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番外編「おとまり」2

 魁星と別れて帰ってきて、シャワーを浴びる。  ……昼間誰も居ないって言ってたけど……。  ……と、特に、何も、しないよね?   しないよね? キスは……したけど。それくらいはするかな。  ……それ以上はしないよね?  前の鏡に、自分の体が映る。  ――――……オレ、変なとこ無いよね??   ていうか。別に変、ではないと思うけど。  ……普通に、男、なんだけど。  …………どうしよ。  ううーん。  魁星、オレの事、好きっては言ってたけど、オレが男だって、分かってはいると思うんだけど、でもな……。  実際体見たら、男だなーって、思うよなぁ、きっと……。  はっ!!  何言ってんの、オレ。  魁星にオレの裸見せる気満々みたいじゃん!  ひーーーえーーー!  バカじゃないのオレ、恥ずかしいー。  顔、熱すぎると思って、鏡を見ると、文字通り、真っ赤。  あー、なんか、顔が熱い時って、ほんとにこんなに真っ赤になってるのか、と、ちょっと驚く。  ……七夕の日から、オレ、こんな顔をよく、魁星の前でしてるんだな……。  そう思うと、ますます恥ずかしくなってくる。  うひゃーーー、むりむりむり。  オレ、一体、今までどうやって、魁星の前で普通にしてきたんだろう。  さっき、魁星にも言われたけど。  多分、ほんとに、死ぬほどバレないようにと、何かの仮面を貼り付けてるみたいに過ごしてたんだと思う。  あと、魁星がオレを好きとか、かけらもありえると思ってなかったから、そういう意味での恥ずかしさとか、照れとかは、いっさいなかったし。  魁星がオレを好きとか、可愛いとか、そんなの言ってくれるとか、もう、死んじゃいそうな位恥ずかしくて、一生懸命張り付けてた、ポーカーフェイスの仮面は、もうどこかに飛んで行って、粉々に散らばってて、かけらも残ってない。  そんな、魁星がオレの体見たいとか、そんなこと急に言う訳ないっていうのは、分かるんだけど。  ……どうしよう、万一。  二人きりで…………キス……とかしちゃって。  ……そんなことになっちゃって、体、ちょっと触られちゃったり、しちゃったり……。  ひゃーーーーー、無理だー。  どーすんの、それで、オレに触った結果、やっぱり、朔は男なんだなとかいう、結論になっちゃったりなんかして、やっぱり、つきあうのやめようとかなっちゃったりして……。  そこまで考えたら、急に、ちーん、と体中が冷えて。  さっきまで真っ赤だったのに、急速冷凍された感じ。  ……いやでも、ありえる、よね……。  オレは……魁星がずっと好きすぎて。  部活で着替える時とかもドキドキしてて。  オレきっと、魁星が居なかったら、女の子も普通に好きだった気はするんたけど。  でも、魁星のことが大好きすぎて、いろんなことふっとばしちゃってるから、ちょっと特殊なんだよね。特別に、魁星だけが、大好きで。嫌でも、惹かれちゃう。もうどうしようもない位、好きだったから。  魁星の体が男でも、全然へっちゃらなんだと思うんだけど。  魁星が、ちょっとオレのこと好き、程度だったら……。  …………キス位なら、男と女、そんな変わんないけど……。  体は。違うもんね……。  きゅ、とシャワーを止めて。目の前の鏡の中の自分を見つめる。  うーんうーんうーん。  鏡に手をついて、悩んでると。 「朔ちゃーん!! いつまでシャワーあびてんの? ラーメンいつゆでればいいのってママが言ってるよー!」  ドアの向こうから、沙也が叫んだ。 「今でるって言って……」  力なく答えると、がらっとドアが全開になった。 「わー、沙也、何?」 「だって朔ちゃん、元気ないからー」 「元気だから、閉めて」  別に園児の妹だからいいかと思いながらも、なんか恥ずかしい。 「朔ちゃん、早くねー」  と、バスルームのドアも、脱衣所のドアも、どっちも全開で立ち去っていった。  もー、沙也……。  バスタオルで拭きながら、脱衣所のドアを閉めて、ため息。  ――――……魁星、オレが男だって、ちゃんと、分かってるのかなあ?

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