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第58話 過去編

 一護(いちご)はポテチを摘む。手は寒いがポテチを食べたいがために指先のない手袋をしている。 「食べ過ぎだろ、僕の分も残しておけよ」 「まだ二袋あった。シソとガーリック」 「癖の強いものばかりじゃねぇかよ」 「精力つけるために寧人はガーリックじゃないかな」  と袋をパーティー開けして寧人(よしと)のところに置いた。一護はやはりどうしてもお世話をしたがる。  今回の旅では支える側のスタッフであるはずの寧人に一護があいもかわらず手を焼いていた。 「まぁ悪くないけど……」  寧人は指が空いてない手袋をのため、手袋を脱いで少しずつ食べはじめた。 「一護はフードジャンゴの跡取りだったわけでしょ、お父さんが先代の社長で」 「そうだね。もともとフードジャンゴの前身である卸売りのスーパーから外国のフーディーズと提携して。『今は来てもらうのではなくて食を届けに行く』スタイルを早く築き上げてデリバリーの大手企業に上場したんだよね」 「デリバリーのおかげで僕も引きこもりの時は大変助かった」 「それはそれは。今ではデリバリーも根付いてきたけどね。贅沢とか言われてたし」  寧人は気付くとポテチが無くなっていたが一護によって注ぎ足されていた。 「ばあちゃんから聞いたけど胎教の時からクラシックやら英語やら色々浴びて生まれてからもそんな感じでずーっとお前は社長になれ、会社を継げと耳元で囁かれてたんだよ」 「でも先に美容院経営から始めたよね」 「うん、美容に興味あったら。あと大学の時に先輩に誘われたメンズマッサージ店で働いててそのまま雇われ店長を任されて。だったら運営やりますよって言って買い取ったわけ」  寧人は目を丸くする。一護は、ん? という顔をする。 「そう簡単に買い取るとかできるわけ?」 「うん、その辺は父さんも出してくれたし」 「へぇーっ」  寧人にとっては未知の世界であった。 「そいや兄弟の話も聞きたい」 「そういう流れにはなるね」  一護は苦笑いしている。あまり話したくはなさそうだが。 「小学4年まではさ、一人っ子だと思って。母さんがいなくなってから新しいお母さんだと半年後に紹介された女性には2人子供がいたんだ。年子の兄弟」 「頼知と現在フードジャンゴの2人か」 「そう。その2人も頭がよくてね……でも世話のかかるやんちゃくれで。大変だったよ」 「だからお世話好きに」 「うーん、その前からお手伝いさんの家事や 料理を見て真似てたりしてたら自然と」  ほぇーと、寧人は自分と一護は住んでる世界が違うとため息をつく。 「その後3人、新しい兄弟ができたけどその子供たちは新しいお母さんがよその男との間の子だったわけ……下の3人もこれまた手のかかる子たちでたくさん世話をしたのにそれが判明したら新しいお母さんと蒸発してしまった」 「なんだかなぁ」 「まぁ聞いた話だと父さんが金渡して遠くに住まわせたって聞いたけど」 「島流しか? 会いに行けばいいんじゃないの?」 「島流しは言い過ぎ。……でもいつかは会いたいよね。多分今は思春期だからさ……難しいかもね、その子たちにはどのように伝えられてるかわからないだろうし」 「そうだよね。でもこの動画見てくれたら嬉しいよね。自分のお兄ちゃんは菱一護って知ってるんでしょ」 「うん……知ってる」  一護は言葉を詰まらす。本当に大切に世話をしていたのかと寧人は察した。  しばらく一護はココアをすすり、ポテチを黙々と食べていた。 「頼知ともあまり仲良くないしね、正直」 「なんで?」 「手をかけすぎてうざがられて……」 「あーそっちのパターンか」  一護はお世話好きで、お世話された方はさらに甘えすぎてダメになるパターン(寧人)と、お世話されて巣立っていくパターン(ドラゴン)、お世話されて鬱陶しくなって避けていくパターン(頼知)とあるようだ。 「そいや寧人は兄弟は?」 「一人っ子」 「ぽいな」 「どこがっ」  寧人は典型的な一人っ子である。 「親たちはそれぞれ自由人だからどこか出かけても自由行動で個々で動くし、今も親たちは仲悪いわけじゃないけど好きなことしたいからって実家売り払って別居してるんだよ」 「はぁー、だから寧人も自由で気ままに動くんだね」 「……」  寧人は否定したくてもそうはできないから少し遅れてうなずいた。 「家族ってなんだろうなぁ」 「だよねぇ……」 「別に無理して家族つくるってしたくなくなるよな……」 「まぁね。でもさ、寧人となら楽しく過ごせそう」  と一護が言った言葉に寧人はコーヒーを吹いた。 「僕と一護が家族……」 「まぁ法律上無理だけどな」 「だよな……」 一護にタオルを渡されて寧人はコーヒーを拭いたがもう染み込んでしまった。 「着替える……」 「じゃあキャンピングカーに行こう。それでさ、ベッドで話そうよ」 「ベッドで……」

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