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番外編「おとまり」9
「泣くなよ」
魁星の腕の中で。
うんうん、頷く。
「ずっと居るから、大丈夫。離れねーよ、朔」
「……ん」
こくこくこくこく。
「……あーでも……あれだな。……短冊が無かったら……まだ言えてなかったかもなあ……」
「――――……そうなの……?」
ん、と魁星を見上げると。
「……好きでいてくれるとは思ってたけど……もしかしてそれが勘違いで、朔に嫌がられて、一緒に居れなくなるのとか、死んでも嫌だったからさ……」
むぎゅー、と抱き締められる。
――――……魁星が。
オレと居られなくなったら嫌だとか。
そんな風に、オレとのこと、考えてくれていたのかと思うと。
わーん、もっと泣けてきちゃいそう。
「……ありがと」
言うと、魁星は、オレを覗き込んできて。
「……すっげー好きだよ、朔」
ちゅ、と頬にキスされる。
「~~~~……っ」
ぎゅう、と抱き付いた時。
下で音がして、玄関が開いたと分かった瞬間。
「ただいまーーー!!」
魁星の弟の|成哉《せいや》の大声が聞こえてきた。
「朔ちゃん、来てるー??」
その声に、魁星と顔を見合わせて、クスッと笑ってしまう。
部屋を出て、階段の上から下を覗く。
「おかえりー、来てるよー」
「あ、朔ちゃん!」
成哉が嬉しそうに見上げてくる。
いっつも、可愛いなあ。
沙也と同じ年なんだけど、やっぱりなんか男の子の方が幼い気がするんだよね。沙也はとっても可愛いけど、小さくても女子って感じで……。
「相変わらず可愛いね」
隣の魁星に言うと、魁星がクスクス笑ってる。
と。そこに、魁星のお母さんの綾さんが入ってくる。
「あ、おばさん、こんにちは。お邪魔してまーす」
オレが挨拶した瞬間。
成哉が。
「ねえ、朔ちゃん、兄ちゃんと結婚すんの?!」
まだ、おばさんが、ドアも閉めてないのに。
めちゃくちゃ外にも聞こえそうなデカい声で。
……ちーん。
何やら、成哉だけが、期待に満ちたキラキラした瞳でオレを見ていて。
オレは、ドン引きで、魁星を見て。
魁星は、あー……と、苦笑いで。
おばさんは、平気な顔をして、ドアを閉めながら。
「成哉、それ、でっかい声で言うなって言わなかった? 沙也にも言われたでしょ?」
ため息と共に、おばさんが言ってるけど。
浮かんでるのは、笑顔だし。
ふ、普通は……ご近所さんに聞かれるから小さい声でって、焦るとこだと思うんだよね……。
はー。ほんと、母さんといい、おばさんといい。
ついでに沙也といい、成哉といい……。
「成哉」
魁星が隣で成哉を呼んで、成哉と目が合うと。
人差し指を唇の前に置いて。
「しー、だよ? 一応内緒、なんだからな?」
「……はーい」
優しい言い方に、成哉がごめんなさーい、と素直に謝っている。
「魁星、一応、じゃないでしょ……??」
「ん?」
「一応じゃなくてちゃんと、内緒にした方が……」
「そう?」
「そうだよう……」
ほんと、母さんといい、おばさんといい。
沙也といい、成哉といい……そして、魁星といい……。
皆、男同士って、分かってるのかな?
もー、と考えていたのだけれど。
「朔、今日焼肉だから。お肉いっぱい買ってきたからね」
おばさんの声に咄嗟に。
「えっ。やったー!」
と喜んだオレは。
隣の魁星に、可笑しそうに笑われた。
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