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第2話

 昌玄黙は師に頼まれ、ある村を目指して歩いていた。  師の話によれば、知己である毅鳳山がその村へ行くと言った後に消息を絶ったのだという。  玄黙は、毅鳳山という男とは特段仲の良い間柄ではない。むしろ少々面倒臭い性格だと思っており、一、二年前にどこかへ旅立ったと聞いた時は内心安堵する程であった。  突然現れては決闘を求められたり、なにかと棘のある言葉を投げつけられることが多かった。心当たりがないでもない。巷で流行っている番付などというもののせいだろう。あのようなものに心を乱されている限り、毅鳳山という男の剣戟には雑念が籠り続ける事だろう───と、ここまでは容易に察することができる。  とはいえ、彼の実力は確かだ。あれほどの手練れが命を落としたとなれば、きっと只事ではない。これから向かう村が噂通りの、妖魔が出没する場所であるのなら見過ごす訳にはいかない。  玄黙は木に道標を残しながら、件の村へと進んで行った。 ------------------------  黄金に輝く稲穂が、風を受けてさらさらと音を立てている。  あまりに広大な敷地であるにも関わらず、遠く、麓の方まで黄金色は続いている。これだけの面積をきちんと耕し作物を育て上げるには、相当数の成人が必要な筈だ。  にも関わらず、辺りを見渡し確認できる民家は数軒程である。それらの方向へ歩くと、軒先に座る老夫婦が見えてきた。脱穀の途中で疲れたのだろうか、のんびりと茶を飲んでいる。働き盛りの若者は、まだ一人も見当たらない。 (見るからに平和だが……少し妙だな)  玄黙は老夫婦から話を聞こうとしたが、声をかける直前、女性の方が茶杯を持ったまま眠っていることに気がついた。男性とは目が合ったが、今話しかけて起こしてしまうのは申し訳がないと感じ、一礼してその場を去った。  去っていく玄黙の背中を見た男性は、礼儀正しいその旅人が腰に剣を佩いていたことにその時ようやく気がついて、呼び止めようかと迷った末「何事も起こりませんように」と小声で呟くのみに留めた。  玄黙が次に目にした村人は、赤子だった。  家の前の地べたに座り、何やら桶のようやものを覗いている最中だ。  勿論、乳幼児からは何も聞き出すことは出来ない。玄黙はご両親から話を伺おう、と考えた。 「──────!!!」  瞬間、彼は目を疑う。間近で見るその赤子は、桶に入っている野菜をふわふわと浮かせて遊んでいた。  反射的に赤子の耳に目を向け、確信した。耳先の尖っているこの赤子は間違いなく─── (妖魔かっ…………!!)  遊びに集中していた赤子は、自分の視界に影が落ちたことでようやく見知らぬ男の存在に気がついた。ぱっと顔を上げ、その男と目が合った次の瞬間には、 「〜〜〜〜ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁあああああ゛あ゛あ゛っ!!!!!」  大声で泣き叫んでいた。 「阿瓜!??どうしました!!??」  屋内の大人が一人、慌ててこちらに駆けつけてくる。動揺した玄黙は思わず剣の柄を握ってしまった。  今まさに剣を抜かんとしている姿に見える玄黙と、中から出てきた人物の視線とが───ばっちりと交差した。 「あ…………」  親も、紛れもなく妖魔だ。  これまでに何度も斬り捨ててきた玄黙が、見間違う筈がない。  しかし抜刀できない理由が三つあった。一つは、その妖魔がただの村人に等しい生活感を醸し出していたこと。二つ目は、玄黙が理由なく乳児とその親を斬り殺せるほど、無情ではなかったということ。  三つ目は。 「………………」  若く聡明な剣士が、その妖魔に魅入ってしまっていた、ということ。  その躊躇を認識するのは、本人よりも妖魔の方が早かった。剣士と見つめ合うのをやめると、すぐさま赤子を抱きかかえに行った。 「あぁ、知らない人に驚いたのですね。よしよし……」 「………………」 「旅のお方ですか?」 「…………あ、」  突然我に返った玄黙は、拱手しながら口早に弁明した。 「も、申し訳ない!!驚かせるつもりはなかったのだ。私は、昌玄黙と申す者。その……知己を探しにここへ参ったのです。少し話を………」  手元を崩さず目線を相手に向けた剣士は、あることに気がつく。その妖魔の腹が丸く膨らんでおり───やがてもう一人が産まれる、ということに。 