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第6話 気合十分です

 今日はアララギ中佐がやって来る日だ。中佐は本当に約束どおり僕を指名してくれた。  嬉しくて、同じくらいドキドキして、気がつけば二回も湯を使っていた。いつもより丁寧に丁寧に隅々まで磨き上げたのは、もしかしてまたどこか舐められるかもしれないと思ったからだ。 「本当は嫌だけど、中佐がしたいって言うのを断るのもなんだし……」  なにより断ってまた最後までできなくなっても困る。僕は、今日こそ中佐の逞しすぎる逸物を挿れてほしいと思っていた。硬くて太くてカリ高のアレを奥まで挿れてほしい……一度味わった逸物の感触を思い出すだけで、後ろがみっともないくらいヒクついてしまう。 「……んっ。よし、っと」  もうすぐ中佐が来る頃合いだと思い、固形の潤滑油を自分の指で後ろに挿入した。前戯を楽しんでいるあいだに溶けて、挿れる頃にはちょうどよくなっているはずだ。  アララギ中佐が緊張しないようにと花の香りがする潤滑油にしたけれど、どちらかと言えば僕自身の緊張をほぐす意味合いのほうが強い。 「玄人(ベテラン)なのに、初めてお客さんが来るときみたいに緊張する……」  心臓はバクバクするし頭もジンジンして、後ろもジクジクし始める。こんなに緊張しているのは初めてのお客さんを迎えたとき以来だ。 「そりゃまぁ、中佐は理想的だけどさ。アレはすごいし、めちゃくちゃ気持ちよかったし、僕の変な性癖を知っても優しいし……」  最初はちょっと怖かった強面の顔も、僕を包み込んでしまえるくらい大きな体も、可愛いなぁなんて思うようになった。大きな手で頭を撫でられると、父さんを思い出して胸が温かくなった。すっぽり包み込まれるように抱きしめられると、犬と寝ていたときのことを思い出して幸せな気分になった。アララギ中佐の肌の感触と温かさを思い出すだけで、体中がキュンとするような不思議な感じがした。  僕はいつも以上にドキドキしながらも、「今夜こそ玄人(ベテラン)の男娼らしくやるぞ!」と気合い十分で待ち構えた。今日こそは男娼らしくやるぞとやる気満々だった。  それなのに、今回も最初からアララギ中佐に翻弄されっぱなしになってしまった。 「んぁ、あ、あっ、アーッ! そこ、んぅ、ンッ、ひんっ!」 「ここが、いいんだ、ろう?」 「ひゃんっ!」  僕が前回言ったことを覚えてくれていた中佐は、ベッドで僕をうつ伏せにすると、腰を持ち上げて立派な逸物を挿れ始めた。腰をつかむ大きな手にドキドキし、少し押さえつけられるような感覚にめちゃくちゃときめいた。「これが中佐の後背位なんだ……」、そう思ってうっとりした。  そうして逸物を奥深くに収めた中佐は、最初の優しさなんて忘れたようにガンガンに攻めてきた。あまりの豹変振りに、僕の顔は涙や涎、なんなら鼻水も出てぐちゃぐちゃになっていたと思う。  そのくらいの勢いなのに、たまにねっとりと腰を回したりするからたまらない。まるで自分の逸物をどう動かせば相手を悦ばせられるかわかっているような動きに、男娼である僕が白旗を揚げそうになっていた。 (こんなこと、できるなんて……どれだけ、通ったんだよ……!)  思わずそんなことを思ってしまったけれど、あながち間違いじゃないと思う。性生活に満足できなかった中佐は、それこそ高級娼館に何度も通ったに違いない。玄人(ベテラン)(ねえ)さんたちに仕込まれでもしなかったら、素人がこんなふうに男娼を泣かせたりできるはずがないからだ。  僕はすっかり中佐にされるがままだった。逸物の長さや太さを十分感じるようにとじっくり抽送されて、腰が何度もブルブル震えた。硬い切っ先に前立腺を押し潰されてヒィヒィ泣いた。前立腺から奥深くをグゥッと擦られただけで、軽くイッてしまった気がする。 (すごぃ……すごぃ、よぅ……!)  今度は前立腺ばかりをグリグリ潰されて、目の前でパチパチと火花が散り始めた。かつてないほどナカで感じながらも、やっぱり前を弄らないと完全な絶頂には至れなくて苦しくなる。僕はブルブル震えながらも頭と左肩で体を支え、勃起した自分のモノを擦ろうと右手を伸ばした。 「玄人(ベテラン)の男娼は、後ろだけで達すると、聞いたことがある」  中佐の低い声が耳元で聞こえた直後、そっと伸ばしていた右手をつかまれた。ついでと言わんばかりに左手もつかまれて、両手とも後ろにグッと引っ張られてしまった。 「い、たぁ……!」 「っと、すまない。力加減を、間違えた」  少し緩んだ中佐の手は、それでも僕の両手を離してはくれない。後ろに両手を引っ張られた僕は、上半身を仰け反らせるような体勢にならざるを得なかった。