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放課後の教室で 1(藤田)
「まーきの、まだ終わらないのー」
「別に待ってなくって、いいって」
「だってさー、つまんねーんだもん」
「誰かと帰れば良かったじゃん。谷村とかが誘ってたじゃねーか」
放課後の教室に牧野と俺が居る。
他の人は殆ど帰ってしまって、あと数人が帰る用意してたり、友達同士で喋ったりしていた。
「牧野って、いつもはテキトーなのに、日直の仕事はちゃんとやるんだなぁ、なんか変なの」
きっと怒るだろうな、と思いながら、牧野に軽口を叩いてみる。
「ウルセーなぁ、お前に言われたくねーよ。俺はいつだって真面目だっての」
ほらやっぱり、牧野がムキになった。わざと言ってるんだよ、構って欲しくてさ。
「なぁ、もう1人の日直の奴、えーっと……三田だったけ? あいつはどうしたんだよ、お前だけでやる事ないじゃん」
もし三田が居たら、こんな風に牧野に絡めないから、居なくてラッキーだと思う。でも、牧野に仕事をおしつけて帰ってしまったのなら、明日俺が文句の一つでも言ってやろう……なんて思ったけれど――。
「三田は部活に行ったんだよ。午前中のはあいつが殆どやったから、良いんだよ。分担作業だってば」
「ふーん」
なんか、ホントに真面目な事言ってるよね、牧野。
俺は今、牧野の前の席に、後ろ向きに座って、牧野が日誌に書き込んでる文字をじっと眺めている。
「牧野って、字、綺麗だよなー」
習字の先生が書くみたいな、ちゃんとした大人の字。顔に似合わない感じ? もっと男らしい字を書きそうなのに――。
「あー、小学校の頃に書道教室通ってたからな。そう言えば、お前は超きたねー字書くよな。顔はわりかし綺麗系なくせに。そのギャップ、マジ笑えるぜ」
顔を上げずに牧野が言った。いつも通り口が悪いよな。
「ウルセーな、ほっといてよ」
字が下手なのは自覚してるし、ちょっとコンプレックスだったりするんだけど――。
「だから、ウルサイって思うなら帰れって」
牧野がシッシっていう感じで手を振った。失礼だなぁ、俺のこと犬と間違ってない?
「だって、一緒に帰る奴いないんだもん」
「何言ってんだよ……誘われてたのに、帰らねーからだろが」
牧野は相変わらず下を向いたまま、日誌を書いていた。
「えー? 俺は牧野と帰りたかったんだよ」
俺がそう言うと、牧野の身体がビクッとした。なんだよ……一緒に帰るの、嫌なのか?
「ちくしょー、間違えちまったじゃん。お前、いいかげん帰れよ、気が散るんだよ!」
牧野が日誌を書いていた手を止め、超不機嫌な顔をして俺を睨んだ。
それでも、俺はめげないのだ。
「なー、まきのぉー、帰りにラーメン食おうぜー。俺、奢るからさあ」
俺がそう言ったら、一瞬だけ牧野の表情が柔らかくなった。でも、すぐに、下を向いて日誌の続きを書き始めた。
「どうすっかなー」
牧野の声のトーンがちょっとだけ変わった。牧野は食い物に弱いはずだから――。
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