「………伺えないだろうか」  情報が咀嚼しきれない、と書いてある顔を見ると、妖魔はくすりと笑った。 「ええ!どうぞ。ご友人はどのようなお方で?」 「友人と言うか……あ、いや。私と変わらぬ程の背丈で、剣を佩いた若い男がこの村に来なかっただろうか」 「けん?…………あぁ……」  妖魔はちらりと腰に目をやった。何の感情も籠っていない表情になったが、すぐに人懐こい笑顔へと戻った。そして質問には答えなかった。 「それ、身に付けている人多いですよねぇ。持っていると、逞しくて健康な身体になれるんですか?」 「えっ?いや、そういう訳では…ないのだが」 (剣士に何度も会っておきながら、攻撃された事がないのか?……そんなまさか)  真意が読み取れず、困惑する玄黙に構わず妖魔は続けた。 「うちの人も、持っていましたよ。それ。けど、何だかどうでも良くなっちゃったみたいで。どうしたものか……」  世間話をするかのごとく、平然と話される内容を聞いて玄黙はぴたりと固まった。そして彼がその人物について尋ねるより先に、妖魔の方から提案がなされた。 「うちの人に会ってみます?何かお分かりになるかも。……あぁ、でも今はちょっとお見せできる姿じゃないので……少し、お待ち頂けます?」 「あ、あぁ……かたじけない」  玄黙は、赤子を連れ室内へ戻っていく妖魔の背中を目で追った。  何かを片付ける音、誰かに語りかける声を耳にしながら待つ間───ざわざわとした悪寒を感じずにはいられなかった。  ややあって招かれた家の中は、薄暗いが至って普通の民家だった。最低限の家具が置かれこざっぱりとした印象の室内には、新米の焚かれる芳しい香りが充満している。  案内された寝室には、一人の男が横たわっていた。  壁に向かって寝転がるその肉体は、とても健康的な若者のそれではない。ちらりと見える手首は贅肉に覆われ、剣など一度も振るったことが無さそうである。ああ、人違いだと一目で判断した玄黙が、話だけでも伺えれば───と声をかけようとしたその時。 「パ〜パ、ほら。お客さまですよ」  妖魔に身体を起こされた男の、顔が目に入る。下半分は贅肉と短い髭に覆われ、死人のように虚ろな目をしているが、間違いない。見間違う筈がない。変わり果ててはいるが、この男こそが…… 「毅……鳳山………?お前、なのか?」  聞き覚えのある声で自らの名を呼ばれた男は、はっと眼を見開いた。恐る恐る顔を上げ客人の顔を確かめると、何も言わずにぼろぼろと涙を零し始めた。  いかなる窮地でも自分の手を借りる事などないと思っていた───あの気丈で勇敢な男が───どういう訳かこの有様である! 「あらあら!この人ったら!!……ああ、積もる話もおありでしょう?私は外に出ていますね。どうぞ、ごゆっくり」  にこりと笑った妖魔がその場を去り気配が遠ざかった事を確認すると、震える男に駆け寄り小声で話しかけた。 「おい。私だ。昌玄黙だ。……どうした、何があった?」 「………ぅ、うぅっ…………う………」 「大丈夫だ。俺は味方だ。お前を、助けに来た」 「…………う、…………こっ、こ、ここ殺せ、なかったのだ」 「殺せなかった?あの妖魔に、お前は負けたのか?だから剣を奪われ…こんな姿に?」  反応は鈍かった。玄黙とは目を合わさず、床か壁のあたりをぼうっと見つめた後、小さく一度だけ頷いた。 「そ、そうだ。とられた。とられたのだ……俺はもう、戦えぬ。戦えぬ……。お、お前が、お前が…あっあれを、殺してくれ。頼む」 「……殺せだと?その前にいくつか確認させてくれ。あの妖魔は危険な存在なのか?」  今度は震えるように小刻みに、何度も頷いた。 「赤子も危険か?まさかあれも、お前が手を出せない程の脅威なのか?」 「!!!」  目を見開いた彼は、誰かに思い切り背中を殴られたかのように、大きく飛び跳ねた。あまりに異様な反応に、玄黙は俄かに眉を顰めた。 「で、で、でき……できない。手を出せない。出せない……」 「出来ないだと?私とて、理由もなしにあのような赤子を斬り捨てたくはない。教えてくれ。どのように彼らが危険……」  ふと、何か見落としがあるような気がした玄黙は喋ることをやめた。大きく一呼吸する間に思考を張り巡らせ、はっと思いついた疑問を投げかけた。 「この村に他に妖魔は?」 「……いない」 「ならば、あれの父親は誰なんだ?」  玄黙は「知らない」の一言を期待し、待ち続けた。しかしその言葉が聞こえてくることはなかった。代わりに聞こえてきたのは嗚咽と、大粒の涙が寝具に落ちる音だけだった。  