グイッと引っ張られるたびにガンと腰が打ちつけられ、決して小さくはない僕の体が前後に揺れる。  僕の性器は股の間でプルプル揺れていて、グン! と突かれるたびにビタン! と自分のお腹に当たるのがわかった。そのときピチャ、ペチャ、という水音がするから、先走りがあちこちに飛んでいるに違いない。  それでも擦らないと射精できなくて、ナカが追い詰められれば追い詰められるほど苦しくなった。僕は泣きながら「まえ、さわって、イカせてぇ!」と懇願したけれど、中佐はかまわずズンズンと立派な逸物でナカを擦り続けた。 「やだ、やだァ! イキた……まえ、出したぃ……ひ、ひン! あっ、ァッ、あン! ンッ、ひぃ、ひぅっ」 「中だけで、イカせて、やる……っ」 「――――ッ! い、あぁぁ…………ッ!!」  中佐の逸物がガツン! と音を立てるように奥に挿入(はい)り込んだ。そこはどのお客さんにも触れられたことがない場所で、信じられないくらい奥まったところだ。  中佐の逸物がナカの壁を押して、ツプン、とどこかを突き抜けたような感じがした。そのままトン、と壁にぶつかって、グニュ、とそこが押し潰されたような奇妙な感じがする。いままで感じたことがない感覚に息を呑んでいると、急にお腹の奥がビリビリと強烈に痺れてきた。そうして激しすぎる刺激が、一気に頭のてっぺんまで走り抜けた。 「ひィ…………ッ! ぁ――――ァ……ぁ……」  頭が真っ白になった。目の前でバチバチと火花が散っている。叫んだような気がしたけれど、何を言ったのか自分でもよくわからない。 「……くっ、これは、やばいな……クッ、出、る……ッ」  ドクン! ビュルッ、ビュルルッ!  ものすごく奥にある壁に、勢いのあるものが何度もぶつかるのがわかった。それはよく知っている射精を受け止める感触よりもずっと鮮明で、なおかつ強烈なものだった。  ものすごい快感に貫かれた僕は、頬や肩をベッドにぶつけるように倒れ込んだ。中佐がつかんでいた両手が解放されたからだろう。  口からは声だか空気だかが漏れているのに息は吸えなくて、どんどん苦しくなっていく。体は勝手にガクガク震えているし、とくに太ももとお腹の震えは怖くなるくらいだった。  とんでもなく気持ちがいいのにものすごく怖くなった僕は、思わず目の前の敷布を噛み締めていた。気持ちがよくて、怖くて、頭が変になりそうだ。それなのにもっとしてほしくて、何がなんだかわからなくなる。快感だとか絶頂だとか、そんな言葉では表現できないくらいの感覚に、僕はただ震えることしかできなかった。  そうしてそのまま、ストンと真っ暗な世界に落ちていった。 「ふぇ……?」  目が覚めたら目の前に敷布があった。その先には僕の指がある。左の頬は敷布にくっついていて、枕はどこかに行ってしまっていた。 (えぇと……?)  どうやらうつ伏せで寝ているらしいということはわかったけれど、寝た記憶はない。「寝る前、何をしていたんだっけ……?」と考えたところで、尻たぶが妙に生温かいことに気づいた。それは僕がよく知っている人肌と同じで、そういえばサワサワした下生えの感触もある。 (そういえば、僕、アララギ中佐と……)  アララギ中佐の名前を思い浮かべた瞬間、後ろの孔がグニュウウ、と動いた。 「ひぃ……ッ」  途端に咥えたままの逸物を感じ取ったナカが、キュウゥゥと引き締まった。蠢くようにナカが動くたびに、たっぷりと注がれていた精液までもが動くのがわかる。それが気持ちよくて、ナカも孔も一気に動き出した。そのせいで逸物との隙間から押し出された精液が、トロォと流れて太ももを伝って落ちていく。 「ひ、ひぃ、ひぃ……!」  意識が戻った僕の口からは悲鳴しか出てこなかった。強烈な感覚に翻弄されて、何度も逞しい逸物を孔とナカとで食い締めた。そのたびに、アララギ中佐の「ウグゥッ」という低い声が聞こえるせいで、ますます僕は興奮した。  強い快楽に呑み込まれていた僕は、はしたなくも男娼らしく「もっとぉ……!」なんていやらしく強請っていた。もちろん中佐もそれに応えてくれて、ブチュブチュと精液がこぼれ落ちるくらいナカを蹂躙し続けてくれたのは言うまでもない。  ……で、ようやく落ち着いたのは抜かずの三発が終わってからだった。  ただなんとなく僕がわかったのが三発というだけで、本当はどのくらい中佐が出したのかはわからない。中佐の逸物は僕のナカから出て行くときもまだ十分硬くて、その絶倫具合に「本当に理想的だしすごいなぁ」なんて感心してしまった。  長いあいだ中佐の逸物を咥えていた僕の後ろは、なかなか口を閉じようとしなかった。