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Easter egg
復活祭では装飾や彩色を施したたまごをあちこちに隠し、子どもたちに探させる習慣がある。
流しの娼婦と幼い息子2人、親子3人が住むトレーラーハウスも例に漏れず、ささやかな復活祭の催しが行われていた。
「できた」
まだ若い母が、右手に掲げたたまごを誇らしげにひねくり回す。
ピンクの花柄が愛らしい。ダイニングテーブルには小皿に溶いた絵具が用意されている。
隣に座った二番目の息子に向かって、少女趣味な花模様をあしらったたまごを翳す。
「どう、上手にできたでしょ」
母の隣にちょこんと腰かけ、床に届かない足を余らせているのは、面立ちのすこぶる整った男の子だ。モップのような毛束の髪は見事なイエローゴールド、きめ細かい肌にはそばかすもない。
天使のように愛くるしい幼児だが、その顔にはどこか大人びた、不遜な表情が浮かんでいた。
スワローはセピアレッドの瞳を見開き、また細め、母が持ったたまごにおもむろに掴みかかる。
「こーら、そんなに強く掴んだら割れちゃうでしょ」
息子の行動を悟り、おちゃめに笑んだ母が即座に引っ込める。スワローはたちまちふくれ面になり、短い足で宙を蹴りだす。
わかりやすくふてくされる態度が苦笑を誘い、欲張りで気難しい息子への愛しさがこみ上げる。
この子は人の物をすぐ欲しがる。綺麗なモノとあれば尚更だ。即ち、彼女がペイントしたイースターエッグは及第点以上の出来栄えに達しているらしい。
「スアロ、壊さないもん」
「ホント?ママと約束できる?」
こくんと頷き、どちらからともなく小指を絡めて軽く振る。ふっくらした手のぬくもりがくすぐったい。
世界中の綺麗なモノをすぐ独り占めしたがる、私のちっちゃなツバメさん。その筆頭が兄だ。
一緒のベッドに寝ている兄の後ろ髪を引っ張るのはいたずらだけが目的じゃない。日なたみたいにいい匂いがするし、きらきらして綺麗だからだ。
「よろしい」と厳かに頷き、待ちきれずにうずうずする息子にもったいぶってたまごを渡す。
「そーっと、優しくね」
「わかってる」
スワローがむきになり、両手で包むように注意深くたまごを受け取る。母親の目にしかすくいとれない淡さで、喜びと満足感が滲む。
復活祭は移動祝日だ、年によって開催日が変わる。キリストが死んでから三日目に甦ったのを寿ぐお祭りで、この日には乳製品を中心にしたごちそうが食卓に並ぶ。
しかし、一家は貧しい。母はポンコツトレーラーハウスで各地を巡り、車内で商売している。乳製品は希少で入手困難とあり、五個のたまごを手に入れるのが精一杯だった。
それでもスワローは喜んでいた。母から貰ったたまごを飽きもせず眺め回し、目にくっ付けては離しをくり返す。
スワローがしゃかしゃかとたまごを振る。
「中に何入ってんの?」
「ふふ、さあね、何かしら」
「ひよこ?」
「きっとすっごくステキなものよ」
母親に言われたそばからもう乱暴に扱うのだから、先が思いやられる。
スワローがふと疑問をもらす。
「このたまごどうしたの?」
うちが貧乏なことはもう知っている。流しの娼婦の噂が立ち、地元の奥さん連中に毛嫌いされている為、すんなり分けてもらえたとも思えない。
息子の質問に母は片目を瞑ってみせる。
「牧場主さんを買収したの」
「ねたの?」
「やあねスワロー、そこまでしないわよ」
口で済ませたのかな、と彼は思った。行為の意味するところはよくわからない。
「スワローのも見せて頂戴」
「やだ」
「なんで?恥ずかしいの」
「……」
スワローがむすっと黙り込む。しばらくして自分の手元においたたまごを、渋々母に見せる。
「ん」
「わあ綺麗、よくできてるじゃない!」
母が無邪気な歓声を上げる。スワローがペイントしたたまごは澄んだ青一色で塗られていた。
「このトリさんは……」
「ツバメ」