ため息を一つだけ残すと優しく布団をかけてやり、玄黙は静かにその場を去った。  玄関のすぐ外では妖魔が赤子を膝に乗せ、鼻歌まじりに野菜の皮を剥いている。 「お話、済みました?」 「君に……確認したいことがある。少し話をしても?」 「ええ、勿論。私も、貴方にお願いしたいことがあるんです!」  妖魔は無邪気に微笑みかけると、作業の手を止めた。刃物と野菜を屋内へ仕舞った後、赤子を抱きながら庭先に座り込んだ。 「先に君の話を聞こう」 「あぁ、助かります。うちの人についてなんです。あれでも数日前に身嗜みを整えてあげたから……まだましな方なのですけれど。見ました?あの様子……。一日中あのように横になったきりで、寝床から離れず、病もないのにまるで病人のよう。来る日も来る日もあんな風に過ごしていて、村の皆さんみたいに長生きしてもらえるのか、不安で不安で……」 「………成程。私に頼みたいこととは?」  カラン、と鈍い金属音を上げて地面に放り出されたのは───毅鳳山の愛剣だった。 「これ」  口角は上がっているが、目元はどこかひやりと冷たい。 「この村に来た時は、確か……これを持っていて、元気よく振り回していたような。その時は貴方のように、立派な身体つきでしたのよ?……今は、私がそれを手渡しても、何の反応もないのです。試しに……貴方から、あの人に渡してみてくださいません?使い方を思い出せば、昔みたいにしゃんとするかも」  得体の知れない提案に驚愕し、玄黙は押し黙るしかなかった。「剣を奪われた」と主張する知己。そして目の前には「剣を渡して欲しい」と言う妖魔。かつて誇らしげに掲げていたその剣を、今の彼に握らせろと言うのか。一体、彼をどうしたいのだ? 「私はただ、健康な身体のあの人に、戻って欲しいだけなのです。……ちょうど今の貴方のように」  まるで心の声が聞こえていたような妖魔の物言いに、玄黙は微かに肩を震わせた。 (剣を手にした毅鳳山が自分に斬りかかる可能性など───まるで考えてはいないのか!) 「……。そもそも、彼は何故ああなってしまったのだ?私の知るあいつは、努力家で正義感が強く、悪を許さず名声を求め……他人と競いたがるような男だった」  そして、妖魔を毛嫌いしていた───と、心の中で付け加えた。他人の心が読めるとすれば、今の言葉も届いている筈だ。  しかし妖魔は、それを聞いたような顔色にはならなかった。 「何故?さぁ…。確かに、ここへ来たばかりの頃は、村の皆さんを不安にさせてはいけないと思って、仕方なく動きを封じたこともありました。でも、すぐに解放して差し上げましたよ?それでも横になってばかりで。私なりに励ましてあげたりしたのですけれど……大した効果もなく、あぁ、本当に困った人………」  確かに、今の毅鳳山は誰かに自由を奪われているわけではない。彼の言う危険とは、一体何を指していたのだろう。それはこの場で「危険」の張本人と話していても判明しそうにはなかった。  話題を切り上げるため、玄黙は快諾した。逞しい肉体を取り戻させるための協力は惜しまないと伝えると、妖魔はぱっと華やかな笑顔を咲かせた。 「ああ!嬉しい!本当にありがとうございます!!それで、貴方のお話とは?」 「……。彼の…毅鳳山より後と、私よりも前に、若い剣士がここを尋ねたことは?」 「ん〜〜……。あんまり覚えてないですけれど。何度かあったような」 「彼らの命を奪ったことは?」 「まさか!そんなことをしても、私に何の得もないでしょう?面倒事は御免です。私はここで、穏やかに暮らしたいだけなのです」 「では、剣を奪ったことは」 「それは…、一時的なものですよ。揉め事を起こさないと約束して頂いた後は、全てきちんとお返ししています」  妖魔の発言を受けて、玄黙の頭の中の仮説は幾らか明瞭さを増した。恐らくこの村を訪れた剣士は何名か居たが、皆何らかの方法で戦意を奪われた。そしてここを立ち去ったあと「たった一人しかいない妖魔に敗北した」「剣を奪われ、戦う事すら出来なかった」などという失態を、誰も正直に話そうとはしなかったのだろう。  ここへ立ち寄った者は生きて帰れない───などという話もなければ、村に妖魔など居ないと断言されることもなく、ここ数年「妖魔がいるらしい」と何とも曖昧な情報が伝播していたのも、そのためだろう。  己の目で見た事を素直に信じれば、この妖魔は本当に争いとは無縁で居たいらしく、村人たちとも共生しているようである。しかし───危険だ、殺せ、と部屋の奥で主張している知己は、真逆の見解だ。  