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第3話
「誰だっ!」
寧人 は腰を抜かす。それも当たり前である。一人暮らしの家に人がいるのは怖い。
そして椅子から転がり落ちたのだ。古典的な漫才みたいな大袈裟な動きである。
「フードジャンゴの配達員です」
どう見てもフードジャンゴの配達員とわかるファッションである。
「見ればわかるよ! なんで勝手に部屋の中に?」
確かにそうである。いきなりはいってきたのにはなぜか理由があるのだろう。泥棒の可能性もある。寧人は少し間を取っていたりもする。近くにあった定規を剣に、ノートを盾に構える。自分よりも大きな体の相手には太刀打ちできない装備である。
「いや、玄関先にって書いてあったけどお隣さんの玄関先がびしょびしょで、多分水仕事か水遊びとかでかな? ここの部屋のドアの前まで水が垂れてたから置けなくて」
説明の長さに寧人は眉をしかめる。
「んで、どうやって部屋に入った」
「ドアが開いてました」
驚いた寧人は慌てて部屋の前に行くと確かに部屋の前は水が伝いびしょ濡れ。
彼は隣に幼稚園児のいる親子が住んでいることを思い出した。
そしてあっ! と思い出したのは夜中のうちにゴミを出しに行ったこと。寝ぼけながらもいって、もう一つゴミがあるからとりに戻ったまま寝てしまった。その時にドアを開けっぱなしにしていたことを。
「あああ、ずっと開きっぱなし……」
寧人はうずくまる。そんな様子を見て配達員はヤレヤレとした顔。
「大丈夫ですよ、すこししか開いてなかったし。気をつけてくださいね……にしても部屋汚い」
「うるさい、まぁとにかくここまで持ってきてくれたお礼とドアの件。ありがとう」
と寧人は財布からスッと札を抜いて配達員に渡した。配達員は再びニコッと笑った。
「早く出ろよ」
「はい、僕も急いでるんで!」
配達員の持ってきた麻婆丼を開ける。ほぼこぼれてない。配達員の中には乱雑に置くものや、こぼれても何も言わずにそのままのものもいる。
だから寧人はそういう配達員にクレームを出せるシステムをつけることを提案しようとしたがようやく言えた頃には他のものが提案したものが採用された。
その提案が可決されたがその内容は、クレームがそのまま本社に伝わり、その配達員の評価にフィードバックされて注意、あるいは減給、クビにもなるというかなりシビアなものであった。
「……急に入ってくるのもあれだが、やっぱり家まで入って机に置いてくれるシステムもいいな。子供やお年寄りの見回りにもつながるかもな」
もちろんクレームだけてなくて良い評価もつけられるシステムもある。
「今回の配達員……名前は……イチゴ」
配達員名はそれぞれ登録しているニックネームで表示されるのだ。
「苺が好きなのかなぁ」
とぼそっとつぶやきながら彼の名前の下のボタンを押した。
「GOOD」
と。
「にしてもあんなイケメン、いるんだなぁ」
と呟く。さっきのロンゲの彼、そしてイチゴという可愛らしい名前に少し口元が緩んでしまったようだ。アイコンは特に決まっていない。
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