「もちろん知ってわよ、最高にかっこいいツバメさんね。とんがったくちばしがキュートだわ」
「ふん」
手放しで褒められて悪い気はしない。スワローはふんぞり返る。
実際の所、三歳児が描いた鳥をツバメと呼ぶのは誇張表現だ。母にしたところで一目で見抜けた訳ではない。スワローが自分の名前と同じ鳥にこだわりを持っているのを知っていたから、単純に推理したまでだ。
「お兄ちゃんといい勝負ね」
何気なく言えば、途端にへそを曲げる。
「あんなへっぽこよりおれのがずっとカッコイイだろ」
昨日ピジョンが塗ったたまごは、ダイニングテーブルの藤籠の中にちょこんとおさまっている。表面にはユニークな生き物が描かれていた。
本人は「ハトだよ」とドヤり、スワローは「ひよこのできそこない」と貶し、喧嘩になりかけたところを母が「まあまあ」と止めに入った。
アイツと比べられるなんてスワローのプライドが許さない。わずか三歳にして既に、兄よりずっと優れている自覚があった。母がなにかと兄を引き合いに出すのも自尊心を傷付ける。
肝心のピジョンはベッドですやすや寝ている。普段二人で使っているベッドを独占できて気持ち良さそうだ。
一緒にイースターエッグを作らなかったのは、ひとえに母親の配慮だ。
ピジョンとスワローを隣同士に座らすと喧嘩が起きて、最悪イースターエッグの投げ合いに発展する。昨日の体験で学習済みだ。
「スワローはコツを掴むのが早いわね、昨日は握り潰しちゃってたのに」
たまごは脆く壊れやすい。
まだ幼く力加減がわからないスワローは、握力をコントロールできず、既にたまごを1個握り潰していた。
それだけではない。
教えたがりのピジョンに「だめだよスアロ、そーっと持たなきゃ。やさしくね?」と指図されるのがどうにもむしゃくしゃしたスワローは、兄を殴って泣かせていたのである。
本日は母の監督下にて、そのリベンジに挑んだわけだ。
「イースター本番に間に合ってよかったわ、これでみんな揃い踏みね」
母が手を叩いてはしゃぐ。
ピジョンの下手くそと一緒に飾られるのは気に入らないが、かえって引き立て役になるかと考え、溜飲を下げるスワロー。
閃いた。
「どこ行くのスワロー」
「ピジョのヤツおこしてくる」
母の制止を振り切り、椅子から飛びおりて駆けていく。
ベッドではピジョンがタオルケットにくるまっていた。規則正しい寝息に合わせ健やかに上下する胸。ブラインドの隙間から注ぐ陽射しがピンゴールドの猫っ毛を透かす。
キラキラしててキレイだ。
スワローはうっとりし、ピジョンの前髪を一房指に巻き付けすぐ離す。次に鼻を摘まむ。ふがふがして面白い。
「やーいばーか」
ひとりしきりイタズラを楽しんだあとに仕上げにかかる。
タオルケットをめくってピジョンのズボンに手をかけ、ずらそうとして思いとどまる。寝返りの拍子に砕けたらパンツの中が大惨事だ。
「…………」
代わりにベッドの上、ピジョンの尻の下においたのは、両手に包んで大事に持ってきたイースターエッグ。青一色に塗りたくったたまご。
ニヤケそうになるのを深呼吸でごまかし、無防備な尻をおもいきり蹴る。
「ねぼすけおきろ」
「ふがっ!」
ピジョンが目を開ける。口元に涎のあとが付いていた。寝癖ではねた髪と襟ぐりの緩んだシャツのまま、弟に視線を定めて呟く。
「ふあぁ……おはよスアロ。夢の中でひよこにお尻蹴られちゃった」
「これ見ろ」
スワローが何食わぬ顔で指さす方を覗き込み、大袈裟に瞬く。シーツの上に見覚えない、青いたまごが転がっている。
「たまご?なんでこんなとこに」
「産んだんだろ」
「ピジョが!?」
「寝てるあいだに」
「嘘だあ!」
「ほんとうだよ、見てたもん」
「スアロ見てたの?ほんと??」
ピジョンの顔に特大の疑問符が貼り付く。半信半疑のままたまごを抱き上げ、胸に寄り添わせる。
「あったかい……」
それはそうだ、スワローが手に持ってたんだから。
母譲りの脳味噌お花畑、人を疑うことを知らないピュアすぎる兄は、たまごに片耳をくっ付ける。