当然、付き合いの長い彼の方を信用してやりたい気持ちはあるが、今の彼は様子がどこかおかしい。  それに…… 「?」  こんな妖魔は、見た事がない。切先のように鋭く尖った印象の美しさを携えつつも、その口調と表情は驚くほど穏やかだ。庶民的な身なりと仕草からは生活の匂いが感じられ、どんなに五感を研ぎ澄ませても、殺意や敵意といったものは露ほども感じ取れない。  しみじみ魅入っていると、すっかりと落ち着いている赤子のことが、ふと気になった。 「大人しいな、その子は」 「あぁ……お話の邪魔になると思いまして。眠って貰ってたのですよ」 「貰っていた……とは」 「普段はしないのですけれど。どうしても眠ってくれない時や、言うことを聞いてくれない時なんかは、こうして……ね」  ポンポンと愛おしそうに背中を叩く。事もなさげに発せられたその内容に、玄黙はぞっとした。───妖魔というものは、子の意識を奪うような事がいともたやすく出来てしまうものなのか。 (やはり、危険な存在であることには変わりないのだろうか?)  食事の仕込みが終わった頃だと言い、妖魔は厨房へ戻って行った。暫しその場で考え込んでいた玄黙も結局は思考をまとめる事ができず、呼ばれると諦めて屋内に戻った。 ------------------------  食卓につく毅鳳山の姿は、玄黙の目にはかなり奇妙に映っていた。先程自分に「妖魔を殺してくれ」などと頼んでおきながら、今は他でもないその妖魔から料理が出されるのを座して待っている。剣を奪われた、敗北した、などと言ってはいたが、やはり挽回の機会はいくらでも有ったのではないだろうか。  考えている間に、暖かい料理が並んでいた。妖魔はにこにこと微笑み、おぶっていた赤子を膝に乗せながら席に着いた。 「お口に合えば良いのですが」 「……あぁ、感謝する」  玄黙は差し出された食事を、少しも躊躇わずに口にした。多くの調味料が雑然と放り込まれたそれはお世辞にも美味いとは言えなかったが、混沌とした味わいの中には微かに海鮮の風味が感じられる。ここは山に囲まれた村なのに、一体どうして───  不安そうに眉を下げている妖魔の視線に気付くと、言葉を選んで微笑みかけた。 「懐かしい味がする。……うまいよ」 「えぇ!本当ですか?あぁ!嬉しい!!この人ったら、これまでに一度もそう言ってくれたことがないものですから。上手に味付けが出来ているのか、とっても不安だったのですよ」  玄黙は顔を動かさず、目線だけを隣の毅鳳山に向けた。俯いて黙々と食事を口に流し込んでいる。生きる為に仕方なく摂っている、とでも言いたげな様子だ。  正面に座る妖魔に目線を戻し、優しい口調で助言をする。 「味付けに使う醤を減らしてみてはどうだろう。それと根菜と葉物は…熱を加える時間をそれぞれ変えた方がいい。根菜を先に熱した後、葉物を投入し……」 「あぁ……それは知っているのです。ですが私には、どこが根でどこが葉であるのか、どうにも区別がつかなくて……。土の中に埋まっているのが根であると、収穫する時は分かるのですよ?ですが、お台所へ運んだ後は、全て同じに見えてしまい……」  玄黙の感覚からすれば少しも共感できない悩みであったが、深刻そうに肩を落とす妖魔を見て、それは本心なのだと感じた。 「……成程。では収穫の際に竹籠を分けてはどうか?片方の籠には目印をつける。そこには根菜だと思った物のみを入れ、もう一方には、それ以外を入れる」 「……!!!それは…!それは素晴らしい案です!!今度から、そのようにしてみますね。あぁ、なんとお礼を言えばよいのか……」  すっかり上機嫌になった妖魔は膝に乗せていた赤子をぎゅうと抱きしめた。赤子は顔をぐしゃりと歪めて苦痛を訴えようとしたが、すぐに妖魔が腕の力を緩めたので泣き叫ぶには到らなかった。  食卓についている間一言も喋らなかった毅鳳山は、いつの間にか食事を終えて、寝床へ戻っていた。 ------------------------  その晩、玄黙は妖魔と知己の暮らす家に泊まった。妖魔がわざわざ普段使用していない部屋を自分のために掃除していたので、その好意を受け取るしかなかったが、内心戸惑いもあった。  部屋の数は多くはない。日頃使っているのは炊事場と、食卓のある部屋と───毅鳳山が一日中そこから動かないという、あの寝室なのだろう。であれば彼ら三人は、普段から同じ床で寝ているのだろうか。  ───よくない憶測は、この辺にしておこう。  玄黙は固く目を閉じ、眠りについた。  月明かりが斜めに差してくる頃。