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放課後の教室で 2(藤田)

   教室を見回してみると、数人残っていたクラスメイトも皆いなくなっていた。広い教室には牧野と俺だけ。 「なぁ、牧野、ところでさ、お前の好きなのって誰なんだよ?」  俺は誰もいなくなったタイミングで聞いてみた。ずっと聞いてみたかったんだ。知りたいような知りたくないようなこと。  「なんかお前の話、あちこち飛び過ぎなんだよな……」  牧野が呆れたように言った。だって、さっきまでは他の人がいたからさ。 「いいじゃん。教えてよー。俺のも教えるからさ」 「誰だっていいだろ。お前には教えない」  すぐに牧野が答えた。つれない答えだなぁ、友達じゃん……。 「何だよそれー。ケチくさいなぁ」  牧野がムッとした顔をして、日誌を書き続けた。もうそろそろ出来上がりだろうか? 「聞いてどうすんの?」  しばらく黙っていた牧野がそう言った。何かドキドキする……。 「どうすんのって、友達同士ならそんな話するじゃん、普通。ね、教えてよー」  俺が食い下がったら、牧野が一瞬顔を上げて、すぐにまた下を向いてしまった。 「俺、お前の事、友達だと思ってねーもん」  なんだよ、友達だって思ってたの俺だけなんだ? 悲しすぎるんだけど――。と、まぁ、口の悪い牧野の言いそうな事だよな。こんなことで、めげてはいられない。 「それってかなり寂しいんだけど? それでもいいからさぁ、教えてよ。誰?」 「ウザいな、お前……女子か?」  口が悪いと思ってたけどさ、そんな言い方しなくたっていいのに――。ポジティブな俺も、ちょっとめげるじゃん。そして、女子にメチャクチャ失礼だぞ、牧野。  また沈黙が続いた。その間も俺は、ずっと牧野のこと眺めていた。 「知りたい?」  牧野が急に顔を上げて俺を見た。 「え? 何を」  俺がビックリして、思わずそう答えたら、牧野は片眉をあげながらため息をついた。 「何をって、ボケ。お前が聞いてきたんだろ? 好きな奴が誰かって」  牧野が日誌を閉じて、席を立った。 「……そうだけどさ」  教えてくれる気になったのかな? と思いながら、黙って待っていると――。 「俺の好きなのって、藤田」  牧野がそう言って俺をジッと見つめた。胸がキュンってしたけど、まさかだよね。 「あぁ、1組の藤田実月ちゃんか? そっか、あの子可愛いもんね」  俺がそう答えると、牧野が呆れたような顔をした。 「違うって。俺、あーいうの嫌いだぜ。アホみたいで」  女子がよくやる可愛らしい仕草をまねしてから、牧野が嫌そうに首を振った。 「えー、牧野ってキツイよなー。そういうの可愛いじゃん、天然っぽくて」  俺がそう言ったら、牧野がプッと吹き出した。 「天然なんてお前だけで充分だぜ」  まったく失礼極まりないよ、牧野。 「なにそれ。じゃさ、3年の藤田由希先輩?」 「それって、お前の姉貴だろ? アホか。姉貴に先輩とかつけるな」 「だって他には……」  他にも「藤田」が居たかどうか考えていると、牧野が日誌で俺の頭を叩きながら続けた。 「俺と同じクラスの藤田」 「え……藤田って女いないじゃん」  胸がドキドキしている。もしかして、もしかして……マジですか? 「お前ね、俺にやられたくなかったら、俺が職員室に行ってる間に帰れっての」  牧野がプンプン怒りながら教室を出て行った。

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