「なんにも音しないよ」
「もいちどやってみろよ。今度は反対側から」
「うん」
弟に言われた通り、馬鹿正直に反対側で試す。スワローは兄の背後に回り、ズボンのポケットの中に仕込んだくるみを鳴らす。固いくるみ同士をこすり合わせると、コトコトと音がする。
ぱっと耳をはなすや、ピジョンの顔が驚きと喜びに染まる。
「した!心臓の音!」
「ヒナがいるのかも」
「何のヒナ?ニワトリ?ハト?青いからコマドリかなあ」
動物好きなピジョンが両手にたまごを抱き、わくわくと空想を膨らませるのを横目に、スワローはあきれて断言。
「ピジョが産んだんだからピジョの子どもだろ」
「どこから」
「尻」
「痛くないよ」
「寝てる間にぽろっと」
ピジョンはまじまじとスワローを見、次いで手中のたまごに凝視を注ぐ。可哀想にすっかり混乱しているようだ。
「ピジョがママなの?」
「うん、ピジョがママ」
「男の子なのにママになっちゃった……」
感動が驚きを上回る声色で独白する。そろそろ気付けばいいのに……さすがに心配になってくる。
「あっためたらかえるかも」
「ピジョの赤ちゃんが?」
感動が驚きを上回る声色で独白、ベッドから下りたピジョンがイースターエッグを掲げて母親のもとへすっとんでいく。
「ママ、ピジョたまごうんだ!」
「まあすごいわねピジョン、どうしたの」
「起きたらベッドの中にあった、まだあったかいんだよさわってみて、中からコトコト音するの」
「まあ本当、ピジョンはママになっちゃったのね」
「えへへ……」
おいおいおいおい。スワローは心の中で突っ込む。
当惑しきった様子でダイニングに戻ると、ご機嫌なピジョンの相手をしながら、母がちゃっかりウィンクをよこしてくる。スワローのイタズラを面白がり、共犯に立候補したらしい。
「ピジョンがとっても優しいいい子だから、天使様が復活祭の贈り物をくれたのかもね」
口からでまかせのたわごとを信じ込み、本気でたまごから雛が孵ると期待するピジョンに、母親も調子を合わせる。
兄は青いたまごを胸に抱き、堂々と宣言した。
「ピジョ、がんばって育てる」
その日からピジョはイースターエッグを温め始めた。
朝起きてから寝るまでたまごを手放さず、どこかへ行くときはポケットの中に入れて忍び足。たまにシャツの胸元に入れて、子守歌を聞かせてやってる。
「ハンプティ・ダンプティが塀に座った ハンプティ・ダンプティが落っこちた 80人の男にさらに80人が加わっても ハンプティ・ダンプティをもといたところに戻せなかった」
不吉だ。本人に悪意はないのだろうが、選曲が終わってる。
昼間はベッドに俯せ、シャツに入れたたまごを熱心に温めている。間抜けなかっこ、亀みたい。
「ピジョ、靴紐の結び方おしえて」
「手がはなせないからあとでね」
「今がいい」
「たまごが先」
ピジョンはすっかりたまごに夢中でスワローは後回しだ。服を引っ張りごねても窘められるだけ、申し訳なさそうに諭されるだけだ。
気に入らない。
たかがたまごの分際で、スワローのピジョンを横取りして。もとはといえばスワローが作り仕掛けたいたずらなのだが、嫉妬に狂った彼の頭からそんなあらましは消失した。
唯一の遊び相手であるピジョンにツレなくされ、退屈をもてあましたスワローはベッドの端にどっかり腰かけ、靴を投げてはとってくる独り遊びをはじめる。
ピジョンはこの上なく愛おしそうに、孵る兆しのまったくないたまごに語りかける。
「ピジョママだよ。こわくないよ、はやくでておいで」
「名前はなんにすんの」
「えっと……ピジョとスアロを足してジョスは?」
「なんでお前が先なの」
「お兄ちゃんだから」
「けっ!」
勢いよく宙を蹴る。スニーカーがさらに遠くへ飛び、壁に跳ね返る。
ピジョンはベッドの上で首を傾げる。
「変だよねスアロ」
「何が」
突き放すように答えたものの、内心ぎくりとする。漸く事実に気付いたのか?