目を覚ました彼は、静かに身体を起こした。  そしてどこからか聞こえてくる人の声を聴き───愕然とした。 「あん………♥あっ、あ♥……………あっ♥」 「ふっ♥ン゛♥ ♥お゛………オ゛ほっ……♥」 聞き覚えのある二つの声と、ギシギシと寝床の軋む音。玄黙が全てを悟るには、それだけで充分だった。 (───ああ、毅鳳山!お前という男は………!)  ぎゅっと目を瞑り、深い深い溜息を吐く。壁に浅く寄り掛かれば、聞こえてくる物音がより一層鮮明さを増す。 ぱちゅっ!ぱちゅっ!ぱちゅっ!ぱちゅっ!ぱちゅっ!ぱちゅっ! 「んっ、お゛っ♥お゛お゛!!♥フ───ッ♥フ───ッ♥ ♥」  聴くに堪えない知人の声は、疑う余地もなく歓喜を帯びている。  玄黙は昼間の彼を思い出した。───ああ!本気で心配してやったというのに。赤子共々斬るべきかどうか、頭を悩ませたというのに。お前は何という体たらくだ。私に全てを押し付け、自分は快楽を貪るつもりか! 「あんっ………♥あはっ♥………気持ちい……♥♥」  玄黙の憤りに水を差したのは、妖魔の声だった。こちらも昼間とは別人である。赤子をあやし料理について談笑していた、あの母性を孕んだ人懐こい微笑みからは想像できない、淫靡な声。だが玄黙は、不思議とこれには苛立ちを感じなかった。むしろ聞いていると高揚し───微かにだが、解放的な気持ちになる。自分の知らない何かが、殻を破りかけているようだった。 「んふ……ねぇ、あの…玄黙さんというお方………」 「!!」 (……!!!)  妖魔が口にしたその名を聞いて、男は二人ともぎくりと身体を強張らせた。 「とぉっても優しくて、物知りで、佇まいも立派で……本当に、素晴らしいお方。ふふっ♥私……あのお方のほうが………あの方の遺伝子のほうが、貴方のよりも、欲しくなっちゃったかも♥」  毅鳳山は歯を食いしばりながら「ううう」と短く呻いた。玄黙の方はどくどくと跳ねる心音をどうにかして静まらせようと深呼吸し、やがて彼が少しだけ平静を取り戻す頃には寝床の軋む音が何倍にも大きくなっていた。 ばちゅっ!♥ ばちゅっ!♥ ばちゅっ!♥ ばちゅっ!♥ ばちゅっ!♥ ばちゅっ!♥ ばちゅっ!♥ ばちゅっ!♥ ばちゅっ!♥ 「オ゛ッッ♥ ♥オ゛オ゛オ゛、お前はっ!!♥お、俺のっ、俺のだっ!!!俺のっ、俺の獲゛物゛だッッッ!!!お、俺だけの……俺のッ、俺のでっ、孕むだけの………うぅう!!!」 「お゛ッッ゛♥ ♥気持ちいぃいいいっっ…♥ ♥あんっ、あっ♥アハハッ!♥そう来なくちゃ……♥最近の貴方……豚のように寝てばかりでっ、私、退屈だったんですよ♥……いっぱい子作りできる優秀な雄だってこと、ちゃぁんと思い出して下さいね……♥じゃないと私、別の人の子供を♥孕んじゃいますからね……♥」 「!!! ゔ、うぅっ!!〜〜〜〜〜オ゛オ゛オ゛ッッ♥ ♥」  身重の体躯をドスッ♥ドスッ♥と容赦なく突き上げるが、妖魔は嫌がるどころか恍惚と受け入れる。その悪魔のような笑みを玄黙は知らない。知っているのは交尾の相手、ただ一人だ。  嵐のように激しい交わりは持続しなかった。獣のような雄叫びはどこかへ消えていき、代わりに聞こえるようになったのはゼエゼエという息切れと、仔犬のように情けない鳴き声だった。 駄目押しで奮い立たせようと、妖魔は甘く囁く。 「ね………する?♥これからも、沢山子作りできる?したい?♥」 「す、するゔゥッッ………♥ ♥こぢゅくりっ♥ ♥するゔ♥ ♥シたい゛〜〜〜!!♥」 「妖魔の赤ちゃん、いっぱい欲しい?」 「欲ぢぃっっっ!!♥ ♥つくる゛っっ………♥」 「じゃあ、あの人に負けないくらい、立派な雄になるって、約束する?♥出来る……?」 「しゅる゛♥しゅるから、………はぁ、はあっ…………しゅてないで……うう〜〜〜っ…」 「ふふっ♥あはははははっ!!…ああもぅ、ほんとに、可愛い人……♥じゃあ、捨てられたくなかったら、こんなので疲れてないで………雄は雄らしく……種付けなさい!!ほらっ!!!」 「へっ、へっ………!♥へぁ゛……!へあぁぁ………ゔ、オオオ゛♥ ♥オ………ぜぇ……ぜぇ………うう、ぅ〜…………♥」  ───はっきりとしたことが二つある。  一つは、赤子と胎児の父親が紛れもなく"妖魔嫌い"で有名だった、あの毅鳳山であるということ。  もう一つは、きっかけが何であれ、今の彼は自らこの状況を求めているのだということ。温くどろりとした心地よさに魅了され、浸かり続け、自らの本心も分からない程にふやかされてしまったのだろう。  ならばあの妖魔は害だろうか?