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第29話

 寧人(よしと)と古田がオフィスに入ると、課長がギョロっと二人を見た。 「古田、遅かったな」 「お疲れ様です、鳩森(はともり)と営業先に行ってました……ほら、鳩森挨拶しろ」  寧人は古田の後ろに隠れていたが課長の前に押し出された。 「その髪型……在宅はいいよな。チームのメンバーが作業して待っているぞ」  ソフトモヒカンの寧人の髪型はやはり会社にはアウトであった。  古田に案内されるがまま部屋に移動する。以前はメインオフィスのみしか見てなかったが、他の部屋は寧人が知らない間にきれいに改装されていたのだ。    オフィスにいる社員たちも知らない顔ばかりだ。寧人は不安になり挙動不審になる。 「しっかり前を見ろ、鳩森」  さっきまで交わりあっていたのに態度がいつもどおりのドSに戻っている古田にビクビクする。それを古田が見てニヤニヤとする。  赤い扉に入ると数人ほどが待ち構えていた。 「あ、リーダーだ」 「鳩森リーダー、ビデオチャットで見るよりかっこいいー」  寧人は自分より明らかに若いチームのメンバーに驚く。そしてやたらと容姿を褒められて浮かれてしまう。  古田は肘で小突いて寧人はメンバーの前に立って挨拶をする。 「あ、その……お疲れ様です。リーダーの鳩森です。いつもサポートありがとう。若い君たちのアイデアや業務で……その……」 「話が長い」  と古田が寧人が突っ込むとメンバーたちは笑う。 「14時からのフードジャンゴの菱社長へのプレゼンまであと2時間、早急に打ち合わせをしましょう」 「はいっ!」  ぐぅうううー、とお腹を鳴らせたのは寧人だった。恥ずかしそうな顔をする。 「リーダー、ランチミーティングしましょう」 「ランチミーティング?」  と机にたくさんの弁当。寧人の好物である麻婆丼もある。車の中でイチャコラしすぎてお腹が空いている。 「これもフードジャンゴの人に持ってきたものです。好きなものを選んでください。あ、古田さんも」  もちろん寧人は麻婆丼を手にした。

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