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7月5日 水曜日に勇気を出して
◇ Wednesday ◇
「おはようございます。」
いつも通り、ひろとを保育園に送る。
いつものようでいて、今日はいつも通りではない。
「おはようございまーす。あれ?小泉さん、今日は私服なんですね?」
いつもはスーツだし、私服でここへ来たのは初めてだ。
気づいてもらえたのが嬉しくて顔が弛みそうになる。
「今日は在宅ワークなんですよ。」
「おぉ!在宅ワーク。俺たちには縁のない言葉ですが、サラリーマンって感じでカッコイイですね!」
キラキラした表情で真っ直ぐ見つめられ、カッコイイなんて言われたら、どう反応していいかわからない。
ここが保育園じゃなきゃ、キスの一つや二つくらいしてたかもしれない。
ホントこの人は可愛いなーーー・・・・・・。
「えっ?あー、はは。ありがとうございます。あ、それと連絡ノートにも書いたんですが、今日は祖母が迎えに来ますんでよろしくお願いします。」
「わかりました。でも俺も今日は早番なので、日勤の保育士に伝えておきますね。」
在宅ワークで時間はある程度は自由だけれど、母さんが離婚後、育児と仕事に追われる俺を気遣ってかたまに保育園終わりから預ってくれる。
たまには俺も子供と離れて自由にしろということらしい。
早番ってことはいつもより早く終わるってことだよな?
駄目だとはわかってるけど、これはチャンスを与えられた気がする。
だって尚弥先生はとっくに俺の書いた短冊を見てるよね?
「あのッ。」
俺は少しだけ尚弥先生に近づき、プライベートの携帯番号が書いてある名刺を手渡しながら耳元で内緒話するかのように声を潜めてーーー・・・・・・。
「今夜、良ければ俺とご飯でもどうですか?OKならその番号に掛けてください。」
尚弥先生は驚いたように俺を見る。
その顔がほんの少しだけ赤くなっていて、やはり可愛いと思ってしまう。
「では、ひろとをよろしくお願いします。」
立場上駄目だとはわかってるけど、連絡が来ることを願いながら、家で仕事に打ち込んだ。
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