まだ自力で歩くことすらできない、あの赤子も?不幸にも矜持を奪われてしまった毅鳳山は、救われるべき存在だろうか?  自問を繰り返すうち、心臓のあたりに仄暗いものが集結していくのを玄黙は感じた。そしてふと、充血しきった自身の昂りに目をやる。これ程までに硬くなったのは、一体いつ以来だろうか。 「ウッ!!オオオッ♥イグ♥イグ♥イッッ……………グ………♥」 ビュッ!ビュッ!ビュウッ!!ビュ───ッッ!!! 「………あっ、あっ!!♥……あんっ!……熱いの、来てる゛ぅぅう〜〜〜!!♥ ♥ ♥」 「おっ、おお゛、〜〜〜♥………はぁ、はぁ、ふうっ、ふ………………」 「………ああ、もう終わり…?全く、もう……まだ全然足りない………最強おチンポはどこへやら………」  玄黙は硬く閉じていた瞼を静かに開きくぐもった低い声で何かを呟くと、再び身体を横にした。 ------------------------ 「彼に、剣を渡してみた」  翌朝。玄黙が目を覚ますと、妖魔は既に赤子をおぶりながら外で洗濯をしていた。  毅鳳山の様子も見に行ったが態度は昨日と変わらず、起き上がる気配もなかった。  わだかまりを抱えながらも悟られないよう、玄黙は穏やかな口調で妖魔に話しかける。 「それで………」 「今日のところは反応がなかったが、彼が外に出て特訓を始めるまで……何度でも試そう。あいつは以前、私との手合わせを好んでいたからな。時間は掛かるかもしれないが、上手いこと誘導して鍛え上げてみせよう」 「本当ですか!?あぁ……!貴方は本当に素晴らしい人です……」 「しかし、君が彼を捨てない理由は何だ?あのように成り果てた男を、再度奮い立たせようとするのは何故なんだ」  予想外の問いに妖魔は目を丸くし、至って真面目に答えた。 「そう簡単には捨てられません。愛着がありますから……」 「そうか」  玄黙はその言葉を疑うことはしなかった。  本気で優秀な方の男を選びたいと考えているのなら、この妖魔は既に自分を籠絡しているだろう。……毅鳳山にそうしたように。  しかし自分の前では、あくまで人妻のように振る舞う。昨晩さんざん彼に浴びせていた───あのねっとりと色気を帯びた声を、下品な煽り文句を。全身を熱く滾らせるあの嬌声を……決して自分に聞かせてはくれない。  行為の最中、自分に乗り換える事をちらつかせたのは、苗木に水を与えるようなものだったのだろう。無気力に横たわる昼間の毅鳳山よりも、独占欲を弾けさせ、必死で腰を振る夜の姿の方が……見方によっては幾らか健康的である。 (やはり、そのために私の名を持ち出したのだな)  悟られまいと振る舞っていた玄黙は、もはや悟られても構わないとこの時思い、表情を曇らせたまま会話を続けた。 「彼を鍛え上げるまで、私もここに住まわせて頂こう。それでもよろしいか?」 「それは、ええ、ええ!勿論!」 「しかし私は一度この村を出て……再度戻る必要がある。彼の特訓は、その後でも良いだろうか」 「え?えぇ…。それは構いませんが、お忙しいのであれば、無理にとは……」 「いや、ここへ来るまでの道中、いくつかの道標を残してきた。もしも私がこの村から離れず一月が経ってしまえば、私の身に何かがあったのだと思い……多くの剣士達が、道標を辿りここへ来ることだろう」 「あぁ、それは困ります……」 「私はそれらを回収し、村も毅鳳山も平穏無事であると師へ報告しに参る。そうすれば今後、剣士が妖魔討伐にこの地を訪れることもなくなるだろう」  ぱっと安堵の笑みを浮かべた妖魔が何かを言葉にするより早く、玄黙は「しかし」と付け加えた。そして、 「………だが、その代わり……そのようにする代わりに」  布団を干している妖魔に近寄り───突然、抱き寄せた。 「私を受け入れて下さらないか」  妖魔の腰に回された手に力が篭り、二人は更に近くなる。胎児を孕んだ丸い腹が、玄黙の腹部に密着する。 「そ、それも、困ります………」 「ならば断って貰って構わない。どの道、村へやって来る剣士など、君にとっては脅威でも何でもないのだろう」 「村の皆さんを、巻き込みたくないのです……」 「では、私の願いに応えてくれ」  妖魔は一周した問答に溜息をつくと、呆れた表情を浮かべた。 「人間って……人のものには手を出さない生き物では?」 「私も、妖魔は番を定めない種族だと認識していた」 「それは………"人それぞれ"って言葉がありますでしょう?それですよ」 「私にも同じ事が言える」  頭一つ分背丈の小さい玄黙が胸元へ顔を埋めると、妖魔は切なそうに「あぁっ」と声を漏らした。