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第57話

 流石に毎晩はセックスをしないが、1ヶ月近く行動を共にしている。前の時は一緒に住んでいても互いに違う職場で離れて仕事をしていた。  今は常にそばにいてときに喧嘩もしたり仲直りしたり。  2人のことを知った街の人たちに時折家に泊めてもらったり物や食べ物をもらって元気をもらった。  一護(いちご)はもともと撮られてるという意識が強くエンターテイナー的な存在だったが影武者に徹したかった寧人(よしと)は次第にスタッフとしてではなくて一護の相棒として自分からさらに前進するようになった。 「前の仕事の時も寧人がシステム構築で僕の会社のシステムをよくしようといつもアイデア練ってたね。ビデオチャットでなんとも会議をした」 「そうそう。でっかいスクリーンに一護がデーンって写って僕らがそれを見てるんだけど、なんか悪の組織のボスみたいなの、一護がどう見ても」 「そうだったの?」 「うん、それを部下が気づいてからみんな緊張が解れたっていうか……」 「えっ、それっておもしろがってたということ? やめてよ……」  たわいもない会話も赤裸々に話せるようになった2人。  寧人はこれを機にもっと一護を知りたくなった。なんでそんなに自分や人を世話したくなったのか、ビジネスを器用にこなせるのか。  と、さっそくとあるキャンプ場でレンタルしてキャンピングカーに泊まる企画を考えた寧人。 「しばらく人の家が続いたからさー。テレビ局にもう少し予算せがんだらこのキャンプ場紹介されて、宣伝になるからタダでいいって」 「寧人、さすがだな……」 「久しぶりにセックスできる」 「外に聞こえたらまずいよ……ホテルの方が大きな声を出せる」 「一護は喘ぎ声が大きい」 「寧人だって……」  と流石にこれも録画していない。さっそく撮影に入り、提供してもらったものを宣伝しつつキャンプを楽しみ、一護もとてもリラックスしている。  一斗缶風呂にも入り、その後は星空の下で寧人は一護と会話をする。話す内容もアレなこともリラックスしてありそうだと思い事前に一護にはカメラを回していることを伝えた。 「あのさ、一護。今回の旅、どうですか」 「なんだよ、改まって。まぁとても楽しいけど……寧人は?」 「楽しいよ。この星空の下、お客さんも少ないしゆっくりと話がしたいなーって」 「僕はキャンピングカーのベッドに早く寝たい」 「寝ないでよ、もったいない……」 「んで、何から話せばいいの?」  一護は暖かいココアをすすった。寧人はコーヒーである。 「一護の生い立ち」 「それは過去の放送でも流したけどさ、6人兄弟の長男で元美容院オーナーで元フードジャンゴの社長で今は旅人」 「そんなの放送でわかってる。でもそれも伝えていないことをもっと知りたいし、知りたい人もいる」  一護は無口になる。 「さぁて寧人の司会でどこまで掘り下げられるかな」 「もう1ヶ月近く撮影交渉や食レポ頑張ってるからそれなりには……ねぇ」 「自信なさすぎ」 「改まって聞くのもね、うん」  寧人はもっと知りたいのだ。一護のことを。 「なぜそんなに世話焼きなのか」 「あー、それは弟たちの面倒を見ていたからだよ。知ってるよね」 「うん、あの美容院の弟。元気にしてるの」 「元気元気。寧人の姿動画で見て元気そうで何よりって喜んでる」 「そうか……それはそれは」  何度か頼知(らいち)に寧人は口説かれていたのに相手にしなかったからまだ自分のことを案じてくれているんだとびっくりしている。 「ってやっぱりこんな会話面白くないよ」 「面白いよ。もっと聞くからね……これからやりたいことは?」 と聞くと一護はうーんと悩む。そして出した答え。 「なんか他の事業をと考えてたけど漠然としたものしか思い浮かばなくなったのは年なのかな」 「26歳の君がそれ言ったらおしまいだよ。40過ぎの僕はどうするの?」 「さぁ」 2人は笑い合った。 「まぁ冗談はそこまでにして。ねぇ、寧人」

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