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馴れ初め編(ジュン3)
あれからおれとレンの関係は特に進んでいない。そんなに会う機会もなかったしな。
前にも増して俺が揶揄うと真っ赤になって怒るくらいだ。
ただおれはこのまま諦める気なんてさらさら無い。
今はレンも混乱してるだろうし、ノンケにいきなり男と付き合えっつってもハードルが高いのは分かってるからそっとしてやっている。
まぁ、あいつもおれの事が気になって仕方ないとは思うがな。
しかしあの時のレンはエロかった。思い出したら今でも勃つ。
気を紛らわせる為に曲を作った。
ソロのJUN用にアンビエントテクノな曲。
アナログシンセの音をパソコンに取り込んで重ねていく。
タイトルは「カタルシス」。
テーマは解放と浄化だ。
基本音だけだが、イメージを膨らませるために少し歌詞を書いてみる。
実際に歌うわけじゃないから変に凝ったりせず直接的な言葉を紡ぐ。
お前は何も悪くない。
これは自然の摂理。
自分を愛してやれ。
自分を否定するな。
自分を解放しろ。
そしてお前の心が凪ぐように・・
言うまでもなく、レンの気持ちを思って作った。
自分がゲイやバイである事を認められない人間は多い。
けど、そこまで特別な事じゃねぇんだよ。
性的マイノリティは異常じゃない。
自然の仕組みによって、ある一定の割合で生まれるようになっている。
誰もがそうなる可能性を持って生まれて来る。
自分を否定するな。
自分を解放しろ。
そんなメッセージが込められた音。
音楽で人の気持ちを揺さぶるのはおれの特技だ。
レンがこの曲をどう受け取るか、おれを受け入れてくれるのか・・・
自分の得意分野で口説くのは至極真っ当だろ?
JUNの音は、自宅の機材ルームである程度作り込み、スタジオに入ってデカイ音で演ってみて色々調整する。
今回スタジオに入る時にレンも連れて来た。
カタルシスを聞かせる。
「・・・ジュンさん、これは・・何て言うか凄いね。俺涙出ちゃったよ。」
「脱皮?っていうか生まれ変わりを想像した。蝉の幼虫が土の中から出て来て脱皮して、飛んでいくイメージ。」
「プハッ!まさか蝉に例えるとはな!まぁ、間違っちゃいねぇよ。
この曲のタイトルはカタルシス。解放と浄化がテーマだ。」
おれはレンに、ないはずの歌詞とおれの中のイメージを伝える。
レンの為に作ったなんて事は言わない。
言わなくても伝わるはずだからな。
案の定考え込むレン。
次のJUNのライブでこの曲も演る事をレンに伝え、とりあえずこの日は普通に帰った。
そして、クラブのパーティーでJUNのライブがあった日、レンは自ら音の調整をしたカタルシスを爆音で浴びた後、妙にスッキリした顔でおれに言う。
「ジュンさん、この後キョウくんが大丈夫ならウチに来ない?」
「あぁ、キョウはまた友達の家に泊めてもらってるから大丈夫だ。ウチに帰って来るのは早くて明日の夕方だが・・・行っていいのか?」
「うん・・ちょっと話もしたいし。」
まだパーティーは終わっていなかったが、俺たちはレンの家に移動した。
前に来てから二か月ぶりくらいか?
そろそろ春だというのに、まだこたつには布団が設置されたままだった。
そのこたつに入る。
買って来たビールをおれに手渡しながらレンが言う。
「ねぇジュンさん。本気だって言ってたのに、何で俺を放置したの?」
「あっ?お前に考える時間をやったつもりだったんだが?」
「でも二か月も何も言われなかったら、嘘か夢だったんじゃないか?って思うよ。
けど・・・今日カタルシスを聞いてジュンさんの心の一部を受け取った気がする。」
「俺、自分の心を解放していい?
男か女かって括りじゃなく、ジュンさん個人が好きって・・・」
レンの言葉が終わる前に唇を塞いだ。
自制がきかねぇ。レンの口腔内をおれの舌で余す所なく侵略していく。
深く深く舌を絡める。くそっ、何でこいつの唾液はこんなに美味く感じるんだ?
口の端からどちらのものか分からない唾液が溢れるが、お構いなしに長い時間貪りつくした。
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