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アス第13話

   ものすごくびっくりした顔のキョウ。 一瞬でもそんな顔をさせたことに満足する。 ずっと俺ばっかり翻弄されてたからな。 けどそれはやっぱり一瞬で・・・ 逆に抱きしめられ、頭を手で引き寄せられ深い深いキスをされた。 口の中でキョウの舌が歯列をなぞり、舌を絡ませ、俺の粘膜を蹂躙する。 クチュクチュと音をたてながら・・何か食べられてるみたいだな。 実際にお互いの唾液を食べ合ってる状態だ。 「んふぅ・・・」 息が続かなくなって、鼻から変な声が漏れる。 そう言えばこの前鼻で息をしろって言われたな。けど難しいんだよ。 頭が酸欠でクラクラしてきたし、そろそろ離して欲しい。 人気がないっていっても、ここ外だしな。 俺、体はキスで蕩けているのに、頭は意外に冷静だ。 弱気なキョウなんて見たの初めてかもしれない。ジュンさんに嫉妬するキョウは何だかかわいかった。 俺のことをそこまで思ってくれてるんだって実感して嬉しくて、思わず俺からキスしてしまったけど・・・ キョウの胸の辺りを手でドンドンと叩く。 ハッと我にかえったキョウが俺を解放した。 「はぁ、はぁ・・流石に外でこれはやり過ぎだバカ!」 「今のはアスが悪いだろ・・アスからキスしてくれるなんてオレが自分を抑えきれるわけがない。」 「開き直りやがった! いや、でもまだ向こうにジュンさんも居るだろ?いくら人気がなくても誰か来るかも知れないし。」 「あぁ、親父はライブの後すぐに出てるはずだよ。今日の夜に隣の県のクラブでもう一本ライブなんだって。」 「ふーん、そうか。いいなぁ、俺もクラブでのライブ見てぇ。」 「十時までとかなら、未成年でも入れる所もあるから、親父が早めの時間にやる時にはまた連れて行ってやるよ。ライブハウスなら普通に入れるけど、最近バンドの方はあんまりやってないからね。」 「ふーん、そうか。俺、ジュンさんの歌聞いたことないからバンドも見てみたいんだけどな。」 「じゃあアス、これからウチに来ない?親父のバンドのCD聞かせてあげるよ。明日の夜まで親父も帰って来ないし。」 「えっ?キョウの家は立ち入り禁止じゃねぇの?」 「それはガキの頃の話。高校生のアスは入っていいって親父の許可が下りたし。」 「・・・来るよな?明日楽?」  お前、さっきはかわいかったのに魔王モードに戻ってないか?俺がキスしたせいか? うん、でも俺もまだもうちょっと腹を割って話したい気分かな? CDも聞きたいし、今まで立ち入り禁止だったキョウの家に行けるのも素直に嬉しい。 母さんも今日は帰って来るのが遅いだろうし、特に連絡しなくてもまだ大丈夫な時間だしな。 「いいよ。行く。」  夏が終わり、冬にはまだ遠い季節。夜風が気持ちいい。 煌々と照る月を見ながら、俺たちはなんとなく手を繋いで歩いた。 駅に着き、その人工的な明るさに我にかえった俺はパッと手を離す。 キョウはニヤリと笑ってまた手を繋ぎ、そのまま引っ張るように急ぎ足で歩く。 「早く帰りたいから次に来る電車に乗るよ。後二分だ。走れ。」 ええ?いつの間に時刻表見たんだよ? キョウにつられて俺も走る。 ちょうど到着した電車に飛び乗った。 息が上がった俺にキョウがミネラルウォーターのペットボトルを差し出す。 「さんきゅ。」  その後電車の中では特に喋らず二駅が過ぎ、俺たちの住む町の駅に着いた。 「お腹空かない?コンビニで何か買って帰ろうよ。」 そう言えばライブ前の早い時間に食べたきりなのでそれなりに腹が減っている。 その後はとても何か食べれるような状態じゃなかったしな。  俺たちはコンビニで適当に食い物を買い、キョウの住むマンションに帰って来た。

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