3 / 36

放課後の教室で 3(牧野)

 まったく、今日の藤田は、やけにしつこい。さっさと帰ればいいのに俺の事待っているらしくて落ち着かない。挙句の果てに俺の好きな人が誰か聞いてきた。 あのな、それって俺がずっと黙ってようって心に決めていた事なんだけど――。  しつこく聞かれるのが面倒だったから、俺は言ってやった。同じクラスの『藤田』だって。お前だよ、お前。これで満足したか? 好きな奴の名前聞いて……。  俺たちの友情も今日で終わりかもな。 しつこく聞かれたからって言うべきじゃなかった、ってすぐに気付いたのに、最後には『俺にやられたくなかったら、先帰れ』とか言って教室を出てきてしまった。  短気は損気……だよな。  先生に日誌を渡しながら、明日からどうする? なんて密かに悩んでいた。  まぁ、冗談だって笑ってやればいいか。 明日会ったら、「本気にするなんてバカじゃねーの」って言ってやろう。そうすればまた、普通の友達に戻れるはずだ。  いや、あいつのことだ、「やられる」って意味を理解してないに違いない。 そう思ったら気分が軽くなった。いつもそうじゃないか。俺がどんな冗談言ったって、きつい事言ったって、あいつはサラッと流してくれる。ってか、超天然だから、翌日には忘れてるかもしれない。    さて、教室に戻って、さっさと帰る用意しよう。  そして、教室に戻り、ドアを開けると……。 「マジかよ……」  なんと、藤田がさっきと同じ場所に座ってるじゃないか。  なんだよ? 帰ってねーじゃん。これってどういう事? あまりにも驚いて腰が抜けてるとか?   いや、待てよ藤田の事だ、「さっきのってどういう意味?」とか聞いてくるのかもしれない――。 「よー、牧野。終わったなら帰ろうぜ」  藤田がいつもと同じように、少し惚けたような声で言った。 「あのな、帰ろうぜって、お前どういうつもり?」 「えー? 一緒に帰るつもり。いいでしょ?」  まったく普通の藤田だった。俺の一世一元の告白?(させられたんだが)を無にする気なのかも。 「まぁ、いいけど」  そうか、藤田のことだ、俺が言った言葉の意味、よく分かってないに違いない。  それで良いんだ。その方がありがたい。  俺は鞄を持って、藤田と一緒に教室を出た。 「ラーメン奢ってくれんだろ?」  校門を出て駅に向かう途中で藤田に声をかけた。喋り過ぎる藤田はウザいって思うけど、黙ったままの藤田は、何を考えているかわからなくて少し怖い。 「え? ラーメン食べるの?」 「奢るっていったじゃん、お前」 「だって、牧野、俺とやるっていったじゃん。やらないの? それとも、ラーメンの後?」 「はぁ?」   なんだよ、この反応? ちゃんと聞こえてたんじゃないか……。おい、藤田、お前はなにをやると思ってるんだ? 「なぁ、藤田、聞くけどさ、お前の好きな奴って誰なんだよ?」  そう言えば、俺が言ったら教えてくれるって言ってたよな。 「ん、聞きたい?」  何故か藤田がメチャメチャ嬉しそうな顔をして言った。妙に照れる感じ……。 「まぁな」 「牧野だよ。1年の牧野ミドリじゃないよ。俺と同じクラスの牧野」  藤田がサラッとそう言い放った。な、なんだよ、マジですか? 「今日さ、親父とお袋、帰るの遅いんだよ。姉貴も彼氏ん所行ってるはずだし。ね、牧野、俺んち来ない?」  藤田が言った。 「え……」 「おれさぁ、やられるより、やりたいかもなぁ」  藤田が俺の肩に手をまわしながらそう言った――。 おわり。  

ともだちにシェアしよう!