そして観念した妖魔が、 「分かりました。少し、……少しだけですよ」  と言うのを聞き終わると、玄黙は昨晩自分が利用した寝床へと連れて行った。 ------------------------  玄黙の攻め方は恐ろしいほど的確だった。垂柳のようにしなやかな手付きで懐柔し、時折雄々しく責め立てる。  彼が初めに制圧したのは妖魔の母性の部分であった。胸の尖端を甘噛みし、吸い付き、舐め回し、惜しみなく分泌される赤子のための養分を時間をかけて吸い尽くした。部屋に入った時には乗り気ではないといった表情を浮かべていた妖魔も、母乳を奪われているうちにその気にならざるを得なくなったようで、いつしか我が子を慈しむような眼差しへと変化していた。  次に攻め落としたのは、妖魔が玄黙には見せようとしなかった雌の部分だった。そしてそれはひょっとすると、毅鳳山すら見たことがない部分なのかもしれない。  玄黙は優しい手つきで唇をひと撫でした後、ゆっくりとそこを塞ごうとした。しかし"伴侶"からそれをされた事がない───と思い出した妖魔が慌てて横を向き、抵抗の色を見せた途端、青年は無理矢理に正面を向かせてその唇を奪った。舌を入れ、口腔内を隅々まで犯し尽くすその男は、先程、胸元で赤子のように丸まっていた彼とは別人のようだった。 「んむっ!?んっ…………!!♥ ♥ っふ………♥ん………、んん゛………っ♥ ん〜〜〜……、むっ…………♥ ♥」  ひとしきり強引に貪り尽くすと、顔を固定している両手の力を徐々に弱めながら、今度は控えめに口内を動き始めた。自信なさげに、おずおずと舌を突き出す仕草は、さながら悪さをした子供が親の顔色を伺う時のようであった。妖魔は、これを赦さずにはいられない。懸命に許しを乞うその部分を、自身の肉厚な舌で抱擁した。やがて先程のように激しく絡み合っていき───口の端からは、両者が濃厚に求め合った証が滔々と溢れ出した。 「ん…………♥はぁ……あぁ、ぅ………♥ ♥」  獣のような交尾には慣れきっていた妖魔だが、全身が蕩けるほど甘美な口付けは、これまでに経験したことがなかった。その上、情熱的に愛することはあっても───愛されたことはない。  玄黙がようやく唇を離すと、力なく呆然と横たわる妖魔の姿があった。薄く開いたその眼には、雄に求められる歓びがはっきりと浮かび上がっている。  男が念押しをするように再度唾液を絡ませに行けば、雌体は身をよじりながら悶絶した。  放心状態の妖魔を、玄黙は暫くそのままにした。余韻に浸る時間が長ければ長いほど、魅了されている証拠だ。急いで畳み掛けずとも、時間をかければやがて自分の物になるだろう。  ゆっくりと起き上がった妖魔は、寝起きのように惚けていた。そして蕩けた視線の先には、衣服越しでも雄々しさが確信できるほどに膨れ上がった、玄黙の怒張があった。 「欲しいのか?」  妖魔は口を開かなかったが、答えは明白だった。  玄黙が下衣をするすると解いていくと、支配欲の象徴がぶるんっ!と勢いよく現れた。 「わっ………!!」  その反応から伺うに、自分のものはあの男のそれより幾らか魅力的なのだろう。込み上げてくる悦びを前に、口元を緩めずにはいられなかった。 「ふ、見慣れているだろう?こんなものは」 「んっ……、だ、だって、私のとも、あの人のとも、全然………♥」  玄黙はふと、食事の際に妖魔が零した愚痴のことを思い出した。 (野菜の区別がつかないのに、男の陽根の判別はつくのか) 「教えてくれ。奴のとはどう違う?硬さは、長さは?反り具合は、私の方が上か?」 「………あぁ、そ、そんなこと……言えません」 「そうか。では存分に味わってくれ。これがいずれ君を孕ませる男の、一物だ」  立ち上がった玄黙が、逞しくそそり立つ男根を妖魔の頬にぴたりとくっ付けると、妖魔はもはや辛抱できないといった切迫ぶりで、一心不乱に頬張り始めた。  実力も携えながら思慮深く、決して驕るこのない好青年───と、江湖で評判の昌玄黙が、妖魔の顔先に自らの急所を差し出す日が来るなどと、誰が予想しただろう。  ───ましてや、 「…………………………」 「んぐ♥ン♥じゅっ、じゅるるるるるっ♥じゅぽっ♥ンふ♥……ズッ♥ズゾォォォォォッッッッ♥ ♥ ♥んふ♥ん゛ふぅ〜〜〜ッ♥ ♥」  人妻を自称する者に奉仕させ、その悦びで身体を震わせている事など、聞いたところで誰も信じないだろう。そんな話を耳にしようものならば、彼を慕う若き剣士達は事実無根の侮辱であると激昂し、話し手を斬り捨てるに違いない。 