咎め立てられると身構えたスワローの予想を裏切り、ピジョンはまたぞろとんでもないことを言い出す。
「男の人と女の人が仲良くしなきゃ子どもはできないよね」
「かあさんが言ってた」
「じゃあこの子のパパはだれなんだろ」
ピジョンが不思議そうにする。五歳児の考える「仲良く」は手を繋ぐ、キスを交わす程度だが、ピジョンに思い当たる相手はいない。
……いや、一人だけいた。女の子じゃないし、もっと言えば弟だけど。
「ひょっとしてスアロ?」
「はあ?」
「だってピジョ、スアロとしか仲良くしてないから……ピジョがママでスアロがパパじゃない?」
前半でしゅんと落ち込むものの、後半はうきうきと声が弾んでいた。スワローは答えに詰まり、兄の真剣な顔から目を背けて嘘を吐く。
「そうだよ、スアロとピジョの子どもだよ」
「やっぱり!」
「そうだと思ったんだあ」と笑み崩れ、両手に包んだイースターエッグをスワローに差し向ける。
「ほーら、パパだよー」
「こっちむけんな」
「やさしくしてあげなきゃだめだよスアロ、ピジョたちの赤ちゃんなんだよ」
「あっちいけ」
「そうだ、スアロもあっためるのも手伝ってよ。ピジョ一人じゃだめみたいなんだ、パパとママが仲良く半分こじゃないとだめなんだよきっと」
いい加減うざったい。ばらしちまうか。スワローの頭の中で葛藤がぐるぐる回る。
しかし幸せ一杯の兄を見ていると言い出せず、ピジョの手に手を重ね合わせ、二人でたまごを守る。
「はやく産まれるといいね」
ピジョンははにかむように笑い、スワローは照れ臭げに頷く。
「スワロー、スワロー」
カーテンの向こうから母が手招きしている。
「何かな」
嫌な予感がする。
きょとんとする兄と別れ、ぶかぶかのスニーカーを引きずって母のもとへ出向くなり、神妙な顔で相談された。
「ピジョン、まだたまごが孵るって信じてるの?」
「うん」
「ああ……神様」
母が胸の前で素早く十字を切ってうなだれる。伏せたおもてに殊勝な反省の色。
「やっぱり嘘はいけないわね。ママが悪かったのよ、イースターエッグから雛が孵るって信じるピジョンがあんまり可愛かったら」
「どうすんの」
母親が眉間に皺を刻む。
「だって……言えないでしょ」
母親の視線の先、カーテンの向こうではピジョンがベッドに戻っていた。あのまま数時間動かない。
正面にたたずむスワローに耳打ちする。
「どこかでひよこをもらってこれないかしら」
「かあさんにまかせる」
「考えとくわ……」
頼りなげに請け負って立ち上がる母から視線を切り、兄のもとへ戻る。
ベッドの上で身じろぎせず弟をむかえたピジョンが、真面目な顔で念を押す。
「あしたはスアロの番だよ。かわりばんこでだっこするんだよ」
ここらが潮時だ。
スワローは決意した。
その夜。
兄が寝入るのを待って起き出したスワローは、ピジョンのシャツの中に手を突っ込み、乱暴にまさぐる。
「……くすぐった……ふふ」
「じっとしてろ」
「ピジョまだおっぱいでないから……」
「でるかばか」
あった。シャツの中から手を引っこ抜く。そこにはイースターエッグがあった。スワローは複雑な面持ちでたまごと向き合い、自分のズボンのポケットに移す。
それから、思いがけぬ行動にでる。
今日の昼間、外に出て集めてきた鳥の羽をベッドに撒く。羽毛が鼻をくすぐり、ピジョンがくしゃみをする。
「くしゅ!」
