ち上がって、部屋に逃げ込む。  そのまま、ひゅーん、とベッドに俯せに倒れた。  顔を埋めたまま、枕を抱き締めて、声にならない声で、何を言ってるのか自分でもよく分からないけれど。 「んーんーんーーんーー!!」  もー。母さんの馬鹿っっっ!!  意識しちゃうじゃんかっ!!  ただでさえ、お風呂でもいっぱい色んな事考えてたのに!!  ……あー、もー、どーやって魁星の所に行けばいいんだ。  あんまり早く行ったら、そういうこと期待してるみたいな……。  もしもし、早く行って、魁星に、そういう事が楽しみで早くきたんだなとか、思われちゃったりして、で、まんまと、触られちゃったりして、そんで、男ってことがバレたとして。  ……いや、バレてはいるのか。  いやちがう、そもそももとから、隠してる訳じゃないんだから、バレたっていう言い方も……。  うーんうーんうーん……。  そのまま、動けない。  枕を抱えて、どうにもならないことを延々と考えていたら、ふわーと欠伸が漏れた。  そのまま、気が遠くなってきて――――……。  多分寝ちゃったんだと思う……。

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