おかげでナカにたっぷり注ぎ込まれた精液がトロトロと、たまにゴプッと音を立ててこぼれ出している。  そんな感触も当然僕には気持ちよく感じられるからか、ずっとヒク、ヒクと全身がひくついてしまっていた。 「あー……、その、やりすぎたな。すまない」  傍らで、なぜか正座している中佐が神妙な顔をして謝っている。きっと僕のいまの状態を見て、に大変なことをしたと思ったのだろう。でも僕自身はかつてないほど満足しているし、だから謝らないでほしかった。 (……ほんと、最高だった……)  ナカをみっちり満たしてくれる逸物は最高だった。絶倫具合もよかったし、なにより初めての場所を思う存分突き上げられたのは信じられないくらい気持ちがよかった。あまりに気持ちがよすぎて、こうして体の余韻が抜けないくらいだ。 (本当に、これまでで最高のお客さんなんです……)  そう告げたかったけれど、喘ぎすぎたのかうまく声が出ない。代わりにと、中佐の大きな手をギュッと握りしめた。  握った僕の手を見た中佐が、少し眉尻を下げて僕の顔を見る。そんな中佐も可愛いなぁなんて思いながら、可能な限り頬を動かしてニコッと笑いかけた。 「……大丈夫、ということか?」  中佐の質問にコクコクと頷く。すると、ようやく淡い碧眼が柔らかくなった。 (……もしかして、笑ってる……?)  もし笑っているのだとしたら、初めて見る笑顔だ。 (……こういう顔も、可愛いなぁ……)  いつもの強面と違って本当に可愛かった。もっと笑ったらいいのになぁと、もったいなく思う。 「……あまり見ないでほしいんだが」  困ったような表情に、僕のほうが困ってしまった。だってこんなに可愛い中佐の顔は、今度いつ見られるかわからない。だからいま思う存分堪能しておきたいのに……そんな気持ちで見ていたら、碧眼が少しだけ横に逸れた。 「その……あまり見られると、またしたくなるというか。……さすがにこれ以上は、きみの負担が大きすぎるだろう?」  中佐の言葉に、そっと視線を下へと向ける。すると、正座した足の間からヌッと立派な逸物が顔を覗かせていた。 (うわぁ、本物の絶倫だぁ……)  本当なら僕も受け入れたいところだけれど、いまはちょっと無理そうだ。残念に思いながらも、初めてのところをあれだけ犯されたのだから当然かと思い直す。 (でも、できれば中佐の絶倫を受け止めたい)  そのためには、もっと体力をつける必要がありそうだ。あとは……後ろも、もう少し柔らかくしておいたほうがいいかもしれない。そんなことを決意していた僕の耳に、中佐の独り言のようなつぶやきが聞こえてきた。 「まさか、俺のモノが全部挿入(はい)る男娼がいるとは思わなかった。いや、むしろ男だから挿入(はい)ったということなんだろうな……」  さっきまでナカにあった逞しさを思い出して、「そうだろうなぁ」と思った。あれだけの逸物なら、普通の女の人が受け入れるのは厳しいだろう。娼館の(ねえ)さんたちならいろんな性技で気持ちよくはできるだろうけれど、体格的な問題はどうにもならない。  その点、僕は背がそこそこあって体も大きめだから、ナカも大きいに違いない。手足も長いし性器もそこそこの長さだから、ナカも長いのだろう。  それならあの長さが全部挿入(はい)ったとしても不思議じゃなかった。逆に言えば、あれだけ長いからあんな奥まで挿入(はい)ったということでもある。  アララギ中佐の逸物が立派すぎたおかげで、僕はとんでもなく気持ちよくなれた。あんな強烈に感じるほど気持ちがいいことは、中佐としか味わえないだろう。中佐くらい体の大きな軍人さんなら可能かもしれないけれど、そんな人が僕みたいな男娼を指名するとは思えない。つまり、アララギ中佐としか最高の交わりはできないということだ。  そこまで考えたとき、背中をゾクッとするような悪寒に襲われた。 (……それじゃあ、この先中佐以外とできなくなっちゃうんじゃないだろうか……)  アララギ中佐に抱かれるときしか気持ちよく感じなくなってしまったら、どうしよう。そうなったら男娼としては生きていけなくなる。なにより、中佐から離れられなくなってしまいそうで怖かった。 (それはちょっと……すごく、ダメだ)  想像するだけで快感とは違う震えに襲われそうになる。  隣に寝そべった中佐が、まだぐったりしている僕を抱き寄せながら「十日後は休みだから、また指名する」と約束してくれた。  それはすごく嬉しくて男娼としてはありがたいことなのに、どうしてか僕は素直に喜べなくて、代わりにちょっとだけ怖いなと思ってしまった。

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