「異色の妖魔よ………私の物になれ」 「んぅ………♥ふっ、んむ、ぴちゃっ♥ちゅううっ♥ん、れっ……んぷっ……♥」  意中の者が、意のままになる感覚。高揚感。こんな幸福は、これまでに一度も味わったことがない。  玄黙は体の奥底から燃え上がる激情に支配された。これだ、これこそが、私の求める幸福なのだ。奪って、奪い合って───そうして得た極上の獲物に、自分の子種を植え付けたい。子供を孕ませ、産ませたい。  吐き出したくて堪らなくなった男は妖魔を押し倒し、だらだらと愛液を溢す女性器に手を伸ばす。弱々しい声が彼の耳に届いた。 「…………、……そこは、駄目………」  本能に身を任せていた玄黙は、その言葉を合図にぴたりと手を止めた。彼は極めて冷静だった。今日手に入らずとも、いつかは自分の物にできると確信していたからだ。  短く「わかった」とだけ応えると、征服の証を妖魔の身体に撒き散らした。  顔面や他の部位にかけられても妖魔は顔色を変えなかったが、胎の表面を汚された時は何かを感じたようで「あっ」と小さく呻いた。その反応を見逃さなかった玄黙は、最後の一滴まで入念に、膨らんだ腹の上めがけて出し続けた。  君も、君の子宮も、腹の子も───全て私の物だ。そんな声なき主張に、妖魔は黙するしかなかった。  事を済ませた玄黙は、妖魔が呆気に取られるほどの速さで身支度を済ませた。自身の衣服を整えた後、手荷物から布切れを取り出すと先程吐き出した子種をきれいに拭き取り、はにかむように微笑みかけた。  それは爽やかで穏やかな、屈託のない笑みであったが、ここへ来た時の彼とは全く異なる人間の顔だった。 ------------------------ 「では、行ってくる。ひと月もあれば、戻れると思う」 「わかりました。道中お気をつけて」  妖魔は赤子を抱いて、玄黙を見送った。  玄黙が一旦旅立つことを毅鳳山にも伝えたが、結局彼が身体を縦にすることはなかった。 「ま〜〜〜〜」  阿瓜という赤子は、去ろうとする玄黙の目を見てにっこりと微笑んだ。この時、赤子は何かを伝えたかった訳ではないが、玄黙の方は自分が父親だと認識された、と感じた。目を細めて微笑み返し「また会いに来る」と語りかけると、小さな頬をさらさらと撫でた。  凛と真っ直ぐに伸びた剣士の背中が見えなくなるまで見送ると、妖魔は深い安堵のため息を吐いた。軽い足取りで愛の巣へ戻り、 「ばぁ〜〜〜〜!!」  にこやかに寝室へ入った。赤子の片腕を掴み、横たわっている男に向けて左右にゆらゆらと振る。それを一目見た男は不貞腐れたように壁側へと身体を向ける。そんな態度にはすっかり慣れているのであろう、妖魔は男の隣に腰を降ろすと赤子を寝床に転がした。  そうして妖魔の胸元ががらりと空くと、今度はそこへ男が入っていく。妖魔は全てを察したようで、存分に甘えさせる。 「うふふ、ミルクがまだでしたね?寂しかった?よしよし………」 「………………むっ、むぐっ♥んぐ♥」 「あんっ!!そんなに、急がないで……私は貴方専用の……、……。貴方の物ですから♥どこへも行きませんよ……♥」 「ん………んぷ♥んく♥ゴク♥……ごくんっ♥」 「あらあら、こんなに固くして♥おチンポも鍛えてあげましょうねぇ♥嬉しい?」 「んぐ………うれし、しゅきぃ………」 「ふふっ♥……あのお方が居なくなって、安心したんですか?よしよし……♥貴方が子作りできる立派なパパであるうちは、捨てたりなんかしないですよ……♥あの人、便利だし、とっても素敵なお方ですけれど……」  小声で「ちょっと苦手かも」と付け足すと、気持ちを切り替えるように笑顔を作り、愛しい伴侶を抱きしめた。 「ね、パパ………」  ふいに思い立って、男に向けて唇を差し出す。口付けを催促されるのは初めてのことで、男は躊躇したが、やがてそれに応えた。ぶうぶうと鼻息を立て唇を食むだけのそれは、誰かがしてくれた甘美な口付けとは程遠かった。  物足りなくなった妖魔は自ら唇を離す。一瞬物憂げな顔を見せた後、何事もなかったかのように、ギラギラと湿った肉棒を扱く。  男は下半身を預けたまま、一心不乱に母乳を吸い続けた。 (昌玄黙よ、早く戻ってきてくれ。そしてこの妖魔を倒し───俺を解放してくれ)  そして頭の中で何度もそう念じながら、永久に貪ることができる幸福に縋り付き、独り占めを続けた。

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