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放課後の教室で 3(牧野)
まったく、今日の藤田は、やけにしつこい。さっさと帰ればいいのに俺の事待っているらしくて落ち着かない。挙句の果てに俺の好きな人が誰か聞いてきた。
あのな、それって俺がずっと黙ってようって心に決めていた事なんだけど――。
しつこく聞かれるのが面倒だったから、俺は言ってやった。同じクラスの『藤田』だって。お前だよ、お前。これで満足したか? 好きな奴の名前聞いて……。
俺たちの友情も今日で終わりかもな。
しつこく聞かれたからって言うべきじゃなかった、ってすぐに気付いたのに、最後には『俺にやられたくなかったら、先帰れ』とか言って教室を出てきてしまった。
短気は損気……だよな。
先生に日誌を渡しながら、明日からどうする? なんて密かに悩んでいた。
まぁ、冗談だって笑ってやればいいか。
明日会ったら、「本気にするなんてバカじゃねーの」って言ってやろう。そうすればまた、普通の友達に戻れるはずだ。
いや、あいつのことだ、「やられる」って意味を理解してないに違いない。
そう思ったら気分が軽くなった。いつもそうじゃないか。俺がどんな冗談言ったって、きつい事言ったって、あいつはサラッと流してくれる。ってか、超天然だから、翌日には忘れてるかもしれない。
さて、教室に戻って、さっさと帰る用意しよう。
そして、教室に戻り、ドアを開けると……。
「マジかよ……」
なんと、藤田がさっきと同じ場所に座ってるじゃないか。
なんだよ? 帰ってねーじゃん。これってどういう事? あまりにも驚いて腰が抜けてるとか?
いや、待てよ藤田の事だ、「さっきのってどういう意味?」とか聞いてくるのかもしれない――。
「よー、牧野。終わったなら帰ろうぜ」
藤田がいつもと同じように、少し惚けたような声で言った。
「あのな、帰ろうぜって、お前どういうつもり?」
「えー? 一緒に帰るつもり。いいでしょ?」
まったく普通の藤田だった。俺の一世一元の告白?(させられたんだが)を無にする気なのかも。
「まぁ、いいけど」
そうか、藤田のことだ、俺が言った言葉の意味、よく分かってないに違いない。
それで良いんだ。その方がありがたい。
俺は鞄を持って、藤田と一緒に教室を出た。
「ラーメン奢ってくれんだろ?」
校門を出て駅に向かう途中で藤田に声をかけた。喋り過ぎる藤田はウザいって思うけど、黙ったままの藤田は、何を考えているかわからなくて少し怖い。
「え? ラーメン食べるの?」
「奢るっていったじゃん、お前」
「だって、牧野、俺とやるっていったじゃん。やらないの? それとも、ラーメンの後?」
「はぁ?」
なんだよ、この反応? ちゃんと聞こえてたんじゃないか……。おい、藤田、お前はなにをやると思ってるんだ?
「なぁ、藤田、聞くけどさ、お前の好きな奴って誰なんだよ?」
そう言えば、俺が言ったら教えてくれるって言ってたよな。
「ん、聞きたい?」
何故か藤田がメチャメチャ嬉しそうな顔をして言った。妙に照れる感じ……。
「まぁな」
「牧野だよ。1年の牧野ミドリじゃないよ。俺と同じクラスの牧野」
藤田がサラッとそう言い放った。な、なんだよ、マジですか?
「今日さ、親父とお袋、帰るの遅いんだよ。姉貴も彼氏ん所行ってるはずだし。ね、牧野、俺んち来ない?」
藤田が言った。
「え……」
「おれさぁ、やられるより、やりたいかもなぁ」
藤田が俺の肩に手をまわしながらそう言った――。
おわり。
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