最後の仕上げだ。
ポケットから名残惜しげにたまごを取り出し、じっと見詰める。
だって、こうするしかないじゃんか。
翌朝、目覚めたピジョンは大騒ぎだった。
「ない!ピジョのたまごがない!」
「ないないない、どっかいっちゃった」と血相変えて部屋中捜しまわる。枕を裏返してシーツを剥がす。
ベッドの下に頭を突っ込んで這いずり、片っ端から引出しを開け、地下収納庫や冷蔵庫まで検める。
「なんで?かくれんぼ?いないいないば?」
「イースターエッグちゃん、でておいでー」
「ママのママもさがしてるからでておいでー」
半泣きで呼び回るピジョンを見かね、母も捜索を手伝うものの、その顔に罪悪感がわだかまる。
母に目でSOSを乞われたスワローは気乗りしない様子で歩み出、ポケットの中をまさぐる。
「これ、スアロが起きたときベッドにあった」
「たまごの殻……」
ピジョンが慌ててベッドに駆け戻り、一面にばら撒かれた羽毛に立ち尽くす。
「ピジョがねてるあいだに生まれたんだ」
「ひよこはとべないよ」
「とべるよ、スアロとピジョの子どもだもん」
孵化したヒナが即巣立った。
苦しい言い訳だが、ピジョンはあっさり信じ込んだ。スワローの言い分には謎の説得力があった。そっか、ピジョとスアロの子どもだもんね。ピジョがママでスアロがパパだもんね。
「行っちゃったんだ……」
お別れの挨拶したかったのに。
一から育てる気満々だったピジョンは落胆するが、ひよこが無事に生まれ巣立っていったとわかり、涙を拭って顔を上げる。
「ママのお役目お疲れ様ピジョン。イースターエッグちゃんもお空の上で感謝してるわ」
「ちがうよジョスだよ、ピジョとスアロの子どもだから足してジョス」
母のとりなしを力強く訂正し、止める暇もなく車外へ駆けだすや、荒野の上に広がる青空にむかって手を振る。
「ここがおうちだからねー!」
空に向かって大声で叫ぶピジョンを見送り、母は後ろめたそうにもう一人の息子に聞く。
「……本当によかったの?」
「うん」
「せっかくのイースターエッグを」
「ピジョが信じてるんなら、それでいい」
ピジョンがママでスワローがパパ、この子はふたりの子どもだと笑った顔が忘れられない。
偽物を本物だと信じ込んで何日も温め続けるような馬鹿が兄だと、本当に苦労する。
げっそりしたスワローに突然しなやかな腕が伸びる。
「お兄ちゃん思いのいい子ねスワロー」
「はなせ」
「ピジョンとスワローの子どもならママも見たかったわ」
「男どうしじゃむり」
「やってみなきゃわからないじゃない」
母がスワローの前髪をかきあげて額にキスし、スワローは俯く。仄かに顔が赤い。
「スアロはただ、ピジョをとられたくなかっただけ」
母が褒めてくれたイースターエッグを壊すのは嫌だったけど、ピジョンを横取りされるのはもっと嫌だ
たまごさえ手に入ればまたいくらでも作れるイースターエッグと違って、ピジョンは一人しかいないのだ。
「スアロも一緒にバイバイしよ」
表で兄が呼ぶ。
母親の抱擁が緩んだ隙に身をよじって脱出、車から飛びおりて歩いていくとピジョンはまだ手を振っていた。振り続けていた。
本当に馬鹿なヤツ。
仕方なく、スワローも付き合ってやる。
取り戻せたなら万々歳だ。
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